2025816日()

第2部 トーク セッション

 キーノートセッション、地域リポートに続いてトークセッションがあった。それぞれの挑戦の意義や周囲の巻き込み方、情報発信の方法などを議論。これからのチャレンジについて、熱く語り合った。

マスから個へ 新しい可能性

 直野 皆さんが大分で挑戦することの意義を教えてください。

 岩尾 東京に12年暮らし、もう帰ることはないと思っていながら、ずっと大分のことが気になっていました。郷愁や帰巣本能みたいなものなのか、自分でも分からないけれど。また、大分市には精力的に活動する古本屋がありません。この都市の規模で、昔ながらのDNAを残す古本屋がこんなに駆逐されているのは大分だけなのでは。大分で仕事をするならやっぱり旗を立てていきたい。全力で生きていけるよういろんなものを背負いたいと思っていました。ここでやる意味は、やり続けないと分かりませんね。

 河野 正直、大分である必要はないんですよ。ただ東京にいたくないという思いがありました。ではなぜ大分か、郷愁なのか何なのか、答えは出ていません。IT業界は電源とWi-Fiがあればどこでも仕事ができるのに、やっぱりみんな東京にいる。これが悔しい。自由な働き方で、どこでもできるとちゃんと証明したいという思いはあります。

 岩尾 大分で本屋をやることは強く意味付けできませんが、大分で暮らしていることにはすごく意味があります。生まれた場所であり、老いていく両親のそばにいたい気持ちももちろんある。何よりすごく可能性を感じます。僕はリュック一つでいろんな国に行きますが、世界的にもこんな豊かな所はないと確信しています。今後絶対ブレークすると信じて住んでいます。

 岡野 私は地方の方が面白いと思っています。課題があればあるほど面白い。課題があるということはそれだけ改善できるということですから。「どローカル」にこそ魅力を発見する楽しみがたくさん潜んでいます。価値が見直されている時代が本当に来ていて、ますます地方、田舎の面白さは顕在化していくはず。それがふるさとの日田でやる意義です。

 小野 17Liveは台湾出身の会社でいろんな地域の人が集まっていますが、一度も地元の話が出たことがありません。地方にいる人ほど地方に縛られている可能性があるということは、あえてアンチテーゼとして言いたい。結論としてどこで何をするかはその人の価値で、絶対的に正しいと思いますが、地方の話をするのは自分にタガをはめている可能性があるのでは。地方の話をしなければいけない理由を、ネットが発達した今、改めて問い直してみませんか。

 直野 南さんは発信の部分で課題があるそうですね。

 南 仕事をつくる、良い商品やサービスをつくる、というところまではある程度できるんです。そこから先の発信が難しい。BtoC(消費者向け取引)ならSNSやネット、テレビCM というのがオーソドックスなやり方かもしれません。でもBtoB(企業向け取引)で特定の企業に向けてPRしたいとき、人脈がないと難しい。良いものをつくってもそこから先がない。それが発信の課題です。

 直野 河野さん、情報発信のすてきなアイデアがあればお聞かせください。

 河野 大分でもインスタを使った集客だけでもうかっている店があります。まずその可能性を知ってもらいたいです。観光もこれまでと全然違います。この間韓国に行って、インスタのハッシュタグ「#釜山#観光#旅行」などで上がってくるお店をグーグルマップにピン立てして、自分がいる場所からアクセスがよく興味のある所に行きました。今後はたぶん、これがデフォルト(標準)になっていく。県内でこの対応ができている会社はほぼゼロ。ブルーオーシャン(未開拓の市場)です。もちろんBtoBもです。

 岩尾 フェイスブックやツイッター、インスタグラムの手応えはありますね。インスタは確かに強くて、いわゆる「タグる」を僕もこの間、山口でしました。「#山口#旅行」「#山口#カフェ」とか。カモシカにもインスタを見て来てくれているのを感じます。僕はフォロワーを「戦闘力」と呼んでいますが、すごく戦闘カが高い個人のインスタグラマーが来て投稿すると、その周辺の人がしばらく来てくれる。これは馬鹿にならない。

 丸田 有名な酒蔵と取引できるようになったのに誰も買いに来ないということがありました。その商品がいくら有名でも、売っている店のことを誰も知らないから。逆に言うと、僕たちのことが知られればどんな無名の商品でも買ってもらえるということです。では情報発信をどうするか。時には取材に来てもらうことも大事です。CFは大手のサイトではなく、あえてサンドイッチを使いました。まだユーザー登録数が少なく、実績がない。ここで実績を出すと話題になり、取材に来るだろうと。実際、目標金額の150%を達成して、各社が取材にきてくれて、さらには講師として話す機会もいただきました。自分での情報発信には限界もあり、人に頼る、巻き込むことも大切です。

 岡野 ICTによってつながり、情報発信の仕方がマスではなく個になっています。だからこそ新しいやり方がある。そういうフェーズに来ています。高校生は自分が欲しい情報しか取っていない。情報のあり方自体が根本から変わってきていると感じます。何を選ぶか、どんな方法を取るかですよね。

 小野 高校生がよく使う、リアルタイムで自分の居場所を地図上で共有し合うアプリがあります。それを聞いたとき「何じゃそれ、危ないじゃないか」などと思ったのですが、その瞬間に自分を疑いました。「やべえ、もう老害になっている」と思った。世の中の常識はどんどん変わっていって、良い悪いではなくテクノロジーの発展ってそういうもの。もちろんどんな生き方をするかはいろんな選択肢がありますが、まずは受け入れる姿勢が大事ではないでしょうか。僕は「そんなのやばい」と思った自分に強烈な危機感を覚えました。これをいかに壊すかが一番のチャレンジです。
 直野 議論を踏まえて、皆さんの「ミライ宣言」を書いてください。小野さんの本に「ヒトというのは、それまで『あり得ない』と思っていたチャレンジを達成してしまうと、同じレベルのチャレンジでは物足りなさを感じてくる」という言葉がある。さらに激しいチャレンジを教えてください。

