2025101日()

(5)飛び出す学生に信頼を

> 小学生のお仕事発見ランドの準備をする下田海宏さん(右から2人目)ら。事前に打ち合わせを重ねた=大分市の日本文理大学
 「現代は不確かな時代。教科書だけでは先々を見通すのは難しい」。日本文理大学人間力育成センター長の高見大介さん(37)は「地域での学びが学生の生きる力を育む」と説く。同センターは環境保護、国際交流、災害復旧など多彩なプログラムで学生に学びの場を提供している。

 7月、豊後大野市中央公民館(同市三重町)であった「小学生のお仕事発見ランド」もその一つ。地域の小学生たちに飛行機の飛ぶ仕組みやゲームのプログラムを教えるブースを学生たちが運営した。

 電子サイコロづくりのコーナーは情報メディア学科の有志が担当した。リーダーの下田海宏さん(22)=4年=は「企業でのインターンシップでものづくりの仕事も人とのつながりが大事だと痛感した」と話す。小学生と組み立てるのは2度目だが、高齢者とは何度もしてきた。「高齢者と子どもでは言葉遣いを変えます。飽き方も違うので、手順も同じにはなりません」と、組み立てる部品の数や並べ方を変えるなどの工夫を凝らしてきた。

 下田さんに教わりサイコロを完成させた大野小学校4年の野中あずささん(10)は「説明が分かりやすかった」とにっこり。下田さんは「準備したかいがありました」とほっとしつつも「次はもっと満足してもらえるプログラムにしたい」と前を向いた。

 同大は、2014年度から文部科学省の「地(知)の拠点整備事業」の採択校となり、地域の将来を担う人材の育成を目標に掲げている。事業推進責任者の吉村充功学長室長・工学部教授(42)は「地域は学びの場として抜群の環境」と話す。「学生の学びに対する姿勢が変わる姿を目の当たりにしてきた。学ぶことの意味や価値を地域で見いだすことができる」と効果を実感する。

 地域住民には、生き様や誇り、暮らしぶりを率直に見せてほしいとお願いする。「学生は敏感。住民が諦めていると、学生は何かをしようと思わない。地域課題を自分事として捉えると、汗をかいて動き、気付きやアイデアも生まれる。地域の皆さんも学生の真剣な姿勢を感じてもらえるはずです」と吉村室長。

 大学生が地域に飛び出している。地域はありのまま学生を受け入れ、本気で語り掛ければ、学生たちは真剣に応えてくれる。若者と地域の本気が信頼関係を深め、相乗効果を生み出す。

<メモ>
 日本文理大学は本年度、地域での体験交流や課題解決に必要な知識を習得する地域志向科目を240開設している。14年度は26だった。16年度入学者の入学時と2年終了時を比較した調査では、自己肯定能力やコミュニケーション能力、特に自分の社会的な役割や異文化への理解などを表す社会意識のポイントが伸びた。