受刑者の社会復帰のために民間の教育企業としてやっていること。官民協働の刑事施設で行う取り組みについて。


「エデュテインメントを通じて、人生をより前向きに、より豊かに!」を経営理念とする㈱小学館集英社プロダクション(以下、ShoPro)は、夢中になる「学び」、心に残る「遊び」を生み出すために多岐にわたる事業を展開しています。

「エデュテインメント」とは、「エデュケーション(教育=学び)」と「エンタテインメント(娯楽=遊び)」を合わせた造語で、「学び」であっても「遊び」であってもすべての世代の人たちにとって「楽しい」「ワクワクする」という要素が最重要となります。

ShoProがこれまで培った「エデュテインメント」の要素を、刑務所での矯正教育事業においても大切に、民間企業として質の高いサービスの提供を心がけています。


多くの出所者が「仕事が見つからない」「住む場所が見つからない」といった理由で、再び罪を犯してしまうケースも多々あり、新たな被害者を生まないために民間企業だからこそできる再犯防止の取り組みを、パブリックサービス事業部 矯正教育企画課の課長 田辺 準に話を聞きました。



――株式会社が刑務所の運営にかかわることになった経緯と、ShoProが担当する範囲について教えてください。


2000年ごろは世の中に犯罪者が多く、どこの刑務所も人がいっぱい溢れ過剰収容状態にありました。そんな状態では刑務官も疲弊し、運営もなかなか大変だったそうです。しかし刑務所を新しく建てると莫大な費用がかかってしまう。それを国の予算で確保するのは困難。そんなときに海外では※PFIという手法で刑務所も民間委託しているということで、日本でもこの手法で、民間の力を借りて新しい刑務所を建てようということになったんです。

(※ PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)とは、公共施設等の設計、建設、維持管理及び運営に、民間の資金とノウハウを活用し、公共サービスの提供を民間主導で行うことで、効率的かつ効果的な公共サービスの提供を図るという考え方)


通常だと刑務所を一つ作るのに1年で何百億円という予算が必要なのに対して、PFIの手法を使えば民間の費用で建物と運営のセットの契約にすることで、たとえば建物を建てるのに100億円、20年間運営するのに100億円だとするとトータルの200億円を20年間に分割すると1年で必要なのは10億円ということになります。この手法で作られたのが2007年から運営をスタートした山口県の美祢社会復帰促進センターです。

民間委託して刑務所を運営するとなったときに、建物を建てる会社や、維持管理する会社、受刑者の食事を用意する会社、洗濯物を扱う会社などいろんな会社が参画を検討したと思います。その中で大手建設会社の方からShoProに刑務所内での教育を担当してほしいという話をいただき、いろんな会社とコンソーシアムを組んで入札に参画し、受託したという流れです。


ShoProが担当するのは再犯防止を目的とした「職業訓練」、「教育」、「分類」、「医療」の4業務です。

「職業訓練」は資格の取得など手に職をつけさせるもの。

「教育」は刑務所に入ることになった要因、たとえば薬物や傷害や窃盗といった犯罪性から離脱させることを目指した教育プログラムを主に行います。

「分類」は簡単に言うと刑務所内の事務仕事が主になります。受刑者の情報を管理する業務です。その他福祉的支援、就労支援など社会復帰の支援も担当します。

「医療」は受刑者の健康診断や作業療法、理学療法を行います。

国との契約で週に何時間以上、受刑者に教育を提供することが要求水準として規定されているので、それに対応する提案をしています。


教育といっても元々子ども向けに英語教室や幼児教室をやっていたShoProが、畑違いの受刑者向けの教育を担当するのは最初のうちはかなり苦労したと思います。また国の刑務官と株式会社の会社員だと風土も違うし、スタートした当時は大変だっただろうなと想像します。


      日本初の官民協働で運営されている美祢社会復帰促進センター

 

――美祢社会復帰促進センターから始まって、今では5か所の施設を運営していますね。


2007年に栃木県の喜連川社会復帰促進センター、2010年に栃木県の黒羽刑務所、静岡県の静岡刑務所、岐阜県の笠松刑務所の官民協働事業開始し、2022年の黒羽刑務所の老朽化による廃庁を経て、同年兵庫県の播磨社会復帰促進センターの運営をスタートしました。


2007年当時、最先端だったと思うのですが美祢社会復帰促進センターで収容定員1,000人のところで、受刑者全員にパソコン訓練を導入しました。それまで既存の刑務所でも少人数だけ集めてパソコン訓練をすることはあったと思いますが、全員を対象にするのは提案の肝であったと聞いています。

その後島根あさひ社会復帰促進センター、喜連川社会復帰促進センター、播磨社会復帰促進センターと4つの社会復帰促進センターが立て続けにできました。当初より4つの社会復帰促進センターを作る予定だったと思いますが、それも当時の過剰収容の問題を解決するためという理由が大きかったのだと思います。


――田辺さんがこの仕事をするきっかけは何だったのですか?


