2025101日()

第2部 トーク セッション

 キーノートセッション、地域リポートに続いてトークセッションが開かれた。今年9月に開幕するラグビーワールドカップで世界を代表するラガーマンが激突する大分銀行ドームのピッチを目にしながら、「スポーツの力」とは何なのか、それぞれの目標と抱えている課題などを会場と一体になって熱く語り合った。

大分だからこそ、できること

地域を元気にする

 首藤 このスタジアムは大分のスポーツ界で18年の歴史を刻んだ場所です。天野さん、皆さんの発表を聞いた感想を。

 天野 地域をどう盛り上げていくか、実践者の皆さんの言葉には重みがあると感じました。

 中山 小笠原さんはなぜ、選手を引退した時、水泳に関わらないと思ったのですか。

 小笠原 これから生きていく人生の方が長いので、与えられたものではなく自分が見つけた世界で生きていこうと思いました。世界を広げたかったのです。

 首藤 小笠原さんが世界を広げようと思ったきっかけを取材して、スポーツの経験というのはすごいのだと感じました。皆さんがスポーツや地域の活動を通して大切にしているキーワードを教えてください。

 小笠原 「みんなで」。私は地域おこし協力隊なので、竹田市が元気になること、そこに暮らしている人が幸せになるために何ができるのかを考えて活動しています。一部の人や移住者、若い人だけで盛り上がるのではなく、みんなが喜ぶことを意識しています。竹田市は合併しているので、4地域に住む人みんなが興味を持つことを考えています。

 首藤 移住に竹田市は力を入れていますね。高齢化が進んだ地域ですが、地域おこし協力隊だけで38人います。

 小笠原 「東京から来ました」と言うと「大丈夫?」と聞かれますが、困ることは一つもありません。毎日温泉に入って、湧水を使って暮らしています。本当に幸せです。

 首藤 竹田市は“湯治”にも力を入れています。スポーツツーリズムという考え方に合致する面もあります。

 小笠原 スポーツ選手は回復してこそ次のトレーニングに100%で臨めます。ぜひ、トレーニング後に温泉を利用していただきたい。

目的をはっきりと

 中山 「軸を持つ」「変化を恐れない」。一見すると相反するようですが、軸を持つとは目的をはっきりさせること。その方法論として変化を恐れないということで、この二つを挙げさせていただきました。大学に勤めて、いろいろな業務がありますが、昨年と全く同じことはしません。ちゃんと検討して課題を発見して変えるべきことがあれば変えていきます。何のためにそうしているかといえば、大学のために、学生のためにというのが私の「軸」であり、その方法論として「変化を恐れない」があります。

 首藤 人材育成が地域の活性化につながります。小学校の全国体力テストについての研究もされていますが、直近の調査で大分県は小5男子が全国1位、小5女子が3位となっています。テストの成績を高めることだけでなく、気を付けているところはありますか。

 中山 全国体力テストでは全国何位とかの結果だけがクローズアップされてしまいますが、指導要領には「50㍍を何秒で走る」などの数値は入っていません。授業の目的をしっかり持って、「こうすれば目的が達成されるのではないか」と、先生と協議しながら授業づくりをしています。目的を達成するためにはどういうアプローチがいいのかを考えています。

 首藤 目的とは具体的にはどういうものですか。

 中山 体力は技能に当たりますが、技能だけを追い求めることが目的ではありません。表現力であったり、共同で学ぶ力だったり、学びに向かう力だったりを評価するアプローチで、学ぶ意欲を伸ばしていきたいと思います。

人を結ぶハブになる

 首藤 人材育成や子どもたちとの関わりを重視することが、将来を考える上で非常に重要です。

 宮崎 「誰でも」。二つの意味があります。指導者は「誰でも」いいわけではありません。一方で参加者は「誰でも」来ていいよ、という子ども向けのイベントを年に1回しています。8種目のブースを設け、いろいろなことを体験できるようにしています。

 首藤 総合型地域スポーツクラブは県内全市町村にありますが、特徴として多世代、多種目、いろいろな人が関わっていることが挙げられます。クラブに5年間携わった感想は。

 宮崎 大変でした。私はスポーツ経験がなかったので、経験者の方々がいろいろなことを教えてくれるなど協力してくれたことでクラブを立ち上げることができました。

 首藤 宇佐支局の記者が来ています。スポーツの力をどう考えますか。

 藤本 地域の方々を結ぶハブになっています。同じ地域でも普段関わりのない子どもたちや保護者がスポーツをきっかけにして輪を広げることで、地域が活性化していくのではないでしょうか。

