危険運転致死傷罪の見直しを議論する法制審刑事法部会が開かれた庁舎=5日、東京・霞が関
法務省が見直しを検討している危険運転致死傷罪について、法相の諮問機関である法制審議会刑事法部会は5日、東京・霞が関で第2回会合を開いた。飲酒事故の新たな適用要件として浮上している体内アルコール濃度を巡って議論した。呼気1リットル中0・30ミリグラムや0・50ミリグラムを基準にする意見が出た一方、酒気帯び運転の0・15ミリグラムを求める声もあったという。
刑法学者や法曹三者、被害者遺族ら委員10人が出席した。議事は非公開。
同省によると、この日はアルコールの影響に詳しい大阪大医学部の松本博志教授(法医学)が、世界保健機関(WHO)の基準を基に医学的な説明をした。
呼気1リットル中0・30~0・50ミリグラムで「警戒心」「分別ある判断能力」「忍耐力」などが低下し、0・55ミリグラムを超えると「平衡感覚」や「運動機能」が下がると指摘した。「この症状は人種、年齢、性別、飲酒習慣を問わず当てはまる。酒に強い、弱いは分解能力の違いでアルコールによる影響の差を意味するものではない」と言及したという。
ヒアリングを踏まえて、最長で拘禁刑20年の危険運転致死傷罪を無条件に適用する「数値」について委員らで意見を交わした。
医学上の知見から0・30ミリグラムを妥当とする委員のほか、酒気帯び運転と同じ数値、身体症状が強く出る「0・55ミリグラム以上」を推す人もいたとみられる。中には、そもそも数値基準に慎重な委員もいたという。
現行の条文は「アルコールの影響で正常な運転が困難」と規定している。要件が分かりにくいため、多量の酒を飲んだ加害ドライバーに適用されず、遺族が「納得できない」と声を上げるケースが起きている。
数値基準を導入したとしても、体内のアルコール濃度は時間がたつと低下するため、捜査の手法などに課題は残るとみられる。
次回の第3回会合は今夏を予定。大分市の時速194キロ死亡事故(2021年2月)で適用基準の不明確さが浮き彫りになった高速度類型について、専門家へのヒアリングをして数値基準を議論する。
<メモ>
警察庁の統計によると、飲酒運転の車やバイクが起こした死亡事故は昨年、全国で140件(前年比28件増)。このうち約半数の75件はドライバーから呼気1リットル中0・25ミリグラム以上のアルコールを検出した。23件は酩酊(めいてい)状態だった。一方で、危険運転致死罪の「アルコールの影響で正常な運転が困難」での送検は10件だった。