敏感肌の神経活動のメカニズムの一因を5年の歳月かけて解明。新たな改善アプローチ「角層より深部のバリアケア技術」を確立

「乾燥や肌荒れに悩む声に何とかして応えたい」。その想いを貫いてきた花王の皮膚科学研究は50年の節目を迎えました。肌荒れしにくい「潤い肌」に保つため、肌の必須成分「セラミド」の働きを守り補うスキンケア技術は、乾燥性敏感肌への対策の1つとして確固たる地位を確立しています。
飽くなき研究の末、2025年には、これまで明らかになっていなかった神経活動に着目し、新たな改善アプローチとなる技術を開発しました。敏感肌特有の「チクチク・ヒリヒリ感」を軽減するように表皮を健全化する「深部バリアケア技術」です。
鍵となったのは、隣り合う細胞同士を密着させ、細胞と細胞の間の隙間をふさいでいる「表皮タイトジャンクション」と呼ばれる構造です。からだの最前線で内と外を隔てている皮膚には、第1のバリアとして、表皮の最上層にあたる「角層」があります。そのすぐ下の層に広がっているのが第2のバリア「タイトジャンクション」。深部バリアケア技術はこの第2のバリアに働きかけ、知覚神経の状態を健常肌の状態に整える技術です。
不快感が起こるメカニズムの一因を解明した画期的な研究成果は、第50回日本香粧品学会(2025年7月4~5日・東京都)で発表し、最優秀賞となる「会頭賞」の受賞につながりました。
花王 | 敏感肌における知覚過敏のメカニズムの一因を明らかに “表皮タイトジャンクション”の健全化で不快感軽減へ
今回、計画から技術開発まで約5年の月日を要した研究の軌跡をたどり、技術開発の舞台裏に迫ります。
話を聞いたのは中心的役割を担った花王スキンビューティ第1研究所の2人。1人目は研究職として27年目を迎え、今回の技術開発では、人の肌での刺激感受性の計測を主に担当した住田泰輝さん。もう1人が、2013年の入社以来、皮膚科学研究に携わり、皮膚の詳細な解析を担当した加藤亜里沙さんです。
「交流関係の希薄化につながる」QOL低下の実態が後押しした神経活動の研究
敏感肌とは、通常では何ともない刺激に対しても、痛みやかゆみ、チクチク感などの不快な感覚が生じやすい刺激感受性が高い状態の肌です。花王では、特に乾燥性敏感肌の方々を対象とした研究開発を続けてきました。その歴史は、1976年に設立された「皮膚研究室」にまでさかのぼることができます。

肌の生理機能研究(当時の研究風景)
敏感肌の要因としては、表皮の最上層「角層」のバリア機能の低下が知られています。花王はこれまで、角層の細胞間脂質の主要構成成分であるセラミドに注目し、その役割などを明らかにしてきました。
一方で、神経活動の活性化も敏感肌の一因とされていますが、この領域での検討は十分に進んでおらず、不快な感覚が生じる詳しい仕組みは明らかになっていませんでした。
その背景としては、技術面だけでなく「研究活動における倫理的なハードルもありました」と住田さんは明かします。神経活動の変化を詳細に研究するためには、皮膚の検体を採取する必要がありました。しかし、皮膚疾患がない人からの採取には「なぜそこまでするのか根拠が必要でした」と振り返ります。
後押しとなったのは、2024年12月に実施した花王の調査(※1)です。20~59歳女性のうち、顔の「敏感肌」を意識している人の割合は59%と半数以上を占めていました。調査結果をもとに拡大推計すると、その人数は約1,679万人(※2)にのぼります。また、症状について「日中に赤み・ヒリヒリ・かゆみといった敏感症状がある」と回答した人は、同調査で19%でした。これは拡大推計で約317万人(※3)に相当し、およそ5人に1人が該当する結果となりました。
※1 花王調査「敏感肌意識調査」 2024年12月 web調査/20~59歳女性 n=3,000人
※2 2,848万人(20~59歳 23年住民基本台帳)×0.59=1,679万人
※3 1,679万人×0.19=319万人