ぼくはもともと静岡刑務所のスタッフという立場で2010年にShoProに入社しています。当時付き合っていた彼女(今ではその方と結婚しました)がプータローをしていたぼくに、「こんな仕事があるよ」と新聞広告を見せてくれたのがきっかけです(笑)。

その年は、ちょうどShoProが黒羽刑務所、静岡刑務所、笠松刑務所と官民協働事業を開始するタイミングで、社会復帰促進センター以外にも民間委託を拡大しようとなっていたときです。

黒羽刑務所は廃庁になってしまいましたが、一般の刑務所で教育などの業務にこの委託範囲で民間が入っているのは静岡刑務所と笠松刑務所だけです。

ShoProが行う教育内容は5施設で同じですが、社会復帰促進センターよりも静岡、笠松はより委託範囲が狭くなっています。社会復帰促進センターは官民協働を前提に作られた施設なので、プログラムの実施のほとんどが民間に委託されていますが、静岡や笠松は元々国で運営していた刑務所なので、その一部を民間に委託されていて、スタッフの人数も少ないです。

ぼくが最初入社したときは2人しかスタッフがいなかったし、また当時の静岡刑務所でShoProが受託していた業務は「教育」と「分類」だけでした。ぼくはそこで「分類」を担当していました。

2017年静岡刑務所第2期事業スタートのタイミングで法務省からの入札要綱に職業訓練・教育・分類をシームレスに連携させて、社会復帰につなぐという内容があり、「職業訓練」も静岡刑務所で担当することになりました。


ぼくは静岡刑務所に4年半勤務して、その後ShoPro本部に異動しました。今では5施設の運営全般を見させてもらっていますが、最初は転職したみたいな気持ちになりました。

静岡の現場にいるときは対受刑者、対刑務官といった仕事がほとんどだったけど、本部に異動してからは5つの施設の委託費の管理や会議資料作成、労務管理など現場の仕事とは全然違いました。

ただ施設で起こっているシリアスな問題に関して、現場の空気感を知らないとわからないこともあったと思うので、その点に関してはそのときの4年半の現場経験があったよかったなと思っています。その時の貯金で今もやっているような部分が少なからずあると思います。


――ShoProが行っている職業訓練について、具体的に教えてください。


2018年に美祢社会復帰促進センターで、刑事施設で初めてインターネットをつないで美祢市の特産品のECサイトを作るという職業訓練を、美祢市とヤフー株式会社(現 LINEヤフー株式会社)と協力して行いました。あとは美祢ではペットのトリミング技術を教える職業訓練も行っています。


また喜連川社会復帰促進センターでは女性受刑者にネイリストの訓練もやっています。2022年第2期スタートのタイミングから、喜連川にも女性受刑者の収容が始まり、喜連川にネイルが得意な社員もいるので、ネイリストの訓練を始めました。喜連川ではネイルサロンで働けるような資格まで取ることができます。


笠松刑務所ではホテル清掃(ベッドメイキング)の訓練をやっています。これは別の事業のご縁で出会ったホテルグループ企業に、ベッドメイキングの技術を受刑者に教えてほしいとお願いし、実現したものです。

訓練を企画するときに、ベッドメイキングの技術はどこのホテルでも基本は共通しているんじゃないかと考えました。ホテルは全国どこにでもにあるし、笠松刑務所から出所する人は全国いろんなところに帰っていく。そのときにどこの地域に帰っても、刑務所で学んだ技術を生かして、就職できるんじゃないかと考えました。