 首藤 総合型地域スポーツクラブの課題は。

 宮崎 今、直面しているのは財政です。立ち上げから5年間はトト(サッカーくじ)の助成金で活動できていましたが、5年が終わろうとしていて、それがなくなります。新しいことを始めなければつぶれてしまいますが、「前例がない」「そんな総合型は聞いたことがない」などの理由でストップをかけられることもあります。

 首藤 他の地域の方も会員になれるのですか。

 宮崎 ウエルカムです。豊後高田や中津、県境を越えて福岡県の豊前からも来られています。どこにでもあるような教室をしても人は来ないので、託児サービス付きや目的をはっきりさせた教室など特色をつくらなければなりません。トップ選手を目指してサッカー教室に通っている人もいます。

特別扱いをせずに

 牛尾 「逆風は僕にとってグッドサイド」。ビーチバレーでは逆風はサーブやスパイクを打った時にボールが変化する有利な条件になります。選手やスタッフの聴覚障害者は社会的弱者と思われていますが、障害者のスポーツ団体に関わることが私にとってのチャンスです。「そんな大変な道には進むな」と言われることもありますが、これが私の生きる道と思って前向きに取り組んでいます。

 首藤 牛尾さんにとっての逆風とは。

 牛尾 例えば、今ここに聴覚障害者の方が1人で来てくれても、手話通訳者がいないと話を聞くことはできません。逆に聴覚障害者の中に私1人だけという場面が結構あります。その時に手話通訳者がいないと私の方が障害者のような立ち位置になってしまいます。過去にもそのような状況で大事な会議が進むことがありました。そういう経験から、私自身は同じような状況をつくらないように気を付けています。障害者スポーツ発祥の地・大分でもデフ(聴覚障害)についてはあまり知られていませんが、特別扱いをすることなく、話をよく聞いてくれます。

 天野 東京パラリンピックは22競技ありますが、デフビーチバレーはありません。情報は入ってきません。

 首藤 大分だからこそ、できることは。 

 牛尾 聴覚障害者のためにという思いが強かったのですが、大分に来たことで、他の障害のある方のためのバリアフリーについても考えるようになりました。ビーチバレーでいうと、車いすの人は砂浜に降りられないので、カーペットのようなものを準備するなどです。廣道純さん(プロ車いすランナー)らを通して他の障害者スポーツ選手との交流もこれからやっていきたいと思います。

 吉門 障害者スポーツについて知ってもらうために、ホームゲームで体験スペースを設けました。サッカーなどスポーツが好きな人に知ってもらうことで広まっていくと考えています。特にボッチャは多くの方に体験してもらいました。皆さんルールも分かっていて、選手と一緒に楽しんでプレーしました。一般の人にも障害者スポーツが浸透してきていると感じました。

何ができるか模索

 首藤 吉門さんのキーワードは。

 吉門 「多くの1回ではなく、唯一の1回」です。トリニータのホームタウン活動は何百回も行っています。私たちにとっては何百回のうちの1回ですが、参加してくれた人には「その1回だけ」ということも多くあります。1回をいかに楽しんでいただくかを考えて活動しています。

 天野 とても大切なことだと思います。選手はサインを何百回、何千回と書いていますが、サポーターにとっては大切な一枚。きちんと書くように話しています。

 吉門 ソーシャルアクション室は今年の1月に新しくできた部署で、ホームタウン活動をメインに行っています。学校訪問や地域イベントへの参加に加えて、障害者スポーツや行政が抱えている課題について、トリニータが何をできるのかを模索しながら進めています。

 首藤 例えば、どういったニーズがあるのですか。

 吉門 逆に地域でこういうニーズがあるということを聞きたいです。「大分がこうだったらいいのに」ということがあれば、一緒に考えていきたいです。

 牛尾 ヨーロッパではサッカークラブチームの練習場にビーチバレー場があるという話を聞いたことがあります。トリニータにもビーチバレー場を造ってほしいです。砂でのトレーニングをしてもらいながら、われわれも使わせてもらえれば、ありがたいです。

 首藤 地域ニーズがどこにあるのか探るのは難しいのではないですか。

 宮崎 教室に直接出向いて子どもたちや保護者と話をしていますし、電話でも要望を聞いています。クラブにはサッカー教室がありますが、プロ選手の本気の練習やプレーを見せてほしいと思います。ヴェルスパ大分出身で現セレッソ大阪の福満隆貴選手に先日来ていただいたのですが、「これが本物なんだ」と感じました。

 吉門 これについては、すぐにでも実現できそうだと思います。学校訪問はスクールコーチがメインなのでサッカーを楽しく教えていますが、アカデミーなど育成を担当しているコーチと一緒にできればと思います。

 天野 風間八宏監督時代にフロンターレでもガチの風間八宏塾を開きました。選手と同じトレーニングをやったのですが、スポンサーさんら参加者は肉離れが続出しました(笑)。