福島第1原発事故を機に、日本のエネルギーを取り巻く環境は大きく変わった。石油など化石燃料もいずれ枯渇する中、地熱や太陽光など繰り返し使える再生可能エネルギーへの期待が高まる。その資源は私たちの身近に眠り、地域の未来を切り開く可能性を秘める。大分は再生エネ供給量が全国屈指の先進県。明日を担う“力”を見詰める。
※大分合同新聞 朝刊1面 2014(平成26)年1月~2015(平成27)年2月掲載
< 雷公(かみなり)も 車や舟を押す世なり 地獄の鬼も 出(いで)てはたらけ > 別府市で日本初となる地熱発電の実験をした海軍中将、山内万寿治(ますじ)の歌だ。時は第1次世界大戦が終結した翌年の1919(大正8)年、全国の温泉地を...
「柔らかないいお湯。女性に人気なんですよ」 九重町の八丁原発電所そばの山あいにある筋湯温泉郷。旅館「清風荘」を営む梅木達夫さん(66)は自慢の湯をなでるようにすくい、にこやかにほほ笑んだ。 地域には八丁原発電所から地中に戻される熱...
安全性に課題のある原子力や限りがある石油など化石燃料の代わりとして、世界的に注目を集める再生可能エネルギー。...
発電で山を救う――。国内有数のスギ産地・日田市天瀬町の山あいで、これまでにない挑戦が始まった。 昨年11月、原木市場の隣接地で稼働したバイオマス発電所。発電能力は1,900世帯分。燃料は伐採した木の曲がった部分や根本など商品価値が低く...
「先祖代々受け継いできた農業用水路で発電し、農村の未来を切り開くんや」 由布市庄内町から大分市西部までの田畑を潤す「元治水(げんじすい)井路」。管理する土地改良区の理事長、佐藤高信さん(73)は庄内町東長宝にある小水力発電所の予定地に...
まるで海のように紺ぺきのパネルが広がる。大分市東部の臨海工業地帯。国内最大のメガソーラー集積地だ。この春には全てが稼働、一帯で同市の2割に当たる約4万2千世帯分を発電する力がある。 「塩漬けだった空き地が再生可能エネルギーの拠点に生ま...
再生可能エネルギーの活用でどんな未来が描けるのか。実現への課題は――。地域ごとに再生エネの可能性を探っている倉阪秀史・千葉大学大学院教授(環境政策論)に聞いた。 ――再生エネの導入を拡大させる意義は何か。 「将来にわたる安定的な...
「山々に囲まれた県南地域は昔から炭焼きが盛んやった。高品質で全国に知られ、多くの人が炭の商売で生計を立てよった」 佐伯市長谷で長年、製炭業を営む寺嶋静夫さん(79)=寺嶋林産社長=は、その歴史を誇らしげに語る。 工場には7基の石窯...
「いい炭ができちょん」 木漏れ日が差す炭焼き窯の前で、63歳から75歳まで男たち6人の笑顔が広がった。奇祭「すみつけ祭り」で知られる佐伯市宇目の木浦鉱山地区。窯に火を入れて10日目の1月下旬、楽しみにしていた炭の取り出し作業だ。 ...
「東洋一の産出量を誇った金山は水の力に支えられていた」 日田市中津江村の福岡県境にある鯛生金山。閉山から40年。今は地底博物館として年間約4万5千人が訪れる坑内で、職員の山口幸生さん(46)は、その歴史を語り始めた。...
おんせん県・大分では、高級食材スッポンも温泉に入る。 産地の宇佐市安心院町にある安心院すっぽんセンター。養殖する温室に入ると、大小20に区切った池に500~1千匹ずつ稚ガメが放されている。水温は30度。ぬるめの湯に漬かり、寒い冬場でも...
ギィィー、ドン――。小鹿田焼の里、日田市の皿山集落に、唐臼(からうす)の音が響く。江戸時代中期に窯が開かれて以来、300年間変わらない営みだ。 静かな山あいの集落に10軒ある窯元は澄んだ川の流れに沿って隣り合う。それぞれの唐臼は地...
宇佐市長洲の海岸に、無数の石を高さ60cmほどに積んだ堤が大きな半円を描く。遠浅で数km沖まで潮が引く干満差を利用した「石干見(いしひみ)」といわれる古式漁法の仕掛けだ。沖側に狭い開口部があり、引き潮の時、そこに網を仕掛けておくと魚を一網...
地熱活用の道を広げる世界初の「湯煙発電」が、泉都・別府市でいよいよ実用化される。 ターボブレード(大分市)が県の農業研究施設(別府市鶴見)の泉源に設置した3号実験機。社長の林正基さん(56)がバルブをひねると、地下300m超から噴き出...
