2025101日()

第2部 トーク セッション(3)

どうやって壁壊す

 (会場) 人と人の間でトラブルが多かったり事件が起きたりで、人とつながろうとしている人が少ないです。壁を壊すにはどうすればいいでしょうか。

 上田 他者とつながろう、壁を越えて一緒にやろうというときは、お互いのことをまず知らないといけないと思います。相手がどういう指向性があるのかもっともっと対話しなければならないと思います。とても難しいことですが。

 佐藤 僕自身もやりたいことを実現しようとすると難しいことがたくさんあります。ただ、自分がこういう社会にしたいという「在るべき姿」を自分の体験から語ることが重要です。私利私欲ではなく、高いレベルの志があってつながれる仲間は本物の仲間だと思います。

 高見 人と人がいればトラブルが起きるか、すごい化学反応が起きるかのどちらかです。人は見たものを定義するのではなく、定義したものを見ようとするきらいがあると学生にはアドバイスしています。「あの人はああじゃないか、こうじゃないか」と決めてかかることが多く、学生たちも「地域の人は面倒くさいのでは」とも考えてしまいます。ただ、日本人は「擦り合わせの技術」を持っています。無理だと思えることでもうまく擦り合わせながら地道に努力することで解決することができます。最初は駄目だとしても、あきらめずに続けていくことが大切です。

 上田 この場に参加した出演者の方々の存在が大分県の価値だと思いました。とてもたくさんの人材がいろいろな地域にいて、多様な分野で活躍できる県になっていただきたいと思います。

 首藤 地域で育む学びの力は、地域を育む学びの力でもあるということが分かった一日になりました。

編集後記

 自己肯定感―。今回のハピカムを進めるに当たり、気になっていた言葉だ。
 少し前のものになるが、2013年度に内閣府が実施した、7カ国(日本、韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン)の13~29歳を対象とした意識調査がある。「自分自身に満足しているか?」の質問に、「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と答えた割合は、日本以外の6カ国は70~80%台だったのに対して、日本は46%。「自分には長所があるか?」の質問には、米、英、独、仏ではほぼ90%以上が「自分には長所がある」「どちらかと言えばあると思う」と答えたのに対し、日本は69%。各国に比べると日本の若者の自己肯定感が低いと言える。
 それは「謙虚」ということと必ずしも一致しない。同じ調査で、「うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組むか?」の質問に、「取り組む」と答えた割合は、日本以外の他国の平均が77%。日本では52%だった。なぜそのような調査結果になってしまったのか。若者に自信ややる気、さらには将来への希望を持たせる社会になっていないのではないか―。
 さまざまな体験を通して得られる達成感。未知なるものとの出合いと気付き。大人から見守られているという安心感。自分より年下の世代の面倒をみることも他者から必要とされる喜びを生む。複数の出演者が力説した「郷土愛、地域愛が自尊心を育む」という言葉も印象的だった。
 「地域の学び」はそれらを生み出す有効な手段の一つだ。今回のハピカムを通して、地域の学びは次代を担う若者たちに達成感を与え、やる気を引き出し、郷土愛を育むことが分かった。それはきっと、若者たちの自己肯定感を高めることになる。そのためには、地域の教育力を高めなければならないと気負う人もいるかもしれない。だが、アドバイザーの上田英司さんは「ありのままで受け入れて」と話していた。
 中津東高校マーケティング部の発表に「地域の人たちを笑顔にしたい」という言葉があった。その時、聴講者全員が彼女たちを見つめ、話に聞き入っていたシーンが印象深い。まさに、地域に若者が入ることの価値を目の当たりにした瞬間だった。過疎高齢化で疲弊していると感じている地域、「ここには何もない」と思っている地域はたくさんあるだろう。それが、若者と行動する、出会うだけで元気になる。地域の魅力の発見にもつながる。地域の学びは地域の自己肯定感を高めることにもなるということだ。
 大分には、海も山も川もある。先人が築いた歴史も文化もある。上田さんは「大分にこれだけの人材がいることに驚いた」とも話していた。魅力はすでにそこにある。人材もすでにたくさんいるのかもしれない。自分たちで発見できなければ、誰かに来てもらって見つけてもらえばいい。誰かとつながればいい。
 つながる―。出演者が一様に発していたキーワードだ。ハピカムはこれで終わらない。大分合同新聞は、つながりづくりを全力で応援する。


ミライデザイン宣言ハピカムコーディネーター
大分合同新聞社報道部編集委員
首藤 誠一