(2)第1回「移住と共創」

心動かねば住民票動かぬ

 年々増えている県内の移住者。トークセッションでは、宝島社「田舎暮らしの本」の柳順一編集長が全国的な移住施策の状況や傾向などを紹介した。出演者は、移住を決めた理由にはじまり、移住後の経験やこれからの夢まで熱っぽく語った。移住地を決めた理由については、地域で暮らす「人」の影響を異口同音に挙げた。移住の動きを確かなものにし、地域の活性化にまでつなげようと議論を深めた。(佐藤栄宏、原田宏一、宮崎明人)

震災後、若い人ほど地方志向

【キーノートセッション】

トークセッションで大分へ移住を考えている人たちへのアドバイスを書いて揚げる出演者=17日、宇佐市地域交流ステーション
 キーノートセッションでは、アドバイザーの柳順一編集長とコーディネーターを務めた大分合同新聞社の佐々木稔編集局次長が全国や県内の移住を巡る状況について意見を交わした。
 柳編集長は「『田舎暮らしの本』が創刊した1987年は移住者に若い人はあまりいなかった。自治体の対応も積極的ではなかった」と振り返った後、現在は若い移住者が増えてきた背景を説明。
 団塊の世代が大量退職した2007年を中心に、全国の自治体で移住相談の窓口開設が相次いだ。08年のリーマン・ショック以降の就職氷河期、11年の東京電力福島第1原発事故を契機に若い人が地方へ移住する傾向が強まったと—いう。
 その結果、02年ごろは移住者の7割がシニア世代だったが、最近は7割が20代〜40代と逆転。移住者数は大幅に増加し、シニア世代は4倍、若い世代は20倍にもなった—と紹介した。
 若者の意識変化について、柳編集長は「若い人ほど東京みたいな暮らしが嫌だと中山間地に入っている。地方に明るい未来を見ている」と分析している。
 佐々木局次長が「多くの自治体が移住の受け入れを競っている。何を基準に選んでいるか」と質問。柳編集長は「自治体の施策だけでなく、その地域で“出会った人と暮らしたい”と考えたことが大きなきっかけになる。『心が動かないと住民票は動かない』」と秘(ひ)訣(けつ)を伝授した。
 最後に、佐々木局次長が「人の流れがじわじわと地方に来ている。移住をブームにしてはいけない。この流れを大きくしていきたい」と締めくくった。

便利に慣れ過ぎた自分が嫌に 受け入れ側に思いがなければ 続けること目的の行事目立つ

【トークセッション】

議論を熱心に聞く一般参加者ら
 トークセッションでは、移住やUターンしたきっかけも語った。佐伯市にUターンした後藤好信さんは、高校卒業後に横浜市で過ごした大学生活の中で地元愛を確認したという。「佐伯を離れて『自分の居場所は都会じゃない、地元にあるな』との思いが強まった。生まれ育った佐伯の思い出がそうさせた」
 東京都から竹田市に移住した子安史朗さんは「都会にはない大切なものが竹田にはあった」と地方が持つ魅力を語る。例えば、東京では時間調整で電車が駅に1分間停車しただけでいらついている自分に、「便利さに慣れ過ぎた自分が嫌になった」と振り返る。「竹田市で地域のおおらかさに触れて心が豊かになった」と実感。現在では東京から遊びに来た友人も移住してくるなど、「人が人を呼ぶ段階に来た」と手応えを感じている。
 移住して13年になる榑松倫さんは「いつまで移住者と呼ばれるのでしょう」と笑わせた。養蜂を始めたが、「ミツバチが何の花の蜜を集めているかを観察していると、漠然と『自然がいい』と思うのではなく、自然をより具体的に深く感じられる。そうすると田舎暮らしはもっと楽しくなりますよ」と話した。
 「魅力的な“ひと”に出会ったことで移住という決断を下せた」と振り返るのは戸倉江里さん。お世話になった2人の名前を挙げ、「親身になって世話を焼いてくれた」と感謝。一日掛かりで地区内の空き家を案内してくれ、大家と家賃の交渉もしてくれた。「懐が深く、何でも応援してくれる。移住者の生活を面白がってくれている。安心感がある」
 「受け入れ側は、地域が好きで自信を持っていることが大切」と強調したのは柳順一編集長。「土地の魅力を知ることで地元愛が育まれる。自治体がさまざまな施策を打ち出しても、受け入れ側に思いがなければ、(移住者は)人生を左右する決断を下せない」
 同様に「いい人がいて、自然に恵まれていても、地の皆さんが地元の良さを認識していないケースも多い」と話すのは小金丸麻子さん。「(料理や風習などが)地域では当たり前のことでも、外の人からすれば新鮮で魅力的に感じることは多い。価値を意識し、どう受け継いでいくかが重要です」と話す。
 地域に残る伝統や技術などの財産を残す方法について、栗原浩二さんは「イベントなどを続けていくことばかりを重視し、本来の目的を見失っているケースも目立つ。本来の目的を常に意識しながら、楽しむことが大事ではないでしょうか」と訴えた。
 コーディネーターの佐々木稔局次長は「移住者向けの施策も大事だが、それ以上に自分たちの豊かな暮らしを続けていくことなのでしょう。田舎にある豊かな暮らしが実はなくなろうとしている。高齢者しか分からないものが多くある。今ならまだ間に合う。地域でしっかり継承してほしい」と締めくくった。

