【世界保健デー】改正医療法成立、新しい地域医療構想を見据えた具体策と事例 ②救急医療の最適化を目指し民間事業者ができること
4月7日は世界保健デー。
2026年のテーマは「科学に基づき、みんなで健康に」です。「ワンヘルス・アプローチ」などの視点は、医療が社会システム全体で最適化される段階にあることを示しています。この「科学の力」が今まさに求められているのが、日本の救急医療現場です。高齢化による出動件数の増加で救急搬送の逼迫が顕在化し、既存システムだけでは最適化が困難です。改正医療法の成立に伴い、AIなどのテクノロジーや民間事業者の力を活用した救急医療体制の再構築が求められています。
今回は、救急専門医であり、医療プラットフォームを展開するMRT株式会社・代表取締役の小川智也にインタビューを行いました。救急医療の課題と解決策をはじめ、「救急医療の最適化」を目指す同社の取り組みや、民間事業者の関与が開く地域医療の可能性について聞きました。

救急医療の現状:改正医療法と現場を襲う「時間の延伸」という課題
- 今年の「世界保健デー」のテーマは「科学に基づき、みんなで健康に」です。改正医療法により地域の救急体制が転換点を迎える中、最前線を知る救急医として、現在の救急医療にはどのような課題があるとお考えでしょうか?
小川:
現在の救急医療は「持続可能性の限界」に達しています。救急車の需要が激増し、本当に必要な負傷者への対応が遅れていることに強い危機感を抱いています。
医療機関の機能分化が進む一方で、現場では深刻な「時間の延伸」が起きています。
令和5年の救急出動件数は約764万件と最多を更新。救急車が現場に到着する時間は、平成15年の約8.7分から令和5年には約10分に延びました。さらに深刻なのは、病院に搬送されるまでの時間です。以前は約30分でしたが、現在は約50分にまで延伸しています。※1
IT化や機能分化が進む中で、短縮されるべき時間が逆行しているのです。

※1 出典および画像:規制改⾰推進会議 健康・医療・介護ワーキング・グループ
消防庁提出資料「消防機関の救急救命⼠の状況(令和7年3⽉14⽇)」
- 救急現場での時間の延伸は、「救えるはずの命」がこぼれ落ちることを意味しますね。
小川:
その通りです。この背景には「医療資源の分散」があります。例えば、病状が安定した患者の「転院搬送」にも救急車が使われており、これが全体の約1割を占め、地方では最高約14%(佐賀県など)にも上ります。過去最多の出動件数の中で、1分1秒を争う重症者への対応が、軽症者の対応や事務的な運用によって阻害されているのです。
現場のマンパワーに頼るだけでなく、これらの科学的データを直視し、医療機関、厚生労働省、総務省消防庁、自治体、そして民間事業者が連携して、救急医療の「構造的な最適化」を急がなければならないと確信しています。

※2 出典・画像:消防庁「令和4年中の救急搬送における医療機関の 受入れ状況等実態調査の結果」を参照し小川作成
救急医療の逼迫が顕在化する地域と、MRTが描く「医療アクセスの全体像」
- 特に救急医療の逼迫が顕在化している地域はありますか?
小川:
東京などの都心部や大阪、神奈川、そして沖縄での逼迫が深刻です。これらは出動件数が多いだけでなく、高齢化率の高さや、海外からの滞在者が多い地域でもあります。例えば沖縄では、病院までの距離や受診先探しの難しさから、「とりあえず救急車を呼ぶ」といった適正利用の課題も抱えています。
今は一部の地域で顕著ですが、この問題は今後全国へ波及していくと捉えています。全国に広がる前に先手を打つことが、地域の医療課題の解決と適正な医療提供につながると考えています。
- そうした地域医療課題に対し、MRTはさまざまなアプローチしてきましたね。
小川:
MRTでは、これまで「医療アクセスの改善」に向けて様々な取り組みを行ってきました。 例えば、軽症であれば「オンライン診療」で解決できます。ある程度の処置や看護師のサポートが必要な場合は、車両で医療を届ける「医療MaaS」が有効です。そして専門的な検査や病院への搬送が必要なケースには「民間救急」を連携させることを推進します。
これまでのコールセンター運用、AI連携、オンライン診療、そして民間救急の活用。これら救急医療に必要な全てのピースをつなぎ合わせることこそが、私が思い描くMRTの取り組みの全体像です。

