ブリ養殖と稚魚のモジャコ漁を手がける冨田俊一さん。「辞めるつもりはない。ただ、今の状況が続けば気持ちがあっても続けられない」=佐伯市蒲江の入津湾
【佐伯】佐伯市のブリ養殖業者が苦境に頭を悩ませている。近年、生産コストの大半を占める飼料の値段が高騰する一方、取引価格の低迷で採算割れが続く。特殊な商慣行もあるためコスト転嫁しにくく、関係者は「価格決定に生産者の声を反映させる方法を」と訴えている。
ブリ養殖はコストの約7割を餌代が占める。県漁協上入津支店(同市蒲江)によると、配合飼料の価格は2022年9月時点で1キロ当たり197円だったが、今年7月末には約2倍近い350円を超えた。中国での需要増や円安などが要因とみられる。
1匹のブリを1キロ成長させるコストは現状の餌代で1200円以上。一方、ブリの取引価格は1キロ800円前後を推移する状態が続く。5キロのブリを1匹売るたび、2千円以上の赤字になる計算だ。
同支店管内のブリ養殖業者は13軒。それぞれ約4万匹を出荷しており、赤字額は数千万円に上る見通し。冨田水産(蒲江畑野浦)の冨田俊一代表(64)は「蓄えを切り崩して何とか耐えている。新型コロナウイルス禍に受けた融資の返済もあるのだが…」と話す。
水産業界は伝統的に市場の卸売業者や売買参加者が価格を決める買い手有利の世界。漁業関係者は「強気な値段を示せば他の産地に乗り換えられる。在庫を抱えることもできず、文句が言えない」と明かす。
危機感を抱いた生産者らは昨年末に「入津湾のありかた協議会」を設立。配合飼料メーカーも含めて協議し、他の産地と連携する道を模索している。
小野崇樹支店長は「餌代が安くなる見通しはなく、コスト転嫁しないと事業者はやっていけなくなる。全国の産地が足並みをそろえ、最低販売価格を設定する必要がある」と強調した。