研究開発部門 スキンビューティ第1研究所 住田さん
また、その後の調査などで、敏感肌に伴う生活の質(QOL)の低下が浮き彫りになってきました。住田さんは「特にチクチク・ヒリヒリ感はスキンケア時にも感じてしまうので、スキンケア自体が億劫になってしまったり、外出しようとメイクをする時にも大きなハードルになっていました」と指摘します。そして「結局、気にしながらもノーメイクで外出したり、時には外出を取りやめたりし、友人や恋人と積極的に交流しなくなるケースが見られました」と言及しました。
敏感肌だと感じる人の規模と、生活への深刻な影響は、皮膚の検体を採取してでも解決していくべきだという大きな根拠となりました。
そんな中、2019年秋に理化学研究所から、動物を使った実験とアトピー性皮膚炎患者の皮膚を観察した研究から、かゆみに対する知覚神経とタイトジャンクションの関係性を指摘する発表がありました。「チクチク・ヒリヒリ感を感じるのも知覚神経です。もしかしたら人の敏感肌でもタイトジャンクションと知覚神経に大きな関係性があるのではないかと考えました」と住田さん。2020年1月から「深部バリアケア技術」の開発に向けたプロジェクトがスタートしました。
ポイントはタイトジャンクションと知覚神経の関係
加藤さんはタイトジャンクションについて「全身の様々な臓器にあり、バリア機能を担う基本装置の1つです」と説明します。「隣り合う細胞同士をジッパーのようにしっかりと密着させ、細胞と細胞の間の隙間をふさいでいます。これにより、物質が体内を自由に行き来してしまわないように制御し、必要な場所にだけ物質が出入りするよう調整しています」
さらに今回のプロジェクトに関連する点についてこう続けます。「表皮にもタイトジャンクションが備わり、角層バリアに次ぐ第2のバリア機構の役割を担っています。外来物質の皮膚内部への侵入や体内成分の漏出を防御する“とりで”となっているのです」

研究開発部門 スキンビューティ第1研究所 加藤さん
今回の研究成果は、このタイトジャンクションと知覚神経の関係に着目。健常人の敏感肌における知覚過敏のメカニズムの一因を明らかにした点にあります。
感覚を司る神経線維は、体内から表皮に向かって伸びています。敏感肌の中でも不快感を生じやすい肌では、表皮タイトジャンクションを突き抜ける神経線維の数が、健常な肌に比べて多いことを確認しました。タイトジャンクションの“とりで”を必要以上に越えた神経線維が、最上層の角層ぎりぎりまで伸び「チクチク・ヒリヒリ感」を引き起こす一因だと突き止めたのです。
この結果を導き出すまでには、挫折や気の遠くなる作業が伴いました。
「バトンを確実につなぐ」
敏感肌に特徴的な知覚過敏と表皮内神経線維との関連を検討するため、試験の計画を立案。20~50代の日本人女性を敏感肌群と健常肌群に分け、上腕内部の皮膚検体を採取しました。
この段階まで精力的に進めた前任者の想いを受け継いだのが加藤さんでした。既にプロジェクトの開始から2年が経過。2022年春のことです。「バトンを確実につないでいきたい」。次の段階は、直径3mmの円形の皮膚検体で神経線維の状態を確認していく作業でした。しかし、すぐには着手できません。貴重な皮膚検体を無駄にしないため、練習用の皮膚サンプルを使い、実験手法の検討から始めました。

当初は神経線維がきれいに検出できず、実験手法やサンプル処理を試行錯誤。「半年かけて構築した手法での評価は最終的に断念せざるを得ず、一度振り出しに戻った時は悔しさを覚えました」。そんな挫折を乗り越えて代替手法を構築。いよいよ敏感肌の方から採取した皮膚検体の評価にこぎ着けました。
レーザー顕微鏡で1週間かけて約100枚を撮影。その後、1枚1枚に写る神経線維を確定させ、その上で神経線維を1本1本数える気の遠くなる作業を繰り返しました。京都大学大学院医学研究科皮膚科学教室の椛島健治教授の指導も受けつつ、計6人の体制で何度も確認しながら結果を合算。表皮タイトジャンクションを越えて角層の直下まで伸びた神経線維の数は、敏感肌が健常肌の約1.7倍に達していました。
「まだ確定していないにもかかわらず、噂を聞きつけた研究メンバーや一緒に評価を実施していた仲間たちがお祝いの言葉をかけてくれたのを今でも覚えています」と加藤さん。確定作業を終えた時、2024年3月になっていました。「このプロジェクトを一緒に進めてきた皆様が私以上に喜んでくださり、これまでの取り組みを支えて見守ってくださっていたことを改めて実感しました。深く感謝するとともに、とても嬉しかったです」と笑顔を見せます。

