2025816日()

第2部 トーク セッション

 キーノートセッション、地域リポートに続いてトークセッションがあった。それぞれの挑戦の意義や周囲の巻き込み方、情報発信の方法などを議論。これからのチャレンジについて、熱く語り合った。

周囲を巻き込み やりたいことやる

 直野 今回は「挑む心、発信のススメ」がテーマです。新しいことに挑んできた人たちを集めて話したら、皆さんに元気になってもらえると思い設定しました。まずはそれぞれの「挑戦の定義」についてお聞かせください。

 岡野 やりたいと思ったことをやる。心の中から自然に湧いてきたやりたいという気持ちに従っています。

 南 事業開発の仕事をしていて、まずはこの事業が誰のためになるのか、どれ<らいのお金になるのか、経済と道徳がちゃんと成り立っているかというところからスタートします。金もうけしか考えていない事業はしない。それ自体、私にとっての挑戦ですね。

 河野 挑戦は筋肉みたいなものだと思っています。ちょっとハードルが高そうでも、これをしたい、あれをしたいと心の赴くままにしていたら、いつのまにか会社ができていました。できない理由を考える時間とどうしたらできるか考える時間、同じだけかかるなら、できる方法を考えた方が損をしないと思います。

 丸田 思ったことをすぐ口に出すのが大切だと考えています。やりたいことをいろんなところで言っていると、協力してくれる人を引き寄せる。挑戦しようと思ったら、いろいろ考えて段階を踏み、無理だと思うことを排除するより、まず人に話してみることです。

 岩尾 美しいものを見たい人がオーロラを見に北欧に行くとします。では路傍の花の名前を知っているかというと、意外に見過ごしてしまう。チャレンジは自分を完成させていくことで、起業などの節目があるとは限らない。下手だったあいさつがうまくできるようになったとか、ささやかなことを評価する方が大事だと僕は思います。南極や砂漠に行くのもいいけれど、もう少し内的なものでも、チャレンジの価値は変わらないのでは。

 小野 全くその通りですね。僕は小学3、4年のころに登校拒否になり、思ったことを表現できず悩んでいました。それを変えたくて、ちゃんとあいさつするといった小さなチャレンジを積み重ねました。キーノートセッションでお話しした、17Liveで配信しているおばあちゃんの事例も、ああいうことは誰にでもいつでも起こり得ると伝えたい。実は興味の対象ってすごくたくさんあって、小さなことに価値があると改めて感じます。

 直野 挑戦する上で失敗やリスクヘの向き合い方を教えてください。

 岡野 簡単にうまくいくことは世の中に一つもありません。何かをやろうとするときには失敗しかないという前提で、じゃあどうやるのかというマインドになっていますね。

 南 失敗が自分にとっての糧になっている経験が多いです。ならば失敗は失敗ではない。経験で得た知識が別の事業に生かされることもある。そう考えると失敗は存在しないと思います。

 丸田 ダンサーを目指していて、それを諦めて酒屋の業界に入ったのですが、この業界で頑張ってお金を稼げばダンススタジオを持つことも、若手のダンサーを活躍させることもできる。夢って次々変わっていくもので、ダンスのプロは諦めたけど夢は続いていく。だから失敗だと思っていません。ワインを造るとき、雨が多いと水っぽくなるんですが、海外の人はみずみずしくて飲みやすいと評価する。良いところを見つけるんですね。失敗かもしれなくても、見方によっては次の成功のためのステップだし、こうしたらうまくいくという発見にもつながります。

 直野 小野さんは本に「アタマで考えれば考えるほどに、やれ仕事の予定が、やれ練習量的になど、『できない理由』が生まれがち。『ココロの羅針盤』の針がピンッと方向を示した以上、まずは『ポチッ』とエントリーしてしまえばいい。考えるのはそれからだ」と書いています。全く失敗を想定していませんが、向き合い方は。

 小野 会社の代表をしていて日常的に判断を求められます。そんなときよく「誰も死なないから大丈夫」と言うんです。最大のリスクは死しかありませんから。死ぬまで経験は絶対に積み重なっていきます。

 直野 ポジティブな挑戦は人に伝染し、影響を与えます。皆さんも誰かの影響を受けているのでは。

 河野 影響を受けまくって今ここにいます。名前を挙げると、起業家の家入一真さんと孫泰蔵さん。それとカズワタベさん。カズさんが会社を興すとき私はまだ会社員で、「俺、会社興すんだよね」と聞いて「なら私にもできる」と思ったんです。近くにいる人がチャレンジする姿を見て私も、と思えました。孫さんは「大丈夫、失敗できないから。日本においてあなたはまだ何者でもない」と言ってくださいました。家入さんは「できない理由がお金なら出してあげる」と言ってくださった。私も今、後輩にそう言うようにしています。

