建物のCO2排出量を「見える化」する。One Click LCAを担当する若手社員2人の新規事業へかける想い


ひとつの建物が生まれてから壊されるまでには、材料の製造・加工や輸送、建設・解体工事など、さまざまな場面が存在する。オフィスビルやホテル、住宅など、私たちが普段何気なく利用する建物がどれくらいCO2排出しているかを把握する人はほとんどいないだろう。


そういった、製品や建物が生まれてから壊されるまでにどれだけ環境に影響を与えるかを数値で評価する方法を「LCA(ライフサイクルアセスメント)」と呼ぶ。近年、海外を中心に、LCAによって建物のCO2排出量を算出する流れが生まれている。


建物のCO2排出量を「見える化」できるソフトウェア──それが、フィンランド発の「One Click LCA(ワンクリックエルシーエー)(※)」だ。住友林業では、デベロッパーやゼネコン、設計事務所に向けて2022年からこのソフトウェアを利用したサービスを提供している。建物のCO2排出量を計算するほか、資材メーカーに向けて、資材ごとの環境負荷を示す環境認証ラベル「EPD(環境製品宣言)(※)」の取得サポートなども行っているのだ。


(※)One Click LCA……建物に使用する資材の数量と 各資材の CO₂ 排出量原単位を掛け合わせ 「 資材調達 」 「 輸送 」 「 施工 」 「 解体 」 など建物の各ライフサイクルにおける CO₂ 排出量を精緻かつ効率的に算出することができるソフトウェア。

(※)EPD……原材料調達から廃棄までの製品の全ライフサイクルに亘る CO₂ 排出量などの様々な環境影響を可視化した、 ISO に準拠した環境認証ラベル。


このように、環境負荷を実際の数値で「見える化」することで、脱炭素に配慮した建築資材や建物の需要が広がり、建設業界全体のカーボンニュートラル化が進んでいく。脱炭素社会に向けた新規事業として、住友林業が力を入れているOne Click LCAを担当する2人の若手社員、菊川詢平(きくがわ しゅんぺい)と中村優希(なかむら ゆうき)に話を聞いた。


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設計と営業、それぞれの道を目指して住友林業へ

住友林業に入社したのは、菊川が2020年、中村が2022年。現在はOne Click LCAを扱う木材建材事業本部で働く若手社員の2人だが、住友林業に入社した当初は、それぞれ住宅の設計、営業と今とはまったく違う仕事をしていたという。どのようにして2人は、この部署で仕事をするようになったのだろうか? まずは2人の就職活動から遡ろう。


菊川は、建築家だった父親に影響されて建築の道に進むようになった。自分が仕事をしている姿を想像した時に、建築が一番腑に落ちたのだという。


「建築学科では意匠設計を学ぶ研究室にいたので、就職する時も意匠性の高いデザインができる企業に入りたいと思い住友林業を選びました。また、住友林業は大規模木造建築やW350計画(※)など、新しいことにチャレンジしている印象もあったんです。人口が減るにつれ新築住宅市場も縮小傾向にある中で、新しい事業に取り組んでいるところが魅力的だと思い、入社を決意しました」


(※)W350計画……住友林業が創業350周年となる2041年を目標に、高さ350mの木造超高層ビルを象徴とする環境木化都市を実現するための研究技術開発構想


2020年に住友林業に入社してからは、住宅事業本部で4年間、住宅設計を担当した。住友林業でOne Click LCAの事業が始まったのは2022年のこと。菊川の入社時には部署自体が存在せず、知る由もなかった。


木材建材事業本部 ソリューション営業部 菊川詢平


一方中村は、住宅営業として住友林業に入社した。学生時代に訪問営業のアルバイトをした経験から、営業の楽しさに気づいたのだという。頑張れば頑張るだけ結果が出ること。数字というわかりやすい指標で、ライバルと切磋琢磨しながら成長していけること。そのどれもが彼女の目には魅力的に映った。


「営業の中でも、お客さまの記憶にずっと残るような仕事がいいなと思っていました。家という人生で大きい買い物だったらきっと記憶に残ると思い、住宅業界を選びました。戸建注文住宅はお客様と長く関われる仕事なので、それがいいなと思ったんです」


