【参院選コラム】朝ドラを見て考えた。「何のための参院選?」

JR高知駅で開かれた、アンパンマン列車の乗客100万人達成を祝う記念式典=2023年6月
JR高知駅で開かれた、アンパンマン列車の乗客100万人達成を祝う記念式典=2023年6月
  • JR高知駅で開かれた、アンパンマン列車の乗客100万人達成を祝う記念式典=2023年6月
  • 参院選が公示され、街頭演説する自民党総裁の石破首相=2025年7月3日午後、兵庫県尼崎市
  • 東京・内幸町の日本記者クラブで開かれた党首討論の際に自民党総裁の石破茂首相が色紙に揮ごうした「鷙鳥不群(しちょうふぐん)」。ワシやタカのような強い鳥は群れないことを意味する=7月2日

 NHK連続テレビ小説「あんぱん」を貫くテーマは、漫画家やなせたかしさんが作詞した「アンパンマンのマーチ」の一節にある。「なんのために生まれて/なにをして生きるのか/こたえられないなんて/そんなのはいやだ!」

 哲学的な自問自答と言える。子ども向けアニメ「それゆけ!アンパンマン」は「なにがきみのしあわせ」との2番の歌詞を使うらしい。ただ、やなせさん夫妻をモデルに今田美桜さんと北村匠海さんがダブル主演する朝ドラは随所で1番の歌詞を想起させる。

 戦死した恋人を「誇りに思ってあげて」と姉のぶ(演・今田さん)に言われた蘭子(演・河合優美さん)は「そんなのうそっぱちや」と魂の叫びで拒む。駆逐艦で戦地に向かう柳井千尋(演・中沢元紀さん)は「愛する国のために死ぬより、愛する人のために生きたい」と敬愛する兄の嵩(演・北村さん)に言い残して戦死する。まさに戦時の生きざまを問う場面である。

 この朝ドラ「あんぱん」と7月20日投開票の参院選は無縁と言えない。各候補者が「なんのために政治家になって、どんな政治を行うのか」を有権者に問うのが選挙だからだ。

 ▽石破首相は質問に答えなかった

 うってつけの質問が2日の日本記者クラブ討論会で出た。「石破さんは少数与党の国会で何を目指していたのか。野党案の丸のみなら誰でもできる」。パネリストのベテラン政治記者が直球の質問を投げたのである。

 石破首相の答えは「法案修正に向けて最大の努力が行われたのであり、誰でもできることをやったとは私は全く思っておりません」。後段の問いに反論したわけだが、残念ながら「なんのための少数与党国会」への答えはなかった。

 討論会は物価高対策が重要テーマ。現金給付派の与党と減税派の野党が「ばらまき」を巡って応酬を繰り広げた。別のパネリストから「選挙のたびにお金を配るのは政治のあり方として適切なのか」との疑問も飛んだ。石破首相は憤った様子で「ばらまきというのは矮小化ではないか。早く本当に困っている人に届く、そのことを目指しているのであって、ばらまきというご批判は当たりません」と

反論した。

 ここでも「あるべき政治」へのメッセージは弱かった。アンパンマンのマーチに引きつければ「なんのために政権を担うのか/なにをして総理大臣として生きるのか/こたえられないなんて/そんなのはいやだ!」の声が聞こえてきそうだ。

 ▽本音は…でも伝わっていない

 筆者は“石破番”の経験がある。首相が防衛相だった時だ。「政治とは何か」といった根源的な問いを誰よりも思索する人だ。

 今回の討論会の冒頭発言に片りんが見えた。「この国の将来に責任を持つ。(中略)すぐにウケなくても国のために語らねばならないことがある」

 その行間を推し量ると「消費税減税を言えば票が獲得できるのは分かっているが、将来の財源を失うし、困っている人を救うことにならない」。それが本音だと見ている。でも、分かりやすく語らないものは世間に伝わらない。

 実は石破首相は春ごろ、消費税減税を真剣に検討していた。自民党の参院側や公明党からの強い要請があったという。だが、信頼する複数の側近から「今までの主張と違う。らしくない」との異論があり、4月になって消費税率維持へと翻意した。

 自民党の森山裕幹事長は進退をかけて消費税減税に「待った」をかけた。勢い余って「消費税を守る」と表明してネットで猛批判を受けている。それでも「炎上してもいい」と消費税擁護論を繰り返している。

 曲折を経て、石破首相は6月中旬になって「現金2万円給付案」に行き着いた。一律2万円に困窮家庭や子育て家庭へ上乗せするのが「石破カラー」だ。しかし、「一律」に注目が集まり、石破流の「正論」は浸透していない。6月21、22日の共同通信社世論調査で、現金給付案への反対は54%に上った。自民党支持層でも41%。物価高に対する石破首相の“アンパンチ”は不発の様相だ。

 ▽ネットと選挙にさらなる脅威

 朝ドラ「あんぱん」のテーマはSNS時代の選挙のあり方にもヒントを与える。ネットに広がる偽情報や誹謗中傷だけが問題でない。さらなる脅威は情報操作である。日本では未知の世界だが、米国に先例がある。

 2016年の米大統領選は、ロシア資本が入った「ケンブリッジ・アナリティカ」という選挙コンサルタント会社が、トランプ陣営勝利に寄与した。毎日新聞専門記者の大治朋子さんの著作「人を動かすナラティブ」(毎日新聞出版)によると、同社は当時のフェイスブックの約8700万もの個人情報を元に個人のプロファイリングをつくり「この人には何が刺さるか」を編み出して世論工作を行った。SNSと心理学を駆使して人々の意思決を操ったのである。

 真偽の分からない情報や、えたいの知れない情報操作で大事な一票が左右されかねない時代、そして民主主義が揺らぐ時代だからこそ、あの一節を思い出して選挙情報を吟味することをお勧めしたい。

 「なんのために選挙権を持って/なにをもとに投票するのか/こたえられない

なんて/そんなのはいやだ!」。報道機関が有権者の選択に資する情報を提供する重い責務があることも心に留めたい。(共同通信社編集局次長 杉田雄心)

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