大半の交通事故はドライバーの注意不足や運転ミスで起きている。 2025年に全国で発生した死亡事故(2257件)のうち、半数以上の1266件はぼんやりとハンドルを握る漫然運転や脇見運転といった「安全運転義務違反」が原因だった。 人間と異なり、集中力を切らすことがない「自動運転」が進歩すれば、事故は減るのだろうか。各メーカーが研究開発に力を入れる中、技術への「過信」が招いた悲劇も起きている。 2024年9月21日午後0時50分ごろ。高知県香南市の自動車専用道で、乗用車が突然、片側1車線の中央線をはみ出し、対向車線を走行していた大阪市、神農諭哉(かみの・ゆうさい)さん(34)の車に正面衝突した。 事故の衝撃で、神農さんは右鎖骨や左手を骨折した。同乗していた家族の様子を確かめると、妻の彩乃さん(39)と長女(7)は重傷を負い「うー」「痛い」とうめき声を上げていた。 後部座席でチャイルドシートに座っていた長男の煌瑛(こうえい)ちゃん=当時(1)=だけが声を発しない。「息をしていない」。神農さんは大声を上げた。 煌瑛ちゃんは搬送先の病院で開胸手術を受け、医師らが心臓マッサージを続けたが、約2時間後、外傷性ショックで息を引き取った。 家族4人での旅行中に襲った事故。現実を受け入れられない中、3週間後、神農さんは警察から事故原因を聞いて、がくぜんとした。 乗用車の男(61)は、運転支援システム「レーン・トレーシング・アシスト」(LTA)を使用していた。男は運転席に座ったまま革靴を脱ぎ、助手席に置いていたサンダルに履き替えようと左手を伸ばした。その際に右手がおろそかになり、握っていたハンドルを右に切る格好に。結果として、車は急激に進路を変え、反対車線へ飛び出したという。 LTAは、車のセンサーが路面の白線を検知し、車線に沿った走行をサポートする仕組みだ。国が示す「自動運転技術」のレベル2に相当する。このレベルは自動ブレーキや車線の維持など、あくまで人間による操作の「支援」にとどまり、通常の車の運転と同じように安全への注意が求められる。 過失運転致死傷罪に問われた男の公判が今月13日、高知地裁で開かれた。被告人質問があり、男は事故当時の状況を説明。ゴルフ帰りでタンクトップの服装だったため、「革靴だとおかしいと思い、履き替えようとした」と明かした。 過去にもLTAを稼働させながら、運転席で上着やズボンを着替える行為を繰り返していたという。判決は夏ごろに言い渡される予定だ。 裁判を傍聴した神農さんは「運転手がズボンやサンダルを履き替えるなんて、究極のながら運転だ」と訴える。過失犯として裁かれる現状に納得できないが、現行法では危険運転罪に該当せず、国会で審議中の改正法案でも「ながら運転」は同罪の処罰対象に含まれていない。 「自動車メーカーが運転手の負担を軽減するために開発した安全システムが悪用され、息子の命が奪われた。こんなことが許されてはいけない」
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