オンラインでインタビューに応じるスタンフォード大の上田薫・研究員兼学芸員=6日
1945年8月15日に終戦が告げられ、「戦後」が始まった。戦争体験者は年々少なくなり、当事者から話を聞くことが難しい時代を迎えつつある。「遠ざかる戦争」の記憶と教訓をどうつないでいくか。戦争にまつわる資料のデジタルアーカイブ化に取り組むスタンフォード大(米カリフォルニア州)の上田薫・研究員兼学芸員に、当時の状況を学ぶ意義や次世代への継承の在り方について尋ねた。
―戦後80年となり、戦争の記憶の風化をどう防ぐかが課題になっている。
「生の声を聞けるのが一番いいが、当時の日記や写真といった一次資料に触れることで、それに近いものを感じることができると考えている。例えば大分予科練資料館にあった日記やノートには、日々の訓練や出来事が事細かに記されていた。当時の若者が書いたものを同世代の今の学生が見た時に『こうした思いをして生きてきた時代があるんだ』と胸に響くところは多いだろう」
―どうすれば多くの人に伝わるか。
「人によって、読むのがいいか、見るのがいいか、聞くのがいいかは違うので、包括的にいろんな媒体で伝えていかなければと感じている。書かれたものにしろインタビューの映像にしろ、その作者の解釈やバイアス(偏り)が入るのは気を付けなければならない。多角的に吸収して理解を深めるのが一番だ」
「資料や体験談に触れ、平和を推進するために、特に若い人には『何をすべきか』を自分自身で考える力を養ってもらいたいと思っている」
―当時のことを知ることで何を学べるか。
「いろんな資料を見ていると、戦争は軍事面だけでないと強く感じる。菓子のパッケージや子ども向けのすごろくにも軍国主義的なものが表れる。メディアにも政府の意向を反映した規制や、戦争をあおるような記事が出てくる」
「言論統制やプロパガンダ、文化・教育への関与、食糧難など、戦争にはさまざまな側面がある。(太平洋戦争に向かった)1940~41年の日本社会を考えると、戦争に反対できる土壌はなかったと思う。そこに至るまでに何ができただろうか、と考えるのが重要だ」
―世界では今も戦争が起きている。過去の教訓を生かすことはできるのか。
「残念ながら人類の歴史で全く平和な時期はあまりなかっただろう。平和主義でいたいと思っても周りの状況は常に変化する。それにどう対応して平和を維持するかというのは綱渡り的なところもあると思う」
「今が(第2次世界大戦への道を歩んだ)1930年代に似ていると考える人は非常に多い。民主主義の脆弱(ぜいじゃく)さというか、排他的な動きや、声の大きい人が意見を押し切るような風潮が、いろんな国で出てきていると感じている」
「知らないうちに誘導されて自分もそうした動きの歯車の一つになってしまうことはよくある。簡単に流されない力を備えることが大事だ。先ほど日本の40年代の話をしたが、そうなる前に『ちょっと待て。これでいいのか』と一人一人が考えることが今の私たちにとって大切ではないか」
うえだ・かおる 神戸市出身。1990年にMBA(経営学修士)、2015年に歴史考古学の博士号を取得。16年にスタンフォード大フーバー研究所入り。大分市の大分予科練資料館(昨年閉館)や県護国神社の所蔵資料のデジタル化も計画している。