2025101日()

第2部 トーク セッション(2)

「体験」が人を成長させる

記念館は「生き物」

 首藤 昨年できた久留島武彦記念館の認知度はいかがですか。

 金 とても低いです。佐賀で講演をしたのですが、玖珠を知りませんでした。「なんて読みますか」と、そこからでした。常に企画展を新しくすることでメディアに取り上げてもらっています。記念館は「生き物」だと思っています。古いものだけ並べて、「どうぞ、見てください」というような堅苦しいものではなく、1人だけのお客さんにも声を掛けて10ある全ての部屋を案内します。物は物にすぎません。語り合いながら記念館を回ることで新たな発見があります。丁寧にリピーターを増やしていきたいです。大人が子どもに知的な刺激「想像する力」を少し与えた方がいいと思います。知って見るのと知らずに見るのは違います。体験する前にいろいろ想像させると、「たいけん=たいへん!」の間に「わくわく」が入るのではないでしょうか。

 首藤 耶馬渓アクアパークでは国内の大学の水上スキー部全てが合宿するそうですね。

 中村 水上スキー部があるのが全国で10大学。年間を通して代わる代わる300人の学生が来てくれます。宿泊、飲食、交通などで、中津市内だけで3千万~4千万円の経済効果があります。地域とのつながりも生まれます。合宿することで大学生が地域の方々から差し入れしてもらったり、盆踊りに誘われてご飯をいただいたりしています。私たちが間に入らなくても、地域の人と大学生の間でコミュニケーションが取れています。

 上田 地域のおもてなしが生まれたのは何かの仕掛けですか、それとも自然発生ですか。

 中村 耶馬渓ダムでは各種イベントが行われています。合宿中の大学生が会場設営を手伝うなどして地域の人と触れ合う中で、必然的に「どこから来たの」「東京から来ました」「耶馬渓でおいしいものを食べに行こうよ」などの会話が生まれます。また、祭りを行う地域が高齢化し若手がいないと相談を受けて、私が大学生を紹介することもあります。学生の中にもせっかく耶馬渓に来たのだから練習だけではなく、交流もしたいと考える学生もいます。

 上田 地域に貢献したいという学生の思いを受け止めて、コーディネートしているのは素晴らしい。このような人が地域にいることが重要ではないでしょうか。

共通目標を持って

 中村 大学生と子どもたちとの交流もあります。仲良くなった学生が通う大学に進学したいと勉強を始めるなど、子どもにとっても目標が生まれることになります。

 上田 地元の人たちや子どもと大学生を結ぶ学びのサイクルが展開されているのですね。

 金 玖珠町の七つの小学校の先生と一緒に作った副読本を町内の小学校に配布しました。先生たちが子どもたちに伝えるためのサポートをしていきたいです。子どもたちにとって記念館は難しいもので、行っても分からないと考えてしまいます。ですから、紙芝居だったり、折り紙作りだったり、記念館に来た子どもたちが楽しめる居場所をつくっています。書などの難しい作品を展示しているときは、スタッフがクイズ形式で案内しています。記念館を子どもからツアー客まで柔軟に受け入れられ、久留島の世界につなげる媒体にしたいと思います。

 佐藤 同じことをしても包丁を使えない子はけがをしてしまうとか、体験はその人に必要な課題が現れます。地域の人にとっても何かにチャレンジすることで自分たちに必要な課題が見えてきます。子どもたちも同様です。それをお互いにクリアし共有することで成長し合えます。

 首藤 他団体とのコラボは。

 成重 今はマーケティング部だけでの活動が多いですが、中津市内には独自のイベントをしている方が多いと思うので、違う分野の人とも協力してさらに大きなイベントをしていきたいです。

 高見 地域の人に仲間になってください、とお願いしてほしいと学生には話しています。年齢が違う、異なる文化を持っているかもしれない人の中に入っていくのですが、仲間とは共通目標を持っているもの。地域の課題に取り組むことで、お客さんではなく、地域の一員として認めてもらいたい。