花王は、物事の基礎となる原理原則の解明に力を注ぐ「本質研究」に取り組んでいます。物質や現象の背景にある本質を科学的見地から追求し続ける社員と、結果が出るまで信じて待つ上司。こうした企業風土が、技術革新を生み出す原動力となっています。
強みを活かした遺伝子解析
神経線維の状態が確定できたのを受け、敏感肌で神経線維が角層の間際まで伸びるメカニズムの解析に入りました。加藤さんは「皮膚のタイトジャンクションに関する研究は、花王で長年取り組んでおり、その知見を十分に活かすことができました」と語ります。
皮膚組織における遺伝子発現を網羅的に解析。その結果、健常肌群と比べて敏感肌群では、タイトジャンクションの構成分子の1つとして知られる「クローディン3」の遺伝子発現量が有意に低下していることが分かりました。
そこで、クローディン3の低下が表皮タイトジャンクション機能に影響を与えるのかを明らかにしていきました。クローディン3の働きを遺伝子工学の手法で選択的に弱めた正常ヒト表皮角化細胞で、バリア機能の指標として知られる経上皮電気抵抗(TEER)値を評価しました。すると、TEER値が有意に低下し、クローディン3がタイトジャンクション機能に寄与していることが示されました。
このことから、敏感肌ではクローディン3の発現抑制に伴って表皮タイトジャンクション機能が低下し、角層の境界部分への神経線維の侵入が増加と考察。不快感の誘発の一因と結論づけました。
このクローディン3の関与は新たな発見だったと言います。「表皮のタイトジャンクションの機能に関わるクローディンとしては、特にアトピー性皮膚炎といった炎症性の皮膚疾患の研究から、クローディン1やクローディン4が広く知られてきました。クローディン3は、あまり注目されてきませんでした」と加藤さん。「疾患ではない敏感肌や小さな肌トラブルではクローディン3が深く関与するのかもしれません」と推測を示します。
「ガンマ-アミノ-ベータ-ヒドロキシ酪酸」を用いた花王独自技術が打開策に
次に踏み込んだのは、クローディン3の発現を促し、表皮タイトジャンクションの機能を高める素材の探索でした。ここでも花王の強みが発揮されます。
敏感肌の知覚過敏症状にタイトジャンクションが関与していたため、タイトジャンクション機能を高める素材を探索した結果、「ガンマ-アミノ-ベータ-ヒドロキシ酪酸」を発見。狙い通り、クローディン3の発現と、表皮タイトジャンクションのバリア機能の増強につなげることができました。
住田さんは「国内では、花王しか使えないアミノ酸系の素材です」と希少性を説きます。
ガンマ-アミノ-ベータ-ヒドロキシ酪酸の構造式
数値による客観評価と、正確性を追求した主観的評価の手法を構築
最終段階で臨んだのは、ガンマ-アミノ-ベータ-ヒドロキシ酪酸の効用を人で試す試験でした。敏感肌意識があり、刺激感受性が高い20~40代の女性40名を対象に、ガンマ-アミノ-ベータ-ヒドロキシ酪酸を含むプロトタイプ製剤を8週間使用する群20名と、含まないプラセボ製剤を使用する群20名に分けて、連用試験を実施しました。この試験でも細心の注意を払いました。
住田さんは「花王が目指している商品像は実効果感のある製品・技術の提供です。そのエビデンス(根拠)として単なる主観的評価だけでなく、科学的に客観的な評価できるのかという点が非常に重要になってきます」と強調します。「チクチク・ヒリヒリ感といった主観的な感覚刺激を本当に数値化できるのか」「そもそも試験に参加してくれた被験者は主観的評価として、チクチク・ヒリヒリ感が軽減したと認識できるのか」。常に疑念と向き合いながら、評価手法を模索しました。