実際訓練後、出所する前にホテルに内定をもらう人もいます。


播磨社会復帰促進センターに関しては、前事業者が実施していたものを一部残してほしいと言う意見があり、フォークリストの免許を取らせる訓練もやっています。

今、建築業界やドライバーはものすごく人手不足なので、世間一般に人が足りないと言われている職種を訓練でフォローすることも考えています。


静岡では物流業界で働く人を増やすための職業訓練をやっています。

あとVRコンテンツを作る会社とお付き合いがあり、フォークリフトのVR体験や建設業の高所作業といった、危険な場面をVRで体験するというコンテンツを、既存の職業訓練にプラスアルファしています。今後はVRだけで完結するようないろんな技術が出てくると思います。


美祢ではメタバース空間を受刑者が作る訓練を昨年から実施していて、センター生(美祢では受刑者をこう呼びます)が制作したメタバースワールドが間もなく完成します。完成後は、センター生と一般社会の人たちがメタバース上で交流できる仕組みが何かできないかと考えています。



――職業訓練によって得られる効果は何ですか?


出所するとき、「また犯罪を犯すぞ!」なんて誰も思っていなくて、今度こそちゃんとしようと考えているのに、仕事がないことによってその気持ちがくじけてしまう。刑事施設に再び入所した者のうち約7割が再犯時に無職。仕事に就いていない者の再犯率は、仕事に就いている者と比べて約3倍というデータもあります。

仕事があることによって、それがセーフティーネットになるのではないかと思います。だからこそ出所後に役に立つ「職業訓練」は非常に大切だと思います。


そもそもぼくは静岡で就労支援の仕事をしていたとき、それまでぼく自体が無職だった期間がある。だからこそわかるんですよ。仕事してないと、やっぱり人間の生活って乱れていくんですね。そのときの経験はこの仕事をする上ではすごく生きていると思っていて、1対1で受刑者の方と話をするときに自分の経験を話すとそれなりに響いていたと思います。犯罪をしてしまうというのは金銭的な問題もあるけど、どこかに所属しているという社会的なつながりがないのも理由の一つであると思います。


静岡刑務所で会った受刑者の方々はぱっと見、ぼくと何も変わりがなくて、なんなら立場が逆でもおかしくないと思いました。ああ、こんな出会いでなければ友達になっていたかもしれないなと思う受刑者もいました。


――2025年6月から※拘禁刑が施行されたことで何か変化はありますか?

※(拘禁刑とは従来の懲役刑と禁錮刑が統合され、従来の懲役刑では義務付けられていた刑務作業が、拘禁刑では刑務作業についてより細やかな処遇が行われ、受刑者の改善更生や社会復帰が重要視されるようになること)


4つの社会復帰促進センターができたこともあり、2010年ごろには、過剰収容状態はだんだん緩和されていました。

ぼくが静岡刑務所で働き始めた2010年当時は、1,000人収容のところ800人ぐらいの受刑者がいたと思います。でも今は半分程度に減っている。

刑務所は社会の縮図とも言われているので、受刑者が減っている理由として人口減少や少子高齢化もありますが、一番の理由は初犯の受刑者が減っているんです。逆に2回目、3回目っていう人はそんなに減ってない。要は再犯率が高いままなんです。


拘禁刑に代わって、これまで作業していた時間をこれからどうやって改善更生に使っていこうかとなったときに、これまで8時間刑務作業をやっていたとしたら、そのうちの何時間かを受刑者個々の特性に応じて矯正教育のための時間に使えることになります。

拘禁刑で求められているようなことって、実はぼくたちが社会復帰促進センターでずっとやってきたようなことなんだと思います。

最近はShoProさんで何かできることがありませんかという相談をいただくこともあります。

そんな要望に対しては、販売用の教材を購入いただいたり、講師の派遣を行ったり、新規プログラムの提案などを行っています。


拘禁刑下で生まれた時間でやることとしては、個人的には資格の勉強が一番いいんじゃないかと思います。職業訓練でも受刑者の資格合格率がすごく高くて(それは勉強する時間が社会にいるときより取りやすいからだと思います)、出所後に何年間か資格登録できない資格もありますが、市販の通信教育などShoProの施設でも提供していています。国家資格の講座を勉強するため教材を買われる受刑者もいます



 人手不足が指摘されている職種の訓練も社会復帰のためにフォローされています

                              ©小日向まるこ


――田辺さんにとって矯正教育を通じて実現したい理想や、ShoProができる社会貢献は何ですか?