木材建材事業本部 ソリューション営業部 中村優希


2人とも、入社当時はそれぞれ設計と営業という希望した職種に就き、やりがいを持って仕事をしていたのだという。

「One Click LCA」の部署へ異動したそれぞれの理由

転機が訪れたのは、菊川のほうが先だった。ある時、設計を担当したとある案件で、築20年ほどの若い家を取り壊して新築を建てるという話になった。空き家問題や環境配慮などの社会的背景で少しずつ新築からリフォームに時流が傾く中で、自分の年齢より若い築年数の建物が取り壊されて作り直される──。そのことに、少しの違和感を抱いたのだという。


「もちろん全力で取り組んだのですが、心の中では、こんなに早く建てたものを壊すことは本当に正しいことなのか?というわだかまりがありました。同時に、その正しさを判断する基準を自分では持ち合わせていないことにも気づいたんです。そこで、建物の環境負荷を何か明確に根拠で示せるものがあるのかなとネットで調べた時に見つけたのがOne Click LCAでした。さらにはそれを自社でやっていることに気づき、部署の公募を見つけた時に、若い今だからこそチャレンジできると思い、手を挙げました」


新築を建てるにしても、リフォームをするにしても、環境的な目線も込みで、根拠を持ってお客様に提案できたほうが絶対にいいはず。そんな思いで、彼はOne Click LCAの部署の扉を開いたのだった。


中村の転機は、2年半ほど住宅営業を担当した頃のことだった。仕事の流れも分かってきた中で、少しずつ違う仕事をしてみたいという願望が湧いてきていた。大学時代に留学経験もあり、英語を話せる中村は、海外に関わる仕事もしてみたかった。そんな話を上司にしていた矢先、異動の話がきたのだ。


「木材建材事業本部に異動ですと言われて、想像もしていなかったので驚きました。One Click LCAも、その時まではほとんど知らなかったんです。でも、新しい仕事ができることへのワクワクが大きかったです」


お客様のニーズをもとに、環境負荷を数値化する仕事

木材建材事業本部ソリューション営業部で同じチームで働くようになったふたりだが、その担当業務は少し違っている。One Click LCAを担当するチームと言えど、16人いる同僚の中でも、ソフトウェアの営業担当、日本版へのカスタマイズ担当、顧客サポート担当など、その役割は細分化されているのだ。


菊川は、顧客サポート担当としてOne Click LCAを使った算定受託サービスを行っている。お客様から建物に使用する資材の数量情報をいただき、ソフトウェアを実際に動かして算定結果を出し分析のうえ、提出・説明することが仕事内容である。お客様が算定を通じて定量化したいポイントや算定目的をヒアリングした上で、個別の算定業務を行っており、企業のCO2排出削減努力を定量化する事が重要な役割である。


1つのビルが建てられるまでには、大量の資材が必要となる。鉄骨は何トンか、コンクリートは何立米か、構造躯体といわれる骨組みの数量はいくらか。そういった資材数量情報をすべてOne Click LCAに入力し、建設資材毎のCO2排出量を算定していくのだ。One Click LCAは算定結果を様々なグラフで表示・分析する事が可能であり、ソフトウェアを活用しながら、お客様ごとにCO2排出量の算定分析結果や削減検討案をレポート形式で提供している。ただレポートで結果を伝えるだけではなく、環境負荷の大きい資材が判明すれば、それをもとにどうすればCO2排出量を減らせるか、どこの工種に着目して削減検討すればよいのかといった提案も考える。


「 One Click LCA 」のエンボディドカーボン算定の流れ


  「One Cilck LCA」についてもっと知りたい方はこちらをチェック


「クライアントは、デベロッパーや設計事務所、ゼネコンなど、大規模な建築を担当される企業が多いです。ヨーロッパでは先行して大規模建築物などで炭素排出量の規制がかかってきているので、そういった情報をいちはやくキャッチアップして動いている企業の方々が多いですね」


中村は顧客サポート担当として資材メーカー向けの算定ツール「EPDジェネレーター」の販売と算定支援業務を担当している。こちらは建物自体ではなく、その材料である「資材」ごとの環境負荷を算定する製品だ。「EPD」とは「Environmental Product Declaration(環境製品宣言)」の略で、製品やサービスの環境への影響を定量的に開示する文書のことを指す。EPDを取得するとISO規格に基づいて「環境負荷を可視化している資材である」という世界の共通認識を得ることができるのだ。