【参考リリース】
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救急外来のひっ迫回避と観光客への高付加価値化を両立 ー医療MaaS「ぬちまーす号」の運行を恒久化、活用可能な旅行保険も拡大提携レンタカー利用の外国人観光客はキャッシュレスで利用可能にー
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ホテルで待つだけで診療が完結!救急外来ひっ迫課題と観光客の不安に向き合う事業医療MaaS「ぬちまーす号」の実証事業を1月24日に開始
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MRT 移動式マルチタスク車両「医療MaaS」の実証実験を10 月27 日(金)より三重県にて開始
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民間救急のスケールアップ:救急医療の「構造的な最適化」に向けた役割分担
- 救急資源を適正に配分するために、民間事業者が担えることは何でしょうか?
小川:
現在の民間救急は「介護タクシー」のような利用方法も多いのですが、私はこれを、本当に必要な救命救急の現場をサポートできる体制へとスケールアップさせたいと考えています。
民間救急事業者と連携し、MRTが構築してきた約20万人の医師・看護師ネットワークを活用したオンラインサポートを提供します。民間の救命士に対しても消防と同等の医療クオリティを担保できる体制の構築を進めています。
科学による救急医療の最適化:Quickとの戦略的提携によるAIトリアージの実現
- テクノロジーの活用も加速しています。先般リリースしたQuick社との戦略的提携にはどのような狙いがあるのでしょうか。
小川:
これも、今年の「世界保健デー」のテーマである「科学に基づき、みんなで健康に」を具現化する取り組みの一つです。消防の膨大な音声データで学習したQuick社の「AIトリアージ」と、MRTの医療人材ネットワークを連携させます。
119番通報の段階でAIが緊急度を瞬時に判定し、不要な救急出動を抑制。軽症であれば民間救急やオンライン診療へ、重症であれば即座に消防へ繋ぐ。この科学的な根拠に基づく「入り口の交通整理」こそが、逼迫する救急医療体制を再構築する強力な手段になると確信しています。
- 自治体ごとの格差や、現場運用への落とし込みが難しいという課題については、どのようにお考えですか?
小川:
AIという「システム」を提供するところからさらに拡大し、BPO(業務委託)の運営や医療人材の適正配置までを総合的にサポートします。
科学的なデータに基づく判断支援と、MRTの医療従事者ネットワークを組み合わせることで、地域それぞれの課題に応じた柔軟な解決策を提供できます。テクノロジーの導入を現場の負担にするのではなく、医師やスタッフの業務環境を改善し、より良い医療を提供するための土台にしていきたいと考えています。
【参考リリース】
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MRTとQuickが戦略的業務提携契約を締結
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2040年を見据えた救急医療:持続可能な地域医療基盤の構築
- 日本が人口減少と超高齢化のピークを迎える2040年、救急医療はどう変わるべきでしょうか。
小川:
2040年の予測データによれば、搬送件数は年間約300万件増加します。(※3)救命の最前線で「個人の限界」を痛感した私は、既存システムの維持だけでは未来を守れないと考えています。
だからこそ、非接触バイタルセンシングや自動運転、ARを活用した遠隔指示など次世代テクノロジーを注視し、現場で実証していくつもりです。素晴らしい科学の進歩は、現場で「命を救う力」として運用されて初めて真の価値を持つからです。