入社するときの研修で顧問の先生から、「田辺さんね、刑務所に入るにも大変なんですよ」って言われたのをよく覚えています。

よく有名人の謝罪のシーンをニュースで見ますが、覚せい剤で捕まっても初回は執行猶予になることが多い。窃盗でいうと、万引きをしても、たぶん初回は事務所で注意されて帰されるのではないかと。

2回目には家族が呼ばれ、それでも家族が立て替えてくれるかもしれない。

3回目になると警察が呼ばれるかもしれないし、それが続くと起訴されることになると思いますが、執行猶予がつけば刑務所にはいかない。それでもやめられなくて最終的には実刑判決を受け、いよいよ刑務所に入ることになります。

だから受刑者は犯罪のエリートなんだと教えられました。現場に行く時にも、「決して一線を越えてはいけない」と言われました。


矯正教育のプロフェッショナルでいるための最低限の心構えは、入り込みすぎないことと思っています。目の前にそういう人がいると受刑者とは言え情が入ることもあると思う。「篭絡」という言葉があり、相手との距離があいまいになり、同情したり入れ込んでしまう。だからそのあたりのことは新入社員にも研修でよくよく話をします。


無期懲役でも30年程度経つと仮釈放が認められることもあるようなので、日本ではほとんどの受刑者が出所してきます。

だからこそ、彼らが出所するときに、罪を犯したときより少しだけでも良い方に変わっていてほしいと思うんです。たとえば何か技術を身に着けたとか、こういう考え方ができるようになったとか、なんでもいい。


「刑務所にいる間はいいんです。周りはみんな受刑者だから。でも外に一歩出たら、受刑者は自分だけになってしまう。世の中には刑務所出所者がたくさんいるだろうけど、自分が刑務所に入っていたことを他人には言わないので、出所者(という存在)は自分だけになる。刑務所を出たあとはそれが怖かった。」

と今は出所して社会復帰している方から聞いたことがあります。

我々が運営する施設でも、他の施設でも改善更生に向けた取り組みを様々行っていますので、受刑者は多少なりともいい方向に変わって刑務所を出所していくように感じます。


でも、受刑者が戻ってくる社会側はどうでしょうか。何か変わったかというと、受刑者に対する偏見は根強くあると思うし、そもそも受刑者の改善更生を自分事として考えるようなことってこういう仕事でもしていない限りあまりないのではないかと。

受刑者が戻ってくる社会側も多少なりとも変わっていかないと、受刑者が社会復帰していくのは難しく、また罪を犯してしまうかもしれない。でないと、また悲しむ人が生まれてしまう。



アート×刑事政策の試みとは?


受刑者の社会復帰を自分事として考えてもらうためには何ができるか、そんな考えから生まれた企画がPRISONARTでした。


PRISONARTとは、受刑者とアーティストが共同でアート作品を制作、販売し、その売り上げを社会に寄付する受刑者による社会貢献型のプロジェクトです。

PRISONARTでは、受刑者の改善更生や再犯防止といった自分事としてとらえにくい(であろう)テーマについて、アートを切り口にすることでその敷居を下げることに挑戦しました。

2024年に展示会vol.1(9作品)、2025年にvol.2(12作品)を実施し、作品は2年連続で完売。2025年からはTシャツなどグッズ(上記写真)の販売を開始し、ありがたいことにたくさんの方に購入いただきました。


PRISONARTの詳細をここですべて語ることはできないのですが、instagramをやっています。そちらでは受刑者とアーティストによる共同制作の作品も公開していますので、ぜひインスタをご覧いただければ喜びます。

フォローしていただけたらもっと喜びます。



受刑者は刑務所を出所しても罪を一生背負っていかないといけないと個人的には思うけど、罪を犯してしまった人でさえ、やり直しができるような社会になっていくことを、こういう仕事してる以上は目指していくべきだと思っています。


とはいえ、加害者がいれば被害者がいらっしゃるのも事実。矯正事業は直接被害者の方たちに向けての事業ではないので、この刑務所で培ったノウハウを、何か被害者の人たちが救われるように少しでも還元できないかと最近考えています。


この事業の究極の目的は、受刑者が更生することもさることながら、そもそも刑務所に入らない人を育てることだと思っています。

最近は知らず知らずのうちに受刑者になってしまったケースもあると思うんです。たとえばオレオレ詐欺の片棒を担いでしまったとか、知識がなかったり、これはダメだという感覚がわからなかったり、そういった人たちを減らすのもShoProができる社会貢献だと思っています。


これまで15年この事業を担当してきましたが、すごく深い仕事だと思っていますし、できればこれからもこの仕事を追及していきたいなと思います。





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