中津で幼少期生活

 首藤 中津支社の吉田記者はいかがですか。

 吉田 中津支社に昨年4月に赴任していろいろと勉強してきましたが、中津と久留島武彦とはつながりがあることを知りました。幼少期に中津で生活していて、その時親交のあった村上功児さんが造られた童心会館がリニューアルに向けて工事されています。完成すれば久留島武彦とのつながりが改めて取り上げられるのではないかと思います。何かのきっかけを基に仲間を増やすことができ、仲間を増やすことで新たな機会を得ることができるのではないでしょうか。

 金 久留島武彦の母親が中津出身です。中津時代の竹馬の友で、西日本鉄道をつくった村上功児さんを顕彰する施設が童心会館です。今回、リニューアルに伴い童心会館という名前を変えるということで意見を求められ「絶対にしてはいけない」と答えました。時代が過ぎてしまうと何のために造られたかが分からなくなってしまいます。それから名前は残ることになったと連絡があり、リニューアルに携わる担当者が久留島記念館を訪れました。童心会館で使われる久留島についての説明に関して協力してくださいと言われました。私たちが考える久留島武彦のイメージを示せることになり、うれしかったです。

 上田 強いつながりだけでなく、弱いつながりも大事です。自治体などの範囲の強いつながりだけでは情報源が一つになってしまいます。よりしなやかなつながりから得られる情報も有効になります。

後押しする取材を

 首藤 行政を取材している百崎記者は?

 百崎 大分県は人手不足対策として県内就職をこれから増やしていくための取り組みをしています。若者や女性、シニアそれぞれに数値目標を掲げて取り組んでいます。企業と働く人のマッチングだったり、働き方改革といった商工系の取り組みが多いですが、皆さんの話を伺っていると、地域の中で活動してその経験を踏まえて地元への愛着を深めることが、将来大分に帰ってきてくれる子どもたちが育っていくサイクルになるのではないかと思いました。社会教育の取り組みを後押しできる取材をしていきたいです。

 首藤 課題を掘り下げてきましたが、ここからは次に何をしたいかを話し合いたいと思います。みなさんの「私のミライ宣言」は?

「一村一体験」運動

 佐藤 地域に必要なのは「在りたい姿」。私は体験不足を解決したい。大分でできることは「おおいたぃけんproject」。大分は自然が豊かで地域文化もあります。「一村一体験」運動みたいなことができる地域ではないでしょうか。「豊かな大分ではこんな子育てができる」といった前向きな目線でつながりをつくっていけたらいいと思います。

 成重 マーケティング部が「中津の活性化の力の一つに」なりたいと思いました。

 中村 「地域愛×将来づくり」。私は中津出身ではないですが、今は中津、耶馬渓が大好きです。中津に来てくれた人が地域を愛してくれるようにしていきたいです。将来、子どもが耶馬渓に戻りたいと思えるような地域づくりをしたい。19歳の時に耶馬渓に出合って人生の半分を耶馬渓で過ごしてきました。中津、耶馬渓を盛り上げることが使命だと思っています。

 金 「つながった」。何年後かに、私の努力によって世の中の流れに久留島武彦がつながったと言えるようにしたい。NHKの朝ドラ「花子とアン」がはやりました。児童文学者として村岡花子を指導したのが久留島武彦です。久留島は知名度が低くてドラマに出ることはありませんでした。その時、世の中との断絶を感じました。世の中とつながるためにこれからも必死に頑張っていきたいです。

 高見 「多事争論」。福沢諭吉の言葉です。正しい、正しくないではなく、自由を求めるために議論することが大切という意味です。異なる議論があっていい。異なる他者とどう生きていくか。お互いに違いを認め合うことが大切です。大分は多様性を認め合ってきました。大分には「多事争論」の考えがあったからです。正確な情報と経験を基にした地に足の着いた議論を行うために、地域社会に学生を連れていきたい。「多事争論」を恥ずかしがらずにできる社会を目指していきたいです。