2025101日()

第1部 キーノート セッション

多様な連携目指し

 基調講演に当たるキーノートセッションでは、アドバイザーを務める日本NPOセンターの上田英司事務局次長とコーディネーターの首藤誠一大分合同新聞社編集局報道部編集委員が対談した。なぜ地域での学びが大切なのか。先の見えにくい時代に求められる力、それを身に付ける場としての地域の可能性や受け入れの課題について語り合った。

緒方に2週間滞在

アドバイザー 上田 英司氏
 首藤 「地域の学びとは何か」というのが今回のテーマです。現在、大分県の14歳までの人口は約14万人。1980年のほぼ半分です。それだけ少子化が進んでいるということです。そんな中で、なぜ今、地域の学びが大事かということを整理していきたいと思います。子ども・若者だけでなく、地域にとっても良いことではないかと思っていますが、そこをきちんと解き明かし、さらに広めていくにはどうしたらいいか突き詰めていきます。上田さんにお話を伺っていきますが、まず普段はどんな活動をしているのですか。

 上田 もともとは国際ボランティア活動を受け入れる日本国内のコーディネーターを担当していました。世界中の若者たちが、ボランティア活動で地域に貢献するプログラムです。10年以上前には、豊後大野市緒方町に夏の間約2週間滞在し、農業やお祭り、子どもたちの体験活動の手伝いなどをしました。現在は日本NPOセンターに所属しています。今年は98年にNPO法ができてからちょうど20年の記念の年ですが、センターは96年に、ボランティアなど市民がさまざまな活動をしやすいよう法律、環境を整えていこうと発足しました。全国のNPOを支える組織と連携しながら、企業や行政とパートナーシップを築き、NPOの皆さんが活動しやすい社会環境をつくっていくのが今の仕事です。

持続可能な社会に

 首藤 非常に経験豊富でいろんな事例もお持ちです。

 上田 最近感じている社会的な変化を二つ、問題提起として紹介します。一つは「変化する社会、先が見えない社会」であるということ。皆さんはSDGs(Sustainable Development Goals)という言葉をご存じでしょうか。国連で2015年9月、全会一致で採択された持続可能な社会にしていくための目標です。17の国際目標を設定し、30年までの達成を目指しています。世界全体が合意し、あらゆるものがSDGsの文脈での整理が始められているのが大きなポイント。日本政府も経済界も、このキーワードで動き始めています。世界の大きな転換期として、持続可能な社会をつくる担い手となるために、根本的に暮らしを見直していくことが次世代の皆さんに求められています。SDGsは、正式にはTransforming our worldとうたっています。トランスフォーム、つまり「信じられないくらいの変化」が必要だということです。もう一つは「問いを立てる力」が求められていること。今、課題解決が重要とされていますが、課題設定力こそが大切です。良い問いが良い答えを生む。主体的に、解決すべき問題は何かと考え問いを立てる力、ただ答えを出すのではなく、そもそもこの課題設定で合っているのかと、クリティカル(批判的)に、創造的に物事を考える力がもっと必要です。そういう変化が今、求められているのではないでしょうか。

先が読めない時代

コーディネーター 首藤 誠一
 首藤 課題発見力、批判的思考は21世紀型学力として、文部科学省も提唱しています。

 上田 社会の変化が急速に起きていて、先が読めない。次にどういう時代が来るか、10年先も読みづらい。その中でとても大事ですね。

 首藤 世の中が変わる中、求められる力も変わっているということですね。ではなぜ地域の学びなのか。どんなことが身に付き、どのような効果があるのでしょう。

 上田 基礎学力や専門知識をうまく活用し、多様な人々とともに仕事をしていく上で必要な「社会人基礎力」が今、求められています。基礎学力、専門知識は見えやすい領域の力。チームで働くためのコミュニケーション力といった総合的な社会人基礎力は可視化しにくいスキルで、どういう教育で培われるか、いまだに回答がありません。ただ、その一つのヒントが地域での学びにあるのではないかと思います。たとえば、ボランティアは利害調整から始まります。学生がボランティアをするにはさまざまな動機があり、地域の側も、作業を手伝ってほしいとか地域活性化のために意見がほしいとか、いろんな思いで受け入れています。やりたいこととやってほしいことが完全に一致するはずはなく、何かをするにはまず、調整からスタートしなくてはいけません。それは仕事や生活の場面でも求められること。社会には多世代の人がいて、縦横以外にも斜めの関係がある。これらを総合的に学び、座学で身に付けたことを、主体的に考えて発揮する場が、地域にはあるのではないでしょうか。

外部の人の視点で

 首藤 地域の活動の中では予測不能なことが起きます。体験でなければできないことがありますよね。

 上田 いろんなハプニングがありますからね。「じゃあどうしようか」というところから活動がまた展開していくなど、予測不能なことばかりですよ。

 首藤 ここまで聞くと、地域の学びとは非常に良いものである感じがしますね。変化の激しい社会の中で、活動を通じて身に付けるものがたくさんある。受け入れ、学びを提供する側の地域にはどのような課題がありますか。

 上田 若い人が来ると地域のネットワークが広がります。普段あまりつながりのない人たちもどんどん応援していって、地域での輪が広がる。外部から来た人の視点で地域を見直すことで、誇りに思えるようになる。体験活動の、地域にとっての良い点だと思います。課題も多いと感じています。行政の補助などがあると、逆に受け入れ側が主体的でなくなってしまうケースがあります。非常にもったいない。補助金がなくなったあとの出口戦略を考えながら、自分たちがこの地域を守っていくために外の力や子どもたちの力を借りようと、地域の人たちが主体的に考え、互いに学び合う関係が必要だと思います。

 

お客さまから脱却

 首藤 子どもたちや若者と一緒に、地域も成長していく姿勢が大事ですね。

 上田 地域での学びの課題として、多様な連携でセーフティーネットをつくることも挙げられます。一口に子どもと言っても、いろんな子がいます。貧困などの問題もあり、目を覆いたくなるようなニュースもある。地域というのはそうした子どもたちのセーフティーネットの一つではないでしょうか。外から入ってくる人たちも含め、多様な連携で地域がどう関われるかが問われています。もう一つ、お客さまからの脱却も課題です。体験活動は消費行動でもあり、ともすると「お接待的」になりがち。プログラムの初めから、子どもたち、親たちをお客さま扱いせず、ネットワークの一員にしていくことはとても大事ですね。

 首藤 地域同士の連携、地域内の連携、多様な連携が必要ということですね。ありきたりですが、学びの場でも、よそ者、若者、ばか者の力が非常に大事になってきます。

 上田 加えて働き者も大事です。若い人たちが地域で体験する時に、全部提供されるのではなく、参加する、汗を流す、考える。それは次に発表する、地域の皆さんと一緒になって協働していく上で大事なことなのではないでしょうか。