「これしかない!」。たどり着いたのが、大きく2種類の手法です。客観評価としては、知覚神経活動を評価できる検査装置「ニューロメーター」で、電気刺激を用いて直接的に確認する方法。これによって、刺激の感受性を数値化しました。主観的評価は、「チクチク・ヒリヒリ感の強度と頻度」について確認しました。各被験者の体験に沿って、「今までで一番強く肌がチクチク・ヒリヒリした程度を100点として、今日は何点ですか?」という質問形式の日誌を試験期間中、被験者ごとに毎日決まった時間に回答してもらう方法です。

主観的評価については、回答期間も工夫しました。ガンマ-アミノ-ベータ-ヒドロキシ酪酸連用前の4週間、つまり被験者の通常のスキンケア期間も回答してもらったのが特徴です。住田さんは「明確な疾患と違い、敏感肌の場合は、ヒリヒリ感がある日とない日のゆらぎがあります。事前の期間に発生した刺激の程度・頻度を解析することで、ガンマ-アミノ-ベータ-ヒドロキシ酪酸の効果を被験者それぞれの実感として把握できるようになりました」と解説します。
「肌に自信が持てるようになった」と感謝の言葉
連用試験の結果、プロトタイプ製剤を連用した群は、プラセボ製剤に比べ、刺激を感じる最小の電気レベルが有意に高くなり、チクチク・ヒリヒリ感に対する感受性が下がりました。これはプロトタイプ製剤の有効性が客観的に評価できたことを意味します。
また、試験終了後のアンケートでは、プロトタイプ製剤を連用した群は「チクチク・ヒリヒリ感の強度が軽くなった」と回答した割合(「そう思う」「ややそう思う」の合計)が80%、「チクチク・ヒリヒリ感を感じる頻度が減った」と回答した割合(同)が85%だったのに対し、プラセボ製剤を連用した群はそれぞれ5%にとどまりました。この割合の違いについて検定すると、有意な違いであることが確認でき、プロトタイプ製剤の有効性が主観的に評価できました。
プロトタイプ製剤を連用した被験者の方々からは次のようなコメントが寄せられました。「お友達と会って楽しく時間を過ごすことができるようになりました」
「娘や友人から肌の調子が良くなったねと言われて、肌を触ってもらって嬉しかったです」
「肌に自信が持てるようになって、SNSに投稿する写真を撮ることが楽しくなりました」
「気分も上がり、いろいろな色でメイクを楽しめるようになりました」
住田さんは「こうしたコメントを自発的にいただけたことに、この技術に対する大きな自信と、ある種の達成感を私もいただきました」と目を細めます。「今までは、チクチク・ヒリヒリ感を感じて肌の調子が悪いからとあきらめていたことを、実感できるレベルで改善することができ、QOLを向上できる技術ができたことは、困っているお客様に寄り添う新たな選択肢として役立てるのではないかと考えています」と自信を示しました。
自分だけでなく、自分を取り巻く方たちのQOLも向上できる社会に
「深部バリアケア技術」は、2025年7月4~5日に東京都で開催された第50回日本香粧品学会で発表。この時に披露された約40演題の研究の中から最優秀賞の「会頭賞」に選ばれました。懇親会では、同業他社の研究者から研究期間や設備などについて質問が相次ぎ、加藤さんは「時間をかけて価値のある研究ができたのだと改めて実感しました」と語りました。

「敏感肌は世界的にも多くの方が経験する非常にありふれた皮膚トラブルです。要因や症状なども多岐にわたることが推察されるので、その多様性を少しでもひも解き、お客様の健やかな生活に貢献できるよう、研究を進めてまいりたいです」と未来を見据えます。
また、住田さんは、敏感肌が人間関係にも影響を及ぼす実態を振り返り、こう思いを込めました。「チクチク・ヒリヒリ感に代表される敏感肌症状に悩み、自分の肌に自信が持てなくなった生活者の皆様が、何も気にすることなく自分らしく自信を持って社会活動することができ、自分だけでなく、自分を取り巻く方たちのQOLも向上できる社会になってほしいと願っています」

左から)加藤亜里沙さん、住田泰輝さん
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