時速194キロの乗用車による死亡事故で、控訴審判決公判が開かれた福岡高裁の法廷=22日午後
2021年2月に大分市大在の一般道で起きた時速194キロ死亡事故で、自動車運転処罰法違反(危険運転致死)の罪に問われた被告の男(24)=同市=の控訴審判決で、福岡高裁は22日、同罪で懲役8年とした一審大分地裁判決を破棄し、過失運転致死罪で懲役4年6月を言い渡した。平塚浩司裁判長は「常軌を逸した危険な運転だが、解釈が定着した現状で危険運転致死罪の成立を認めることはできない」と判断した。
争点は危険運転罪の対象となる▽進行を制御することが困難な高速度▽妨害目的の運転―に当たるか否かだった。
24年11月28日の一審判決が認定した「制御困難な高速度」の解釈について、平塚裁判長は「具体的な道路の状況に照らし、ハンドルやブレーキ操作のわずかなミスで進路から逸脱させるような速度」と説明した。
被告の車が進路に沿っていた点を重視し、「進行の制御に困難な事態が生じていたとの事実は見いだせない。194キロで走行したときに現場の路面状況で車体にいかなる揺れが生じるか、ハンドルをわずかに傾けただけでどのような挙動を取るのかは、具体的に立証されていない」と一審の判断を覆した。
一審判決の根拠となった検察側の走行実験については、使用したのが国産車で被告の海外製スポーツカーとは異なるとして、不十分な立証だと退けた。
「日常用語として危険な運転であることは明白」と述べつつ、「同様の法解釈に基づいて制御困難な高速度を否定する裁判例が積み重ねられ、解釈が定着している。立法的な手当てで対応するべきで、一審の特異な判断を維持することはできない」と強調した。
妨害目的は「被告が被害車両の存在を認識し、あえて安全な通行を妨げた事実はない」として、一審と同じく認定しなかった。
その上で、予備的訴因の過失運転致死罪を適用。量刑理由では「過失の程度は著しく重い。規範に無頓着な被告の精神的態度は厳しく非難されなければならない」と述べた。
控訴審は昨年9月に初公判があった。双方が控訴し、検察側は妨害目的も認めて量刑を引き上げるように主張。弁護側は制御困難な高速度にも当たらないとして、過失運転致死罪の適用を求めていた。
判決後、福岡高検の村中孝一次席検事は「内容を十分に精査し、適切に対処したい」、被告側弁護人は「内容を精査の上、今後の対応を検討する」とそれぞれコメントを出した。
<メモ>
事故は2021年2月9日午後11時ごろ、大分市大在の一般道(法定速度60キロ)で発生した。当時19歳だった被告の男は、乗用車を時速194キロで走らせ、交差点を右折してきた乗用車に激突。運転していた同市坂ノ市南、会社員小柳憲さん=当時(50)=を出血性ショックで死亡させた。
■一審判決を「特異な判断」と表現
<解説>二審福岡高裁は検察側の走行実験を「立証不十分」と断じ、危険運転致死罪を認めた一審大分地裁判決を破棄した。
「進行を制御することが困難な高速度」は、道路の状況に照らして車が物理的にコントロールを失う状況かどうかが重視される。
猛スピードだと、対向車線を右折する車などを十分に避けることが難しくなる。だが、そういった「他の走行車両」を考慮すると、危険運転罪の処罰範囲が不当に広がるとして、制御困難性の判断要素に含めないのが法解釈の「通説」だった。
一審はこうした解釈を前提にしつつ、走行実験などから現場の路面にわだちがあり「ハンドルやブレーキ操作のわずかなミスで、進路から逸脱し、事故を発生させる実質的危険性があった」と結論付けていた。
福岡高裁は実験の車が被告車両と異なり、実際に194キロで走行していないことを理由に、危険性は「抽象的」と一蹴。「通説」に沿った認定を重視し、一審判決を「特異な判断」とも表現した。
車線からはみ出したり、スリップしたりした事実がないと認定されにくいとされてきた「制御困難性」。一、二審で割れた判断からは、法の分かりにくさがあらためて浮き彫りとなった。
適用するハードルの高さは、他県で係争中の高速度事故の裁判にも影響を与える可能性がある。
危険運転致死傷罪に詳しい東京都立大の星周一郎教授(56)=刑法=の話
福岡高裁の判決は無理のない本筋の解釈だ。一般社会の感覚とは異なると思うが、危険運転致死傷罪の立法趣旨にのっとったもので、積み重なった裁判例に則している。
「進行を制御することが困難な高速度」の解釈で、むしろ一審の大分地裁が一歩踏み出した判決だったとも言える。
一審は路面にわだちがあったことなどを前提にハンドル操作がぶれた可能性などから制御困難性を認めたが、それを言うと、過失運転致死傷罪を認定した津市146キロ5人死傷事故(2018年12月)でも危険運転致死傷罪にするべきだったとなる。今回、福岡高裁が「(処罰範囲を裁判所が変えてはならない)罪刑法定主義の原則に則していない恐れがある」とまで言及した点も重要だろう。
高裁が下した懲役4年6月については、過失運転致死罪の量刑相場からすると最大限と言ってよい。