「再生可能エネルギーが豊かな大分県には、新たな技術を実証できる場が身近にある。その恵まれた環境を生かし、小水力発電機の市場でリードしたい」 大分市のエネフォレスト社長、木原倫文さん(60)は思いを語る。開発する「清流発電」は2枚のプロ...
「太陽光発電の出力低下を早めに発見できます」 成長市場の活気に満ちた会場で、大分デバイステクノロジー(大分市、ODT)の社長、安部征吾さん(47)は、半導体事業で培った技術を応用した新製品を熱っぽく売り込んだ。 2月下旬、東京都内...
別府市の大分自動車道そばで始まった温泉熱発電は、そのビジネスモデルが面白い。地元の西日本地熱発電が温泉のオーナーから泉源を“レンタル”。発電機の設置、管理運転、費用負担まで自社で行い、オーナーには売電収入から定額の利用料を支払う。 「...
別府八湯の守り神として知られる別府市火売の火男火売(ほのおほのめ)神社。その目の前で、温泉熱発電と足湯、農業用ハウスを組み合わせた施設の整備が進む。周辺の約40世帯に給湯している泉源の未利用エネルギーを、できる限り活用しようという試みだ。...
テーブルに置かれた試作部品に男性3人の視線が集中した。「この部分が熱に耐えられるか」「思ったより重いな」――。率直な意見を交わし、改善に向けたアイデアを出し合う。 佐伯市にある部品加工業、二豊鉄工所の一室。大分大学、県産業科学技術セン...
再生可能エネルギーの普及拡大を、ビジネスにどう結び付けるか。政策立案を担う資源エネルギー庁の村上敬亮・新エネルギー対策課長に聞いた。 ――再生エネ市場で中小企業が商機をつかむため必要なことは。 「例えば、太陽光発電の投資額は億単位で...
太陽の光や熱、川を流れる水……。「再生可能エネルギーの恵みは地元住民が優先して受けるべき」。そんな考え方に基づく「地域環境権」を全国で初めて打ち出した地方都市がある。 標高3千m級の山々が連なる日本の屋根、中央アルプスと南アルプスに挟...
「これは大勢の力を結集した太陽光発電。この地域には同じように設置した設備がたくさんあるんです」 長野県飯田(いいだ)市中心部にある公民館。おひさま進歩エネルギー社長の原亮弘(あきひろ)さん(64)は屋上のパネル越しに、生まれ育った街を...
再生可能エネルギー分野で、一歩先を行く長野県飯田(いいだ)市。市長の牧野光朗さん(52)は前職の日本政策投資銀行当時、大分事務所長として2004年3月まで2年近く大分県で勤務した。再生エネを生かした地域づくりの考え方などを聞いた。...
大分県境にある熊本県小国町のわいた温泉郷で、小さな地熱発電所の建設が進んでいる。オーナーは電力会社でも企業でもない。地元の26世帯でつくる合同会社「わいた会」だ。 「住民が待ち望んだ施設がようやくできる」。代表の江藤義民さん(66)は...
千葉県市原市に風変わりな農地がある。ハクサイやキャベツが育つ畑の3mほど上にフジ棚のような架台があり、短冊状の太陽電池パネルが並ぶ。日光はその間から作物に降り注ぐ。 「太陽の光を農業と発電で分け合うソーラーシェアリングです」。5月晴れ...
中国山地の中央、林業・製材業が盛んな岡山県真庭(まにわ)市で、バイオマスを生かした地域づくりを学ぶツアーが人気を集めている。 「この集成材工場は工程で出るかんなくずや端材で自家発電し、使用電力を全て賄っている。さらに売電収入もあり経営...
風で織るタオル――。 日本一のタオル産地、愛媛県今治市に、しゃれたブランド名のタオルを製造するメーカーがある。創業61年になる「IKEUCHI ORGANIC(イケウチ・オーガニック)」だ。 「環境への優しさを追求しよう」と、20...
電気はできるだけ自給自足で―。宇佐市中心部の住宅街にマイホームを構える会社員、安田和彰さん(44)方では、そんな暮らしを心掛けている。 夫婦と子ども2人の“主力発電所”は5年前、屋根に設置した太陽光発電システム(出力3・7kw)だ。発...
「意外と節約できることが多いなあ」 中津市の主婦、奈賀良枝さん(44)は、夫の幾次郎さん(46)と顔を見合わせた。知人に紹介され、自宅で受けた「うちエコ診断」。診断士の丹生裕之さん(53)が暮らしぶりを聞き取り、パソコンに入力すると、...
別府市の鉄輪温泉。別府大学の学生が名物の蒸し料理「地獄蒸し」の釜ぶたを持ち上げると、もうもうと蒸気が立ち上った。 「蒸気は温泉の熱エネルギー。温泉の活用法は入浴だけじゃない」。阿部博光教授(55)=環境エネルギー政策=の説明に、参加し...
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