福島第1原発事故を機に、日本のエネルギーを取り巻く環境は大きく変わった。石油など化石燃料もいずれ枯渇する中、地熱や太陽光など繰り返し使える再生可能エネルギーへの期待が高まる。その資源は私たちの身近に眠り、地域の未来を切り開く可能性を秘める。大分は再生エネ供給量が全国屈指の先進県。明日を担う“力”を見詰める。
※大分合同新聞 朝刊1面 2014(平成26)年1月~2015(平成27)年2月掲載
国東市上治郎丸地区ではあちこちに休耕田を利用したヒマワリ畑が広がる。 「きれいに咲いたな」「地区が明るくなるわ」 見頃を迎えた大輪の前で、60~80代の住民が会話を弾ませる。「今年は面積を昨年の1・5haから1・7haに増やした。...
「みんなが家から持ってきてくれるてんぷら油は、ごみ収集車の燃料に生まれ変わっています」 茶褐色に濁った使用済み油と、澄んだ黄金色に再生された油。ゲスト講師の甲原(こうばら)民子さん(49)が瓶に入った2種類の油を見せると、3、4年の児...
7月初めの夜、日田市役所に仕事帰りのサラリーマンや家事を終えた主婦らが集まった。事務方の市職員2人を含め計8人。ひた市民環境会議エネルギー部会、150回目の月例会だ。 「これを見てほしい」。部会長の甲斐美徳(よしのり)さん(52)=公...
日差しがやや陰った午後5時、日田市中津江村での山仕事が終わった。朝8時から休憩を含めて9時間。市内の素材生産業者「FMC(フォレスト・マン・カンパニー)」の男たち6人は各自の持ち場を離れ、木が倒されて見通しが良くなった急斜面を下り、合流し...
高さ20mを超す樹齢40年のスギが大きな音を立てて倒れ、急な山肌を滑り落ちた。「ふう」。日隈稔彦(としひこ)さん(56)は周囲の安全を確かめて一呼吸すると、すぐに隣の木にチェーンソーを当てがった。 台風一過の強い日差しが照り付ける8月...
日田市天瀬町のバイオマス発電所では早朝や昼休み明け、入り口に大型トラックが並ぶ。周辺の山林から運び出した未利用材(残材)を搬入する順番待ちの列だ。 「ここができたおかげで仕事が増えたよ」。先頭車両の運転手はそう言って、笑みをこぼした。...
「未利用材でクリーンな電気を生み出し、発電した分だけ山をきれいにできる。この仕事に喜びと誇りを感じる」 日田市天瀬町にあるバイオマス発電所で、社員の西尾雅之さん(28)は充実した表情を見せる。 24時間運転の施設を保守管理するリー...
「発電の排熱で暖房するハウスを建て、おいしいトマトを育てるんです」 日田市天瀬町のトマト農家、長尾正臣さん(64)はバイオマス発電所に隣接した建設予定地で図面を広げ、計画を熱っぽく話した。 バイオマス発電所は木材チップを燃やして電...
「木で電気がつくれるなんて、すごい」 8月初め、日田市若宮小学校の5年生4人が、バイオマス発電所に好奇心いっぱいの視線を注いだ。市が「古里の産業を知ってもらおう」と公募した夏休み恒例の1日記者たちだ。 市内天瀬町にできて約10カ月...
再生可能エネルギーで世界をリードするのが欧州だ。この夏、別府大学の阿部博光教授(環境エネルギー政策)と共に、原子力・化石燃料からのエネルギー転換に挑むドイツと、木質バイオマス活用に熱心な林業国オーストリアを訪ねた。再生エネで地域のどんな未...
「再生可能エネルギーのおかげで暮らしが上向いた」 ドイツ中央部、グロースバールドルフ村の農家、マティアス・クレフェルさん(52)は、村境に近い自宅の居間で笑みを浮かべた。 この地で生まれ育ち、妻と次男の3人暮らし。長男と長女は就職...