 直野 岡野さんはまちづくりに関して由布院の方々に影響を受けているとか。

 岡野 (昔からあるものを生かしたまちづくりで由布院温泉を全国ブランドにした)中谷健太郎さんや溝口薫平さん。地域を元気にする活動を仲間と一緒に少しずつやっていく、そういう部分で中谷さんや溝口さんの本を読むと勇気が出てきます。成功かどうかなんてその時には分からない、社会が進む方向と真逆のことに取り組んできたのに、長期的に見たら今の由布院をつくり上げている。すごいことです。

 丸田 酒屋は一生懸命やるともうからないのですが、お客さまが損をしないように、蔵から提示されたちゃんとした金額で売ることを徹底しています。これは社長である父が一切崩さなかったことです。しっかりと管理して最高の品質で届ける。一番おいしいときでないと売らない。大事にするのはお客さまが飲んで幸せになるかどうか。そこは父の影響を受けています。

 南 会社には営業や売り上げを考える外向きの部門と、従業員の育成や経理などを考える内向きの部門があります。外向きには、道徳と経済が融合して共に成り立つという二宮尊徳の思想を経営理念に掲げています。内側の育成などには韓非子の思想を取り入れています。
 直野 今では皆さんが周りに影響を及ぼしています。周囲を巻き込む方法について教えてください。岡野さんは高校生と一緒に挑戦するためにどうしていますか。

 岡野 中高生は自分に興味がないことはしないので、最初は学校などから公的なアプローチをして、参加せざるを得ない状況をつくつています。もう一つ、関わってくれた子たちに、大人が本気で楽しんでいるところを最大限見せること。やっている本人たちが面白がっていないと人は巻き込まれません。

 直野 丸田さんは開店に当たり、クラウドファンディング(CF)で周囲を巻き込みました。

 丸田 CFは信用をお金に換えるもの。自分のお店を出したい、別府のまちを活性化させたい、人々を巻き込みたいーという思いに賛同した人が支援してくれました。思いを伝えて共感してもらうことが大事だと思っています。

 直野 南さんは挑戦者を育てる活動をされています。支援に当たり大事にしていることは。

 南 シンプルに夢を見せてあげることですね。できるだけ具体的に、事業計画を見せ、地域の課題解決になり人々が喜んでくれると示す。そうして導くのが創業支援かな。

 直野 岡野さんも次世代を育てています。

 岡野 成功も失敗も一緒にやることです。何かをしているといいことばかりではないけれど、そういうことも高校生には包み隠さない。共感というのがポイント。一緒に苦楽を共にすることでしょうか。

 岩尾 苦楽を共にするというのは至言ですね。自分でリスクを取ってみないと分からないことがたくさんある。最近、あるスタッフの主導でイベントをしましたが、成長するというか、何かふに落ちるものがある。そばで見守り、そういう経験をいっぱいさせればいい。今の子は職業で「○○になりたい」と言わされますが、本当にしたいことは職業の枠では区切れない。人にものを教えたいからといって必ずしも先生になる必要はありません。巻き込むには一度その人を裸にして方向性を確かめ、それにはこういう方法があると自分の知恵を振り絞りながら対話していくしかない。
(左から)大分合同新聞社別府支社 記者 江藤嘉寿、大分合同新聞社文化科学部 記者 三上奈穂子
 直野 記者からも取材現場で見た挑戦の現状を聞きます。

 江藤 別府にはホテルの進出が相次いでいます。一方で簡素な素泊まりのゲストハウスも増えている。観光客を受け入れる宿泊施設が多様化しています。ピジネスホテルやゲストハウスは温泉を持っていないところが多く、町に出るお客さんの取り込みは、共同温泉存続の一つのポイントです。挑戦といえば、鉄輪で80歳の女性が定額制の住み放題サービスを始めました。高齢でもそういう挑戦ができる。近くにはコワーキングスペースもあるし、さまざまな挑戦が新しい相乗効果を生み出しています。

 三上 5月から「令和元年おおいた新時代を生きる」を連載しています。固定観念や従来の常識にとらわれず、自分らしくチャレンジする県内の人を取り上げています。始める前は、新時代に生きるヒントや新しい価値観を「変わった人」に聞いたら面白いと思っていました。実際に会って話すと、変わっているというより、大切な人や同じ境遇で苦しんでいる人、古いけれど良いものなど、何かを守りたくて、そのために今どう動くべきか考えているという共通点がありました。守りたいものがあるということも、挑戦へのエネルギーの一つになっていると感じます。