2025101日()

第2部 トーク セッション

「体験」が人を成長させる

 キーノートセッション、地域リポートに続きトークセッションが開かれた。それぞれの地域で、人材育成コンサルや水上スキーインストラクター、教育者などとして独自の活動を続ける〝実践者〟5人は、目標を語るとともに課題についても掘り下げていった。会場と一体になって、地域の人々とのつながりをどう築いていくかを議論した。

課題を掘り下げる

 首藤 ここでは皆さんの地域での活動をもっと掘り下げてみたいと思います。

 上田 地域を良くしたいとか、人を育みたいと考えている人がこれだけいるのは、すごいな、大分と思いました。いい話が多かったですが、地域が抱える課題についても考えたいと思います。

 高見 高校生が一番素晴らしいプレゼンをしていましたね。

 金 玖珠町で孤立していると感じることが多かったのですが、きょうここに来て、それぞれの地域で必死に活動している人たちがいるのを知って感動しました。私は「韓国人なのに、なぜ久留島武彦の勉強をしたの? なぜ久留島武彦記念館の初代館長なの?」と必ず聞かれます。九州大学の大学院の恩師が亡くなる3日前にくださった本が久留島武彦の本でした。そこから久留島の勉強を始め、韓国に帰る前に久留島武彦文化賞をもらいました。日本の社会のために何もしていないのに賞を頂き、恥ずかしくなりました。久留島の活動を伝えることが恩返しであり、自分の使命だと感じました。

 中村 皆さんが地域で何かをしたいという信念の下、活動していることが分かりました。私は水上スキーを通して何かを伝えたいと思って毎日を過ごしています。

 成重 皆さん幅広い活動をされていて、一つの課題を解決したら、次の課題に取り組むところがすごいと感じました。

 佐藤 こうやってこのメンバーが集まる場を設定していただいた。この出会いが新しい何かを生むと思うとわくわくします。

「たいへん」「危険」

 首藤 今、抱えている課題は? 課題があるということは伸びしろがあるということです。

 佐藤 「たいけん=たいへん!」というイメージが社会にあるのではないでしょうか。自然体験や体験学習など特別なことをしなければならないと考えてしまいますが、実は身の周りの出来事全てが体験です。何もしないほうが楽という考えが社会に浸透しているのではないか。「たいけん=たいへん!」という概念を変えていきたいです。

 成重 マーケティング部の活動だけでなく、他の団体との連携を大切にしたいです。

 中村 水上スキーの「危険」などといった負のイメージを変えて、楽しいスポーツだという認識を広めたい。野球、サッカーなどとは違って認知度がとても低いです。耶馬渓から日本、世界へと水上スキーの情報を発信したいです。

 金 日々、つながるためにはどうすればいいのかを模索しています。集客力のある場所ではないので、記念館では季節ごとに企画展をしています。また、玖珠町を飛び出して久留島武彦と中津の福沢諭吉、日田の広瀬淡窓を結び付けることはできないかと考えています。大分の私のイメージは「教育の県」ですが、一般の人がイメージする大分に「教育」という言葉が出てこないのは不思議だなと思います。

 高見 「仲間」がキーワード。10年間で延べ9千人の学生といろいろな体験活動を行ってきましたが、さらに学びを深くするためには仲間が必要な存在になります。

不便さ提供したい

 首藤 成重さんはまさに体験者ですが。

 成重 販売実習などの活動する場所を設けてくれたことに感謝の気持ちを持っています。

 首藤 佐藤さんが体験学習をする上で気を付けていることは。

 佐藤 体験そのものを、自分から学ぼうとすることができるかどうかが重要です。やらされているのでは、身に付きません。一度、体験することで理解が深まります。「体験の体験」という場を提供していかなければなりません。私の家では風呂に入るために子どもがまきを割って湯を沸かしています。そういう不便さがあることによって、子どもたちが理性を育むことができます。誰かのために自分の力を使って働くことで成長できます。不便さやリスクを避けると学ぶ場が失われてしまいます。社会の中で失われてきた不便さやリスクを提供したい。

潜在能力引き出す

 首藤 子どもたちの体験を取材している記者に話を聞いてみましょう。

 宗岡 大分合同新聞社が発行しているこども新聞「GODOジュニア」では、「わくわくWORK」という企画で小学生にいろいろな職業を体験してもらっています。違った学校の集団でありながら、いつの間にかチームワークが取れ、自分を律するということを身に付けているのだろうと思います。子どもたちは自分から動いてくれます。体験することで潜在能力を引き出すことができているのではないでしょうか。

 羽山 豊後高田支局時代に大学生が研修で昭和の町を訪れました。一生懸命町おこしをしている50~60代の商店主たちに触れることで、その情熱が伝わったと思います。福岡県久留米市の学生でしたが、彼らは今、地元で久留米絣を使ったイベントをやっているそうです。そのヒントが昭和の町での研修にあったということです。自分たちの地域にも特色があることに気付いて、それぞれの地域に持ち帰ってもらえたらいいと感じました。

 高見 世の中が効率を求めて不便さを避けているのは間違いありません。体験学習は非効率的なものですが、「君がいてくれて心強いよ」という仲間意識が人を成長させていきます。非効率的なものの中から「不便益」を見いだすことで新しい価値をつくっていくことが重要です。

 成重 別府市で行われた「おおいたみのりフェスタ」に出店しましたが、すごく雨が降ってお客が少なく、いつもより多く仕入れていた商品が売れませんでした。どうしようか悩みましたが、半額にしてみようということになり、半額セールを始めたらびっくりするくらいの勢いで売れました。

何もしないリスク

 上田 今までの議論の中で、いくつかの視点が得られると思います。水上スキーの危険性の話が出ましたが、リスクを恐れて何もしないことの方がリスクが高いのではないでしょうか。決断をして何かを勝ち取っていく行動を起こすことが重要だということを多くの人に知っていただきたい。そこには時間やコストがかかってきます。短期的な視点ではなく、未来に投資するという指向性を持ってもらいたい。マーケティング部の話について言えば、体験活動の価値の一つは失敗が許されるということ。失敗体験を重ねて、そこからもう一度学ぶことができます。失敗が許されるのは若い時しかありません。もう一点、販売に対する価値観についてもっと深掘りしてほしいと思います。商品を半額にして売れたのはいいけれど、生産者の思いはどうだったのでしょうか。他に解決する方法はなかったのかなど、さらに考えてほしい。

 中村 幅広い年代の人が耶馬渓アクアパークを訪れますが、「水上スキー楽しいな」「また来たいな」という思いで帰ってほしいと思い笑顔で接しています。学校に行けなくなった子どもも来てくれています。そういった子どもたちが学校に行けるよう、元気づくりをしようと接しています。東京からも学校に行けなくなった子どもが1週間訪れました。水上スキーを通して子どもを教育する機会も増えています。体力づくりと心づくりの両面で活動しています。

 首藤 水上スキーの負のイメージとは何ですか。

 中村 金持ちのスポーツのイメージがあると言われますが、一生懸命アルバイトをしながら、水上スキーを続けている学生もいます。なぜ、水深が深いダムで水上スキーをするのかともよく言われます。アクアパークでは今まで水難事故は起こっていません。ライフジャケットを付ければ危険ではないということを広めていきたいです。水上スキーとアクアパークの両方とも認知度が低いです。水上スキーヤーにとっては聖地ですが、一般の人に対しても認知度を上げていきたいです。