※3 出典および画像:
第8回地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 厚生労働省提出資料1
「新たな地域医療構想策定ガイドラインについて(高齢者救急、医療機関機能)(令和7年12月12日)」
- 小川さんの救急医療に対する情熱の源泉を教えてください。
小川:
私の座右の銘は「小医は病を癒し、中医は人を癒し、大医は国を癒す」であり、MRTの企業理念は「医療を想い、社会に貢献する。」です。
かつて救急医として目の前の患者に全力を尽くしてきましたが、医療システムを変えれば、私が一生かかって診るよりも遥かに多くの命を救うことができます。 誰もが適切な医療を享受できる社会を目指し、理知的な科学の力と、人を想う温かな情熱を大切にしながら、これからも持続可能な地域医療の基盤づくりに取り組んでいきます。
おわりに
MRTの代表である小川のキャリアとMRTの原点に触れると、今回の「救急医療の最適化」というテーマの背景がより鮮明になります。
MRTはもともと、多忙な現場で働く大学病院の若手医師たちが互いの勤務を調整し合う互助組織からスタートしました。小川自身も、救急医療の最前線で活動する中で「システムを改善することで、より多くの命を救う仕組みを作りたい」と考え、経営の道へ進んだ経緯があります。
民間救急のスケールアップやAIトリアージの導入といった一連の取り組みは、最新テクノロジーの導入に加え、医療従事者が抱える現場目線での課題に寄り添うことで、社会インフラとして定着させるための実践的なアプローチといえます。
互助組織から始まり、今や全国約20万人の医療従事者を繋ぐプラットフォームへと成長したMRT。これからも現場のリアルな声に耳を傾けながら、誰もが安心できる持続可能な地域医療システムの構築に向けて、取り組みを進めていきます。
【文中の用語集】
◆世界保健デーとは
WHO憲章がはじめて設定された4月7日を記念して、1950年以来、毎年4月7日が世界健康デー(World Health Day)として定められました。
WHOが毎年、世界健康デーのテーマを発表すると、世界中の多くの国では、「世界健康デー」として、4月7日(あるいはその前後に)さまざまな健康のためのイベントが行われています。日本では、世界健康デーのテーマを厚生労働省が日本語に訳しています。
【出典】公益社団法人 日本WHO協会
◆世界保健デー2026年のテーマ
2026年の世界保健デーのテーマは「Together for Health, Stand with Science(科学に基づき、みんなで健康に)」です。人々の命を守り、信頼を回復し、より健康な未来を守るため、政府、科学者、医療従事者、パートナー、市民一人一人が、科学に基づいて行動することを呼びかけています。人々や動物の健康だけでなく、それを取り巻く植物や地球環境を一体的に捉えた「ワンヘルス(One Health)」の概念に基づき、科学的知見を行動につなげることを目的としたキャンペーンが展開されます。
【出典】厚生労働省「日本とWHO」
◆救急出動件数等の状況
令和5年中の救急自動車による全国の救急出動件数と搬送人員は集計を開始した昭和38年以降、最多となった。【救急出動件数】約764万件(対前年比+5.7%)
【救急搬送人員】約664万人(対前年比+6.8%)
現場到着所要時間(119番通報を受けてから現場に到着するまでに要した時間)の平均は約10.0分(前年約10.3分)となっており、新型コロナウイルス感染症禍(以下、「新型コロナ禍」という。)前の令和元年と比べ、約1.3分延伸している。また、病院収容所要時間(119番通報を受けてから医師に引き継ぐまでに要した時間)の平均は約45.6分(前年約47.2分)となっており、新型コロナ禍前の令和元年と比べ、約6.1分延伸している。
【出典】規制改⾰推進会議 健康・医療・介護ワーキング・グループ
消防庁提出資料「消防機関の救急救命⼠の状況(令和7年3⽉14⽇)」
◆2040年の医療需要
医療・介護の複合ニーズを有する85歳以上の高齢者が増加することが見込まれる。2020年から2040年にかけて、85歳以上の救急搬送は75%増加し、85歳以上の在宅医療需要は62%増加することが見込まれる。
【出典】第8回地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 厚生労働省提出資料1
「新たな地域医療構想策定ガイドラインについて(高齢者救急、医療機関機能)(令和7年12月12日)」
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