「われわれの役目は再生可能エネルギーによる持続可能な地域づくりに向け、住民をサポートすること」 太陽光などでエネルギーを自給自足するドイツの村、グロースバールドルフから車で30分。村がある郡の中心市の事務所で、アグロクラフト社の共同代...
「住民が集まって議論する機会が増え、コミュニティーの結束が強まったわ」 エネルギーを自給自足するドイツの村、グロースバールドルフ。農家の主婦(50)は、再生可能エネルギーによる村づくりで感じる地域の変化を挙げた。 その象徴的な事例...
木質バイオマスエネルギーで、貧しさのどん底から世界が注目する先進地に変貌した田舎町がある。オーストリア南東部のギュッシング。森林資源に恵まれた人口4千人ほどの市だ。 「ほんの15年前までこの辺には何もなかった」 地域のエネルギー自...
「オーストリアは広大な森がある林業国。バイオマスエネルギーの活用は木材価格を底上げし、林業にとってもいいことだ」 ギュッシング市にある製材工場。かつて森林管理の仕事をしていたマーティン・クロップさん(46)は、巨大な倉庫に積み上げられ...
再生可能エネルギーで最先端を走る国では今、何が起きているのか。 ドイツの首都ベルリンから少し離れた地方都市で8月末、再生エネのフォーラムが開かれた。中小企業の関係者や研究者ら300人が集い、風力発電などの最新技術や製品を展示したブース...
九重町の山あいにある宝泉寺温泉で、地域の未来を懸けた挑戦が進んでいる。 紅葉の行楽シーズンが終わりに近づいた11月下旬。地元の旅館組合(8施設)に加盟する旅館、ホテルの経営者らが慌ただしい仕事の合間を縫って、顔をそろえた。 そこは...
「源泉掛け流し、美肌効果のある泉質。湯には自信があるが、それだけでは個人客の多様なニーズに応えられない」 九重町の宝泉寺温泉にある旅館、ホテルは口をそろえる。 周辺には九重“夢”大吊橋、飯田高原をはじめ、雄大な自然を満喫できる観光...
「宝泉寺温泉の多くの宿は湯で苦しんできた」 宝泉寺温泉旅館組合(九重町)の組合長、矢野敏朗さん(59)=宝泉寺観光ホテル湯本屋社長=は、ためらうことなく切り出した。 「湯の湧出量が減った」「ぬるい」「熱過ぎる」……。各旅館、ホテル...
九重町の宝泉寺温泉入り口にある和風家屋。かつてバス待合所だったが、今は空き家になっている。 「ここに農産物など地域の物産を並べて、散策を楽しむ宿泊客らが立ち寄れる空間をつくるんです」 打ち合わせで集まった地元の旅館、ホテルの経営者...
「温泉で発電できるとは驚きやな」「こんな山奥まで見に来る人が増えるかもしれんで」 山あいに湯煙が立ち上る由布市湯布院町の奥江。10世帯・15人すべてが65歳以上という集落は、完成が近づく温泉熱発電所(出力105kw)の話題に沸く。 ...
「皆さんが暮らす地域にある風力発電は、世界で最も成長している期待の再生可能エネルギーです」 11月上旬、日田市の前津江中学校で開かれた環境学習「風の教室」。外部講師の甲斐美徳(よしのり)さん(52)が説明を始めると、全校生徒26人は興...
再生可能エネルギーによる地域活性化を考えるシンポジウム「明日への力~再生エネで拓(ひら)く大分」が24日、別府市の別府大学であった。再生エネ自給率が全国トップの大分が、どうすればその優位な立場を生かし、地熱や木質バイオマスなど豊かな資源を...
◆捨てる熱の活用を ひた市民環境会議エネルギー部会長 甲斐美徳さん(日田市) エネルギー問題に関心を持ったのは1986年のチェルノブイリ原発事故だ。原発に代わる安全なエネルギー普及の必要性を強く感じた。再生可能エネルギーは温暖化...
11日付の紙面はこちら