街頭で支持を訴える参政党の神谷宗幣代表=2025年7月12日、佐賀県鳥栖市
投開票日が20日に迫る参院選で「日本人ファースト」を掲げる参政党に勢いがある。報道各社の情勢調査でも議席増が報じられている。世界ではトランプ米大統領をはじめ、いま「自国第一主義」を掲げる勢力が台頭している。どのような結果になるかは、有権者の判断にかかっている。ただ、自国第一主義の選択には、今の憲法の下での日本の戦後の歩みと、違った道を進んでいく覚悟も問われていると思う。
既存の政党は参政党を批判するだけではなく「なぜ参政党が少なくない有権者から共感を得ているのか」を真剣に考えるべきだ。もちろん、その問いは私たちメディアにも向けられている。
▽これまでも「ファースト」はあった
政治家や政党が、その国に生きる人々のことを第一に考えるのは、ある意味、当たり前のことだ。国会議員に「国民のことを最優先に考えていますか」と聞けば、ほとんどが「もちろんだ」と答えるだろう。
少し前のことなので読者の方々は覚えていないかもしれないが、かつて「国民の生活が第一」という党名の政党があった。2012年、旧民主党政権と自民、公明両党の協力の下で進んだ「税と社会保障の一体改革」に伴う消費税増税に反対し、当時、民主党に所属していた小沢一郎衆院議員(現立憲民主党)らが離党し、立ち上げた政党だ。年金の給付水準の維持や、民主党政権ができなかった「子ども手当月額2万6千円」の実現などを提唱したが、その後、党名変更の末、合流で消滅した。
2016年、小池百合子東京都知事が掲げた「都民ファースト」に共鳴した都議らが発足した「都民ファーストの会」は、子育て政策の充実や防災の強化などを掲げた。国政進出に向けた政治団体「ファーストの会」も物価高対応や子育て政策を掲げていた。いずれも人々の暮らしを支えることに軸足を置いた。
参政党も今回の参院選で、減税や社会保険料削減で国民の手取りを増やすことや、子ども1人につき月10万円の教育給付金を支給する子育て政策の充実を打ち出すなど共通点はある。
▽トランプ氏を手本に
参政党がこれまでの「ファースト」政党と最も違うのは、まず、排他的とも言える外国人政策にある。さらに「脱・脱炭素政策」など、国際協調路線の外交政策を否定的に考えていることだ。
こうした主張は、私がワシントン支局で記者をしていた際に取材した第1次トランプ米政権と重なる。トランプ大統領が一貫しているのは、内政では「国境の壁」建設に代表されるような、差別をあおる排他的な移民政策だ。外交では温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱に象徴されるように、自国の利益を重視し、国際協調を軽視する姿勢だ。
参政党の神谷宗幣代表は、街頭演説や討論会でトランプ氏をたびたび引き合いに出している。
選挙が始まった3日の第一声では「いま世界でグローバリズムにあらがおうという政治の流れが生まれている。米国ではトランプ大統領もこの流れで生まれた。欧州でも南米でもそういう政党が力を持っている。課題意識はわれわれと一緒だ」と訴え「まず自国民の生活を守る」と力説した。
前日2日の日本記者クラブの党首討論会では「トランプ政権が進めていることは米国民の国益を追求している。わが国に当てはまるものはたくさんある」と強調した。
トランプ政権を意識した政策も目立つ。党首討論会では、石破茂首相に対し「(日本は)トランプ政権に代わってから全く足並みがそろっていない」と批判。電気自動車(EV)政策や、再生エネルギー政策など脱炭素政策からの転換を迫った。さらに、「多様性・公平性・包括性(DEI)政策も(トランプ氏は)やめると言っているのに日本はやめない。不法移民も取り締まらず、薬物の取り締まりも緩い」とトランプ政権をお手本にするよう、石破氏に求めた。
▽他党が考えるべきこと
既存政党は一様に参政党に警戒感を抱いている。報道各社の情勢調査で、参政党の支持率が伸びていることもあるだろうが、各党の反応からは参政党の主張がそもそも相いれないという姿勢が伝わってくる。
参政党は公約に「行き過ぎた外国人受け入れに反対」と明記した。労働者やインバウンド(訪日客)の受け入れ制限、外国人への生活保護の支給停止、迷惑外国人の排除など、24項目にわたる外国人施策を掲げた。
野党第1党である立憲民主党の野田佳彦代表は「分断と対立をあおる勢力が出てきた。外国人排斥で得点を稼ぐというのなら断固戦いたい」と宣言。与党の一角を占める公明党の斉藤鉄夫代表も「分断をあおり、排外主義を訴える勢力にはくみしない」と明言した。共産党の小池晃書記局長は「人間にはファーストもセカンドもない。違いを認め多様性を尊重する点にこそ、国が進めるべき道がある」と訴えた。
