危険運転致死傷罪の見直しを検討する法務省=東京・霞が関
法務省が見直しを検討している危険運転致死傷罪について、国東市武蔵町の佐藤悦子さん(73)が共同代表を務める「飲酒・ひき逃げ事犯に厳罰を求める遺族・関係者全国連絡協議会」は29日、鈴木馨祐法相に要望書を出す方針を明らかにした。体内のアルコール濃度を新たな適用基準にする法改正に賛同しつつ、「厳罰を避けるため、基準値を下回るまで逃走する人が増える恐れがある」と指摘する。
現行の危険運転致死傷罪は、対象となる飲酒運転を「アルコールの影響で正常な運転が困難な状態」と定めている。表現が曖昧なため、多量の酒を飲んで死傷事故を起こしたのに適用されないケースが各地で続発。遺族が「納得できない」と批判している。
法務省は要件を明確にするため、例えば「呼気1リットル中0・25ミリグラム以上」といった体内のアルコール濃度で線引きをする「数値基準」の導入を考えている。
協議会は「適用の可否を判断しやすくなる」として方向性に賛同する一方、改正論議での検討課題を要望書にまとめる。
アルコール濃度は時間がたつと低下することから、適用を免れようと「被害者を救護せずに逃走する人が増える可能性がある」と懸念。基準値を下回ったとしても、危険運転を前提とした捜査を尽くすべきだと強調する。
協議会は2005年8月に結成。飲酒運転や飲酒ひき逃げで家族を失った全国各地の被害者遺族ら約30人で構成している。
共同代表の佐藤さんは03年11月、飲酒ひき逃げ事件で、次男の隆陸(たかみち)さん=当時(24)=を亡くした。道路を歩いていた隆陸さんは、飲酒運転の車にはねられ、死亡した。加害者は逃走し、約4時間半後に警察に出頭した。酔いがさめるのを待っていたとされる。
要望書は31日、法務省で鈴木法相に手渡す予定。佐藤さんは「逃げた方が刑が軽くなると考える加害者が出かねない。基準値未満だと危険運転にならないと誤ったメッセージにならないように、しっかりとした条文を作ってほしい」と訴えている。
法改正論議は、21年2月に大分市で起きた時速194キロ死亡事故などが契機となった。鈴木法相は今月28日、法改正を法制審議会(法相の諮問機関)に諮問することを発表した。高速度事故でも、一定の速度超過以上を対象とする数値基準を協議する。