【時速194キロ死亡事故】大分地裁判決の要旨

判決公判のため、大分地裁に入る遺族ら=28日
判決公判のため、大分地裁に入る遺族ら=28日

 時速194キロ死亡事故の裁判員裁判で、自動車運転処罰法違反の「危険運転致死罪」の成立を認めた大分地裁判決の要旨は次の通り。
 【主文】
 被告を懲役8年とする。
 【罪となるべき事実】
 被告は2021年2月9日午後10時57分ごろ、乗用車を運転し、大分市大在の片側2車線道路の第2通行帯(右側車線)を走行。進行を制御することが困難な時速194キロの高速度で交差点に進入したことにより、対向車線から右折してきた乗用車に衝突し、運転していた男性を出血性ショックにより死亡させた。
 【争点】
 危険運転致死罪が成立するかどうか。同罪の類型のうち、被告の運転が「進行の制御が困難な高速度」に該当するか、あるいは「車の通行を妨害する目的」があったと認められるかが問題となる。
 【関係証拠の評価】
 一般道のアスファルト舗装の耐用年数はおよそ10年といわれている。事故現場の交差点までの区間は04年以降、改修舗装歴がなく、補修を要しない程度のわだち割れが交差点付近に存在していたと推認できる。事故から1カ月後の実況見分調書には路面が平たんとの記載があるが、特段の異常がなかったことを意味するに過ぎないと考えられる。
 捜査機関は今年5月、捜査車両を使い、車両の揺れやハンドル操作を計測する走行実験をした。弁護人の主張する通り、事故から3年以上が経過して路面状況が当時と同じとはいえず、被告の車とも同種ではない。
 このことを考慮すると、実験結果は事故当時の車両の揺れや被告の操作状況を具体的に推認し得るものではない。一般的に自動車は速度が速くなると揺れが大きくなり、ハンドル操作の回数が多くなる傾向がある、という点のみ証拠価値を肯定できる。
 証人の視能検査学者が示した所見によれば、一般的に高速度や夜間の運転は、運転者の視力が下がったり視野が狭くなったりする傾向が認められる。証人の専門性に疑いはなく、これを採用し得ない合理的な事情はない。
 【進行の制御が困難な高速度に該当するか】
 「進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」とは、具体的には、道路の状況や車両の性能、貨物の積載などの客観的事実に照らし、あるいはハンドルやブレーキ操作のわずかなミスによって車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性があると認められる速度での走行をいう。
 現場の交差点付近にはわだち割れがあったと推認できることや、夜間に法定速度の3倍以上で車両を走行させたこと、住宅街や工場地帯に所在し交差点もある一般道であること、被害者の車以外にも複数の車が走っていたことなどを考慮すれば、被告がこのような高速度で走行を続ける場合、直線であっても、路面状況から車体に大きな揺れが生じたり、見るべき対象物の見落としや発見の遅れが生じたりし、ハンドルやブレーキ操作のわずかなミスが起こり得ることは否定できない。
 被告の車の最高速度が250キロであることはエンジンの性能を示しているに過ぎず、走行安定性が格別に高かったことをうかがわせる事情は見当たらない。ひとたび操作ミスが起これば、瞬時に車線を逸脱し、立て直しが困難になって蛇行やスピンをして事故が発生する事態が容易に想定できる。
 証人のプロドライバーは、同種の車が現場の道路を時速194キロで走行する際に操作ミスが起きたと仮定した場合、車両の動きについてこの想定と同趣旨の供述をしており、首肯できる。
 弁護人は、被告の車は道路に沿って直進走行できていたと主張する。被告は、現場を含めた一般道を時速170~180キロで走行したことが複数回あるが、進路から逸脱したことも操作に支障が生じたこともなかったと供述している。
 しかし、現実に進路から逸脱していなくても、わずかな操作ミスで進路から逸脱して事故を発生させる実質的危険性があると認められる速度での走行である限り、「進行の制御が困難な高速度」に該当する。被告の供述は、それまで操作ミスをしたことがなかったと言うに過ぎない。
 被告が法定速度を順守した適切な運転をしていれば事故を確実に回避できたと認められる。本件の事故は、被告の運転行為の危険性が現実化したものであり、因果関係があるといえる。著しく速い速度で走行していることなどを認識しながら危険運転行為に及んだと認められ、罪の故意に欠けるところはない。
 従って、危険運転致死罪が成立する。
 【通行を妨害する目的があったといえるか】
 「通行を妨害する目的」とは、相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することをいい、未必的な認識があるだけでは足りないと解釈するのが相当である。
 事実関係や証拠によれば、被告は自身の前後や対向車線に他の車両はないとの認識でアクセルを強く踏み込み始め、青信号を確認した後、交差点に進入している。右折してきた被害者の車に対して積極的に通行を妨げる動機があったことをうかがわせる事情はない。
 検察側は、右折車が来ることが想定される道路だったことや、時速194キロの走行は右折車と衝突するか急な回避行動を取らせるしかない行為であることなど、右折車が存在した場合に通行の妨害を来すのが確実だという認識が被告にはあったとし、妨害目的が認められると主張する。
 しかし、通行妨害目的の成立要件は、客観面で通行妨害の危険性が存在していることを前提とした上で、主観面で相手の通行を妨げることを積極的に意図している場合に限定する点に意義があり、未必的であってもよいのか疑問が残る。
 右折車の通行を妨害するのが確実だと被告が認識していたのであれば、事故により自身の生命や身体を危険にさらすことも十分認識し得たことになる。そのような危険を冒してまで高速走行に及ぶ意思があったとは認め難い。
 弁護人も主張する通り、場合によっては交差点を右折する車が急ブレーキをかける必要が生じる可能性がある、と被告は考えていたと認定し得るにとどまる。「車の通行を妨害する目的」があったとは認められない。
 【量刑の理由】
 法定速度の3倍以上もの常軌を逸した高速度で走行し、被害者が受けた悲惨な状況からも危険性の高さは明らかである。常習的に高速走行に及び、マフラー音やエンジン音、加速の高まりを楽しむためという身勝手で自己中心的な意思決定は厳しい非難に値する。
 落ち度のない被害者の生命が奪われた結果の重大性を前提にすると、遺族が厳重処罰を求めていることは十分理解できる。
 もっとも、通行妨害目的は成立せず、無免許運転など併合罪となる道交法違反も犯していない。以上の諸事情に照らすと、検察側が主張する量刑傾向の中で、中程度からやや重い部類に属するといえる。
 被告は常習的な高速走行など自己に不利益な事実を率直に認め、事故現場での献花を続けるなど反省の態度を示している。まだ若年であることや、起訴から公判までの期間が長引いて不安定な状態に置かれ続けたことなども考慮し、量刑を決定した。

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