保守層の票を持って行かれる可能性があるのが自民党だ。石破茂首相は選挙戦の最中の15日、外国人に関連する施策を担う「外国人との秩序ある共生社会推進室」を設置した。発足式で首相は「ルールを守らない人への厳格な対応や外国人を巡る現下の情勢に十分に対応できていない制度の見直しは、政府が取り組むべき重要な課題だ」と指摘した。参政党を意識し、石破政権としても外国人対策に取り組む姿勢をアピールする狙いがあるのは明らかだ。しかし、参政党などの外国人政策に対する石破首相の考えが示されなかったのは、残念でならない。
実は、自民党内にも、参政党の主張に拒否反応を示す人は少なくない。しかし、批判する既存政党も、公然とは批判しない石破首相も、本当に考えなければいけないのは、なぜ参政党が一定の有権者の共感を呼んでいるのかということだ。
参政党に支持が集まる理由はさまざまあると思う。参政党が一定の共感を生んでいるのは、これまでの政党、政治家が自ら掲げ、進めている政策について、その意味や価値を十分に説明し、理解を得てこなかったことも要因として大きい。参政党がインターネットで有権者に語りかけ、統一地方選を利用して、全国に地方議員と地方組織を作り、政治参加の機会をつくってきたこともあるだろう。
▽エスタブリッシュメントへの反発
「エスタブリッシュメントは自分たちのことを考えて政治をしていない」。特派員のころ、トランプ氏支持者からよく聞いた言葉だ。それはトランプ氏自身の言葉でもある。「既存の支配層」であるエスタブリッシュメントの具体的な構成員の特定は難しいが、米首都ワシントンにいる政治家や、その周辺で活動する人々を指していると受け止めていた。
トランプ氏の訴えは、現状に不満を抱き、将来に不安を抱える人々の共感を呼んだ。「政府は移民を受け入れ、手厚く保護するのに、自分たちは失業の不安と隣り合わせにいる」「気候変動対策や発展途上国支援など、私たちには恩恵のない、高邁な理想に税金を使っている」と思っている米国人は少なからずいる。トランプ氏が共感を呼ぶような状況は、いまの日本にも当てはまる部分はあると思う。
なぜ日本政府は外国人労働者を受け入れているのか。なぜ訪日客を拡大させようとしているのか。もちろん、少子化や人口減少が進む中で外国人労働者や訪日客の受け入れが必要な面はあるし、歴代政権や政府も説明してきてはいる。ただ、それが幅広い有権者の理解を得るレベルに至っていない。加えて、経済的、社会的に苦しい立場に置かれている人たちは「日本政府は、寄り添い支えてくれてはいない」と思っているのではないだろうか。
▽説明責任
今回の参院選では、外国人政策に注目が集まっているが、今後は国際協調路線の見直しも大きな争点となるかもしれない。
「日本が各国と連携し、多額の費用をかけて気候変動対策に協力することや、政府開発援助(ODA)などで発展途上国を支援することが日本国民のためになるのか。紛争国や災害が起きた国への人道支援よりも、苦しんでいる日本人を助けるべきではないか」。今でもたまにそうした声を聞くことがある。そうした声が選挙などを通じて大きくなれば、日本政府はこれまでのような外交を行うことは難しくなる。
2020年の米大統領選挙で、トランプ氏から政権を奪還したバイデン政権の高官がかつて語った反省が印象に残っている。「私たちが掲げてきた政策は間違っていない。しかし、なぜ2016年の大統領選挙でトランプ氏に負けたのか。それは、私たちの政策が国民にとってどのような意味を持つのかを、十分に説明できていなかったからだ」。
自分たち米民主党の政策の正しさを疑わない姿勢は別として、日本の既存政党にまず必要なのは、自分たちが進める政策が国民にとってどのような意味があるのか、十分に説明する姿勢と、そのための言葉を紡ぎ出し、有権者に伝えるための努力ではないだろうか。
例えば「気候変動対策に取り組むのは当たり前だ」という姿勢ではなく、国民にとってなぜ必要なのかを、繰り返し、手を替え品を替えながら、語ることだろう。
それは日本政治を日々取材し、報じてきたメディアにも跳ね返ってくる。トランプ氏の言うエスタブリッシュメントには、メディアも含まれている。私たちはその政策が国民にとってどのような意味があるのかを十分に問い、伝えてきたのか。私はメディアもこれまでの在り方を批判的に検討し、さまざまな伝え方を試行錯誤していくべきだと思っている。
▽転換点
日本が自国第一主義を採用するのは、かなり覚悟がいることでもある。国際協調を前提とする国際的な自由貿易体制は、日本の生命線だ。地球温暖化対策も、国際的に取り組まないと効果は上がらない。
なにより、欧米での自国第一主義は、国内での差別や分断を深刻化させている。米国での記者生活で、目の当たりにしてきた。日本に住む外国人はどういう気持ちでこの選挙戦を見ているだろうか。
今回の参院選は、日本の針路を方向付ける歴史的転換点になるかもしれない。有権者がどのような判断を下すのか、まずはそこをしっかり見ていきたい。(共同通信社政治部記者・池田快)
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