【参加者の声】

市を挙げた取り組みに
 宇佐市観光まちづくり課総括の石川義昭さん(48)
 住民は地域の宝に気付きにくいという話を受け、あらためて地域資源の掘り起こしの重要性を感じた。移住者の意見を参考に、地域で伝統・技術の継承をしてもらい、発信していきたい。市としては、体験ツアーなどの移住者と地域をつなぐ企画を考えていく。市役所内の横のつながりを強化し、市を挙げた取り組みにしていきたい。

ぜひ一緒に活動したい
 別府市上人本町、OOTSU企画代表の大津雄慈さん(66)
 今回のハピカムでは、人と人のつながりが一つのテーマだったように思う。私は各地の地域づくり活動などに参加しているが、百貨店で働いていた経験もあり、人脈や商売のノウハウは少なからずある。移住者の不安解消や仕事づくりなどの一翼を担えるのであれば、ぜひ一緒に活動していきたい。

行動を考えていきたい
 臼杵市地域おこし協力隊の峰岡悦子さん(36)
 東京から今年4月に臼杵市に来たけど、暮らしていて気持ちがおおらかになれた。そして東京の時は住んでいる地域のために何か貢献したいと思ったことがなかった。でも今は自分に何ができるのか常に考えており、移住者らの話を聞いてその思いが一層強くなった。話を聞きに来て本当に良かった。今回の話を参考にし、具体的な行動を考えていきたい。

◆出演者プロフィル◆

 柳順一(やなぎ・じゅんいち)さん=東京都=宝島社「田舎暮らしの本」編集長
 1969年神戸市生まれ。93年宝島社入社。「田舎暮らしの本」、パソコン本、「別冊宝島」編集部などを経て、2008年6月より「田舎暮らしの本」編集長。住みたい田舎ベストランキングや空き家情報、農業、DIY特集などの移住者ニーズにこだわった雑誌づくりをしている。48歳。

 戸倉江里(とくら・えり)さん=中津市耶馬渓町金吉=カメラマン、農業、「雲与橋」編集長
 京都府舞鶴市出身。10歳で大阪府に移り、高校卒業後、デザイン事務所などに勤務。写真専門学校を経てカメラマンとなり東京へ。田舎暮らしを志向する中、東日本大震災を経験。下郷地区に移住して5年になる。半農半カメラを理想に日々いのちき(暮らし、生活の方言)している。39歳。

 榑松倫(くれまつ・りん)さん=宇佐市安心院町松本=納豆屋「大きな豆の木」経営
 東京都世田谷区生まれ。大学卒業後、家具製造販売会社で働いたが「食に関わる仕事がしたい」と伊豆大島の製塩工場へ。知人の紹介で2004年、松本地区に移住。納豆の製造・販売を生業にしながら、コメや野菜も栽培。捕獲したイノシシやシカを自作のナイフでさばくことにこだわる。40歳。

 栗原浩二(くりはら・こうじ)さん=豊後高田市田染小崎=田染地区里山づくり協議会事務局
 神奈川県伊勢原市出身。都会でのプログラマーの仕事を辞め、自転車で日本縦断の旅、ワーキングホリデーでカナダに1年間滞在。豪雨災害を受けた奈良県十津川村のふるさと復興協力隊員となり、林業に携わる。2013年11月から豊後高田市観光まちづくり会社勤務を経て、現職。35歳。

 小金丸麻子(こがねまる・あさこ)さん=臼杵市末広=うすきツーリズム活性化協議会事務局員
 福岡市出身。立命館アジア太平洋大学卒業後、安心院町グリーンツーリズム研究会(宇佐市)などを経て、2013年に臼杵市へ。グリーンツーリズム推進や地域おこし協力隊員の支援、街おこしイベントの展開などに従事。市内のコミュニティーハウス「A・KA・RI」で暮らす。29歳。

 後藤好信(ごとう・よしのぶ)さん=佐伯市船頭町=リノベーションユニット「DOCRE(どーくり)」主宰
 佐伯市長島町出身。高校卒業まで市内で暮らし、横浜の大学へ。卒業後はUターンして佐伯市職員になった。建設畑を歩んできたが、本年度より大手前開発推進室に異動。「未来の街は自分たちでつくろう」をモットーにリノベーションのワークショップなどを開く。1級建築士。34歳。

 子安史朗(こやす・しろう)さん=竹田市直入町長湯=まちづくりたけた総括マネジャー
 大阪市出身。大学卒業後、カナダ、米国に留学。CM制作やレストランウエディングの会社を経て芸能プロダクション「アミューズ」に勤務。移住候補とした30自治体のうち約半数を巡り、竹田市を訪問した際に「この町は面白くなる」と直感。2013年5月に移住した。42歳。

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