危険運転致死罪への訴因変更の請求について、記者会見する佐々木一匡さんの妻多恵子さん(手前)ら=10日午後、栃木県庁
宇都宮市の国道で2023年2月、車を時速160キロ超で運転しバイクに追突する死亡事故を起こしたとして自動車運転処罰法違反(過失運転致死)罪で起訴され公判中の男(21)について、宇都宮地検は10日、より法定刑の重い危険運転致死罪に訴因変更するよう宇都宮地裁に請求した。同罪を巡っては大分市の時速194キロ死亡事故でも、検察は当初の判断を覆して切り替えた経緯がある。
地裁が変更を認めれば、裁判員裁判で審理されることになる。地検は変更した理由を明らかにしていない。
宇都宮市の事故で死亡したのはバイクを運転していた同市の会社員佐々木一匡(かずただ)さん=当時(63)。妻多恵子さん(60)ら遺族が、訴因変更を求める要望書や7万人超の署名を地検などに提出していた。地検が栃木県警に補充捜査を指示し、事実確認を進めた。
多恵子さんは、同市で記者会見し「ほっとしている。主人の無念を晴らす一点で、160キロが危険だと署名活動を始めた」と話した。
取材に応じた地検の古賀由紀子次席検事は「公判では、立証を尽くす」と述べた。
起訴状によると、男は23年2月14日午後9時35分ごろ、新4号国道で先行する車などの通行を妨害する目的で、制御困難なスピードで走行。佐々木さんのバイクに追突し、死亡させたとしている。過失運転致死罪を予備的訴因とした。
県警は男を現行犯逮捕。23年4月に地裁で初公判が開かれたが、第2回公判の期日が指定されていなかった。
大分市の事故では、大分地検は当初、時速194キロで車を運転していたとされる加害ドライバーを過失運転致死罪で在宅起訴した。遺族が署名活動を展開した後、地検は危険運転致死罪に変えた。
<メモ>
大分市の事故は2021年2月9日深夜、同市大在の県道(制限速度60キロ)で発生した。当時19歳だった男(23)が乗用車を時速194キロで走行させ、交差点を右折中だった乗用車に激突。乗っていた同市坂ノ市南、会社員小柳憲さんを出血性ショックで死亡させた―とされる。
■「支え合ってきた」大分の遺族安堵
「危険運転致死罪に変更されるように心から願っていた。本当に良かった」
大分市の時速194キロ死亡事故の遺族、長(おさ)文恵さん(58)は、宇都宮市の高速度事故に宇都宮地検が危険運転を適用したことを知り、安堵(あんど)した。
同市の遺族、佐々木多恵子さん(60)とは「毎日のように電話をして、支え合ってきた」と明かす。
2人は家族を失った失意の中、法の適用にも翻弄(ほんろう)される苦しみを味わってきた。
長さんは2021年2月、弟の小柳憲さん=当時(50)=を大分市の事故で亡くした。過失運転致死罪での起訴に納得できず「不注意の事故ではない」と声を上げ、大分地検が22年12月、危険運転致死罪に切り替えた。
宇都宮市で悲劇が起こったのは2カ月後だった。時速160キロを超える車が、佐々木さんの夫・一匡さんの命を奪った。危険運転致死罪で起訴されず、「捜査機関に任せたらきちんと対応してくれると思っていたのに…」とがくぜんとした。
他の遺族を通じて2人が知り合ったことがきっかけで、23年7月に「高速暴走・危険運転被害者の会」が発足。長さんと佐々木さんが共同代表を務める。
悪質な事故を対象に、01年に制定された危険運転致死傷罪。全国各地で高速度だけでなく、飲酒運転や赤信号無視の事故でも曖昧な運用が続いている。被害者の会が「法を適切に使ってほしい」と訴える中、法務省は今年2月から有識者検討会を開いて、構成要件を明確にする条文の見直しを協議している。
長さんは「遺族は苦しんでいる。大分と宇都宮の事例を全国の検察で共有し、しっかりと捜査をする態勢を取ってほしい」と語った。
大分の裁判は11月5日に大分地裁で初公判を迎える。佐々木さんも来県し、傍聴する予定という。