議論を熱心に聞く一般参加者ら
トークセッションでは、移住やUターンしたきっかけも語った。佐伯市にUターンした後藤好信さんは、高校卒業後に横浜市で過ごした大学生活の中で地元愛を確認したという。「佐伯を離れて『自分の居場所は都会じゃない、地元にあるな』との思いが強まった。生まれ育った佐伯の思い出がそうさせた」
東京都から竹田市に移住した子安史朗さんは「都会にはない大切なものが竹田にはあった」と地方が持つ魅力を語る。例えば、東京では時間調整で電車が駅に1分間停車しただけでいらついている自分に、「便利さに慣れ過ぎた自分が嫌になった」と振り返る。「竹田市で地域のおおらかさに触れて心が豊かになった」と実感。現在では東京から遊びに来た友人も移住してくるなど、「人が人を呼ぶ段階に来た」と手応えを感じている。
移住して13年になる榑松倫さんは「いつまで移住者と呼ばれるのでしょう」と笑わせた。養蜂を始めたが、「ミツバチが何の花の蜜を集めているかを観察していると、漠然と『自然がいい』と思うのではなく、自然をより具体的に深く感じられる。そうすると田舎暮らしはもっと楽しくなりますよ」と話した。
「魅力的な“ひと”に出会ったことで移住という決断を下せた」と振り返るのは戸倉江里さん。お世話になった2人の名前を挙げ、「親身になって世話を焼いてくれた」と感謝。一日掛かりで地区内の空き家を案内してくれ、大家と家賃の交渉もしてくれた。「懐が深く、何でも応援してくれる。移住者の生活を面白がってくれている。安心感がある」
「受け入れ側は、地域が好きで自信を持っていることが大切」と強調したのは柳順一編集長。「土地の魅力を知ることで地元愛が育まれる。自治体がさまざまな施策を打ち出しても、受け入れ側に思いがなければ、(移住者は)人生を左右する決断を下せない」
同様に「いい人がいて、自然に恵まれていても、地の皆さんが地元の良さを認識していないケースも多い」と話すのは小金丸麻子さん。「(料理や風習などが)地域では当たり前のことでも、外の人からすれば新鮮で魅力的に感じることは多い。価値を意識し、どう受け継いでいくかが重要です」と話す。
地域に残る伝統や技術などの財産を残す方法について、栗原浩二さんは「イベントなどを続けていくことばかりを重視し、本来の目的を見失っているケースも目立つ。本来の目的を常に意識しながら、楽しむことが大事ではないでしょうか」と訴えた。
コーディネーターの佐々木稔局次長は「移住者向けの施策も大事だが、それ以上に自分たちの豊かな暮らしを続けていくことなのでしょう。田舎にある豊かな暮らしが実はなくなろうとしている。高齢者しか分からないものが多くある。今ならまだ間に合う。地域でしっかり継承してほしい」と締めくくった。