「まずはメーカーに対してEPD取得及びEPDジェネレーターのソフトを営業提案することから始まります。ご購入いただいたあとに、資材を製造するのに使う原材料やエネルギーの使用量をメーカーで集めてもらい、私たちのサポートのもとでソフトウェアに取り込み、原単位(係数)と紐づけて製品のLCA算定を行い、EPD申請書を作成します」


中村の仕事は、EPD申請書を作るだけでは終わらない。正式にEPD取得の認定を受けるためには、EPD申請書をアイルランドに拠点を置く「EPD Hub」という検証機関に提出し、その機関から届く質疑に答える必要がある。そのやりとりはすべて英語で行われるため、日本語に翻訳をして、お客様との橋渡しをするのだという。


日本ではまだまだEPDは浸透していないが、海外では近年、EPDがないとそもそも資材として採用されないこともあり、資材の販路を海外まで広げるためには必要不可欠な認証になりつつある。また、国内メーカーであってもEPDを取得することが環境への取り組みのPRにもつながり、今後需要が上がっていくことは間違いないだろう。

仕事のやりがいと苦労は紙一重

どちらも「環境負荷を数値化する仕事」という側面では共通しているが、2人の仕事の苦労ややりがいはどこにあるのだろう? それは紙一重なのだ、と2人からは返事が来る。


One Click LCAもEPDジェネレーターもソフトウェアに入力して算出するためには膨大なデータが必要となる。資材数量情報や仕様書を見ながら、1つ1つの素材のデータを入力することは気が遠くなるような作業でもある。


「建物の資材数量情報は膨大で、入力しなければいけない数は3,000行以上に渡ることもあります。壁が何㎡あって、仕上材料が何なのか、ついてるボルトは何個なのか、床のフローリング材がどれぐらい使われているのか。1個1個紐付けていかなければいけないので、最初は知識がない中で入力する作業が本当に大変でした」


そう語るのは菊川だ。異動したばかりのころは自社以外で使われる建築資材に対する専門的な知識がないため、記載されている内容が分からないことばかりで1行を進めるのにもかなりの時間がかかったという。その作業を3000行。1日中エクセルとにらめっこを続け、気づけば日が暮れていたという日も少なくなかった。


中村も、資材毎の数量や環境負荷についての知識はほとんどない。そんな中で専門的なやりとりをするのは難しいところもあるという。


「今まで、コンクリートって何からできてるんだろう?などと考えたことは全然なかったんです。でも、コンクリートの環境負荷を算定するためには、たとえば“シリカ”や“細骨材”といった単語も知っておかなくてはいけません。打ち合わせでお客様が当然のように専門的な素材について話されるので、毎回頑張って調べて必死についていっていました」


ただ同時に、分からないことを調べていくことに2人とも喜びも感じているのだ。新しい資材を知ること、少しずつ知識がつき、建物に対する解像度が高くなっていくこと。どんどん蓄えられる知識に自身の成長を感じ、嫌だと感じることは1度もないという。それは菊川と中村のもつ、従来の好奇心と知識欲、そして仕事への情熱がそうさせているのだろう。


実際にOne Click LCAで算出された「新橋ぷらっとホーム」(石島写真事務所 撮影)

これからのキャリアについて考えていること

今後のキャリアについて話を聞くと、2人とも、One Click LCAやEPDジェネレーターの持つ可能性について話した。


「今後は建物のCO2を算定する需要がどんどん増えていくと思います。自分が1人前になれたら、今度はそのノウハウや知識を、会社内、社外の取引先の方に伝えられるようになりたいですね。今は、目の前の業務をしっかりと完璧にできるようになることが目標です」と菊川は語る。


中村も続く。「国土交通省が、今年からLCA実施の補助金を出すようになり、EPD取得については昨年と比較すると2倍ほど案件が増えてきています。まだできて3年の新しい事業ですが、これが軌道に乗って収益化して、担当している事業がどんどん大きくなるのを直近で見ていけるのは幸せなことですし、そうなるように頑張りたいです」


算出作業には、地道な作業も多い。けれどもこの新規事業が、脱炭素社会につながる重要なポジションを締めていることは明確だ。建物の未来を見据えながら、事業がどんどん大きくなっていく確信と希望のもと、2人は今日も仕事に邁進している。


大手町のビル街にて





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