横断歩道を渡っていた男子小学生にトラックが突っ込む事故だった。 2016年10月26日午後、愛知県一宮市。小学4年の則竹敬太さん=当時(9)=は、はねられた後に車体の底に挟まり、引きずられた。病院に運ばれたが、出血性ショックで死亡。一緒に下校中だった兄や友人の目の前で起きた悲劇だった。 刑事裁判の記録によると、トラックの運転席付近にはスマートフォンが置かれ、逮捕されたドライバーの男性(当時30代)は、人気ゲーム「ポケモンGO」に興じながらハンドルを握っていた。敬太さんの存在に気付いた時点で35メートルの距離があったにもかかわらず、画面操作で3秒間も目を離し、再び視線を前方に戻したときには手遅れだった。 運転中に携帯電話やカーナビの画面を注視したり、電話機を持って通話する行為は「ながら運転」として道交法で禁止されている。 敬太さんの事故も該当するが、「ながら運転」は法定刑の重い危険運転致死傷罪の対象には含まれていない。加害ドライバーの男性が問われた罪は過失運転致死だった。 父親の則竹崇智さん(55)はスマホのゲームが原因だったことを知り、「はらわたが煮えくり返った」。男性からの謝罪文や香典の申し出は全て断った。事故が過失扱いされることにも納得できず、刑事裁判が始まると、被害者参加制度を利用して法廷で厳罰を求めた。 「私たち家族にすれば、故意に息子の命を奪われたも同然。2トン近い鉄の塊であるトラックを、スマホを見ながらという危険な状態で運転した。これは単なる脇見運転ではない」 判決は禁錮4年だった。過失運転罪は多くのケースで執行猶予が付く中、実刑が言い渡されたことは「最大限の裁きだった」と受け止めた。 敬太さんの事故は「ながら運転」の危険性を世に知らしめ、道交法の改正につながった。19年12月から反則金が増額され、普通車では6千円から1万8千円と、3倍に引き上げられた。 ただ、「ながら運転」を危険運転罪の対象に加えることについて、国は慎重な姿勢を取っている。交通事故の処罰をテーマにした法務省の有識者検討会は、最終報告書(昨年11月)の中で危険性や悪質性を認めたものの、法改正までは求めなかった。 運転中のスマホ利用を例に取れば、ゲームのような遊興と、緊急地震速報の確認といった危険回避の行動では意味合いが異なる。さまざまなケースが想定され、一つの条文にまとめるのが難しい―という理由だ。 「ながら運転」の厳罰化は棚上げされているのが実情で、識者の中には、運転者の「利便性」を損なわないよう配慮した結果だとする批判もある。 24年に全国で発生した「ながら運転」の死亡・重傷事故は136件で過去最悪だった。20年には反則金の増額で件数が大幅に減ったものの、その後は再び悪化の一途をたどっている。スマホは日常生活に浸透しており、対策が急がれる。 「なぜ危険運転罪に入れないのか」。則竹さんは規制が進まない現状に異議を唱える。「いつでもどこでも使えるスマホは、使い方を間違えればとても危険で、多くの人が死んでいる。きちんと法整備をしてほしい」
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