大切なことの一つ目は「熱量」。スポーツはなくても生きられますが、人が人らしく、豊かに暮らすために必要なツールです。勝ち負けがあり、これほど人間の喜怒哀楽が揺さぶられる文化はスポーツの他にない。日本ではこれまで、スポーツが純粋に生活を豊かにするものとして活用されることはありませんでした。まだまだこれからの分野で、日本になかったものをつくろうとしているのだから熱量が必要です。僕は日本にスポーツが根付いて人の生活が豊かになる様子を生きているうちに見たいので、熱量を持って取り組んでいます。
次に「誠実さ」。スポーツでこの国を元気にしたい、笑顔をつくりたいというピュアなものがベースにないといけません。継続・発展させるためにビジネスも必要ですが、スポーツに対する純粋な誠実さがないといけないと思います。
第3に「謙虚さ」。フロンターレは今すごく調子がいいので、何も仕掛けなくても取材依頼がきます。でも謙虚な気持ちを持って、「まだここがゴールじゃない、もっと先を目指している」と思えるかどうか。うまくいかなかった時も人や予算のせいにせず「他の人ならうまくいったのでは」と思えるかどうか。常に謙虚であればこそいろんなチャレンジができ、駄目でも違うやり方で頑張ろうと思えます。
第4は「農業のイメージで」。クラブの運営は農業に近く、まず大事なのはその土地の特徴を知ることです。土地によってできる作物は違います。僕は徹底的に自分で地域を見て回り、多くの人と話して情報を収集し、その土地に合った種とやり方を考えます。そうして戦略と長期プランを立てずに適当なものを植えても育ちません。
プロスポーツは運営の過程で予期せぬことが起こりますが、いろんな協力を得て乗り越えていくことでおいしい実ができ、豊作の時を迎えます。では何をもっておいしい実とするか。タイトルを取ること? いや、大事なのはクラブが愛されることです。タイトルを取ってみんなで喜び合えること。取れなくても寄り添い応援しようと思ってもらえること。
では誰とするか。農協のように、同じ志を持った人間が集まってすることが大切です。まちを元気にしたいのはクラブのスタッフだけではない。行政の人も同じ志で働いているし、サポーターも同じ目標に向かう仲間です。僕が意識したのは、クラブづくりをクラブの人間だけでしないこと。関係づくりです。商店街にあるクラブのタペストリー交換を、商店街の人やサポーターに手伝ってもらったりしています。一緒に汗をかくと、温度や考え方が伝わり、ネットワークが広がり、興味・関心が出てきます。多くの人を巻き込み仲間にしていくのがポイントです。