 岡野 「個と公」。価値観が多様化していく中で、個人と公共・地域がどう交わっていくかに一番興味があります。そういう場所をこれからもつくっていきたい。

 南 「10社創業」。私の目標は10社の顧問になることなので。

 河野 まず「姫島村の村長」。二つ目が「エンジェル投資家になる」。私もお金がないと理由を付けてできなかったことを後押ししてもらいました。もう―つは「すごく納税する」。自分一人が高額納税者になりたいわけではなく、人を雇用して、その人たちが納税して起業して、また雇用を生み出す。最終的にめちゃくちゃ納税してまちを変えていく。女性に優しい、子育て、障がい者に優しいとか、そういうまちづくりをするには結局納税だと思うんです。

 丸田 「やりたいことを全部やる」。やりたいことは常に変化していき、新しいことも出てきます。もう一つ「人の夢を叶える」。丸田晋也のおかげで夢を実現することができたと、その人の人生に自分の名前を刻んでいきたいです。

 岩尾 「大分市にゲストハウスを作ろう」。いろんな特色を持ったゲストハウスが日本にも生まれていて、一言で安宿とは言えない魅力がある。まだ大分市にはありません。ゲストハウスに泊まることで地元のキーマンと出会えて、地元的な楽しみ方ができる。最先端の旅行のやり方に絶対必要なものです。

 小野 皆さんが社会的に意義のある、ビジネスにもつながることを書いている中で、「エンデュランス馬術でオリンピック出場」。将来的にオリンピック種目に採用される可能性はあると思っていて、それまでしがみついていたい。もうけや社会的意義も大事ですが、人生は有限。自分の中で本当に夢中になれることに人生を使いたい。それが結果的に周りにも良い影響をもたらし、経済的な活動や大切な地元の活動などにつながればハッピーです。

 直野 私もミライ宣言を。「とみくじマラソンにエントリーします」。では小野さんの言葉で締めたいと思います。「動かなければ、未来は変わらないどころか、淀んでしまう。変化や失敗を恐れず動けば、進化のチャンスはいずれ生まれる」。大分合同新聞は大分の進化、皆さんの挑む心を丹念に取材して、情報発信を続けていきます。

編集後記

 「デスクとして、受け継いだ新聞の本義は後輩の記者に伝えてきたつもりだ。彼らの師になれたかは分からないが、ここで倍尺(新聞編集用の物差し)を置く。4月から新しい分野に挑む」と3月10日付朝刊の「デスク日誌」に書いた。これが、今回のハピカムのテーマ「挑む心、発信のススメ」の起点だった。

 異動で新聞の編集者からホームページの編集者に転身した。年齢を重ねるたびに臆病になっていたが、挑戦の1年にしようと誓った。

 そうすると、挑戦者たちの行動に目が向くようになった。彼らは人を引き付ける。周囲を元気にする。「挑む心」を持ったアドバイザーと出演者5人がハピカムで議論すれば、相乗効果が生まれるのではないかと考えた。わたし自身も元気をもらったし、聴講した方はもちろん、読者のみなさんにもこの紙面を通して届けられたのではないだろうか。

 トークセッションで、「大分で挑戦することの意味」をそれぞれに聞いた。これに対するアドバイザーの小野裕史さんの指摘が、ハピカムが終わってから気になっている。「地方にいる人ほど地方に縛られている可能性がある」

 河野忍さんは「大分にUターンした理由は分からない」としながらも「どこにいても起業できることを証明したい」と話した。丸川晋也さんは「行こうと思えば、どこにでも行ける。縁を大切に
したい」。南暁さんは「惚れた女が国東にいたから」と率直に答えた。

 岡野涼子さんは「課題がある地域の方がおもしろい。魅力を発見する楽しみが潜んでいる」とした。岩尾晋作さんは「東京に12年住んでいたが、大分を気にしている自分がいた。生まれた場所で暮らすことに意味を感じている」。
5人の出演者に続いて、小野さんは「地方のこと口にするのは、自分にタガをはめている可能性がある。地方の話をしなければならない理由は何か。問い直してみてもいいのでは」と提起した。小野さんが運営会社の社長を務める「17Live」では、スマートフォン一つで海外にもライブ配信することができる。例えば、70歳の女性の配信が脚光を浴びて、彼女の人生は大きく変わった。

 小野さんは基調講演で「ICT革命により、あらゆる情報がつながっていることが当たり前になった。今や一瞬でシェアできる」と話した。
ICTの発展により「地方に執着する」ことと「地方にとらわれない」ことが両立できるようになった。挑戦のハードルが下がった。世界に発信することも可能になった。小野さんは「今こそ、広く世界に目を向けるべきだ」と伝えようとしたのだろう。わたしたちは技術の発展をどう受け入れるのか。大分を前に進めるチャンスにできるのか。

 岩尾さんは力を込めて、こう言った。「こんなに豊かな場所はないと確信している。ブレークすると信じて住んでいる」。わたしも信じている。

ミライデザイン宣言ハピカムコーディネーター
大分合同新聞社報道部編集委員
直野 誠