イスラム土葬墓地計画地近くの山林で、小内原集落の水源地について説明する渡辺雄爾さん=11月中旬、日出町
落ち葉の積もる一角をフェンスが囲っていた。扉には南京(なんきん)錠。向こう側の地面が「キュー」と甲高く鳴っている。狭い空間を水が走り抜けるような音だ。
11月中旬、日出町南畑のイスラム土葬墓地計画地から北東550メートルに位置する町内の山林。
地中に湧水を集める構造物があり、そこから町外へ延びたパイプが生活用水を運び出しているという。終着点は杵築市山香町久木野尾(くぎのお)の「小内原(こないばる)集落」だ。
「この水源は命の源じゃ。こっちの生活も考えてもらわんと」。杵築市議の渡辺雄爾さん(70)が強い口調で訴える。
土葬墓地による水質汚染の懸念は足元の日出町内だけでなく、隣の杵築市側でも起きた。
市町境に位置する計画地の近くに、日出側、杵築側のそれぞれが水源を持つためだ。
ただ―。
事業者のイスラム教団体「別府ムスリム教会」(別府市)への反対運動で、住民同士は必ずしも「共闘」してきたわけではない。
2022年に杵築市側の住民が市議会に出した反対陳情書から思いの一端が垣間見える。「自分の区域で不可能な計画を隣の町に押し付けることは常識で考えることはできません」
押し付ける―とはどういうことか。
■二重、三重の被害者意識消えず
墓地は当初、日出町南畑の別の場所で計画されていた。南畑にある高平(こうびら)区は自分たちの水源を守ろうと代替地を提案し、別府ムスリム教会も同意した。
そこが、小内原集落の大切にする水源地のそばだった―。
杵築市側の視点では「厄介な問題」が持ち込まれたように映ったという。
別府市の団体がわざわざ市外の土地で計画しなければ…。日出町の住民が移転案を出さなければ…。町役場が問題の拡大を見通し、指導してくれていたら…。
昨年の町長選をきっかけに計画が頓挫して1年以上たった今も、二重、三重の被害者意識は消えない。
自民党県連杵築市支部が11月中旬、一連の騒動を巡り、政府に出した要望書には、経緯説明の文中に厳しい文言が交じっている。
「日出町が独断的に計画を進めたことで、問題が深刻化した」
■「高平ヒタイ」水の確保に苦労
小内原集落の人々は水への思い入れが強い。確保に苦労してきた歴史があるからだ。
現在の水源を見つけたのが約60年前。パイプを3キロほどつないで各家庭に引き込み、湧水そのままを炊事や洗濯に使っている。
住民の一人を訪ねると、水源地の所在地は「高平ヒタイ」と呼ばれると教えてくれた。「つまり高平のおでこみたいな感じや。高平の集落の真上に位置する」
小内原集落と高平区は住民同士が親戚に当たるなど元々、近い関係でもある。
高平区は代替地を提案した時、小内原集落の水源地の存在を考えなかったのだろうか―。
「高平の人は行かん場所。知らんじゃったと思うよ。今さら誰が悪かったとか、あんまり触れん方がいい」。複雑な心境をのみ込むようにして話した。