禁錮3年、執行猶予5年―。2023年3月、北陸地方の裁判所は、交通死亡事故で過失運転致死罪に問われた男性(24)に有罪判決を言い渡した。 事故が起きたのは、21年の夏だった。男性は午後8時ごろ、友人2人を乗せて乗用車を時速50~60キロで運転。交差点に差しかかり、赤信号が目に入ったが、「左右から車は来ていない。そのまま通過しよう」と判断した。急ぎの用事があったわけではない。ただ、止まるのが面倒だった。 「人がおるぞ」。友人たちが大声を上げた。次の瞬間、横断歩道を渡っていた女性=当時(49)=をはね飛ばしていた。 男性はその場で119番通報した。後続車に乗っていた医療関係者も救命措置をしたが、女性は翌日に亡くなった。 女性には長年連れ添った50代の夫がいた。子どもはおらず、一人残された夫は裁判が始まる前に自ら命を絶っていた。 その事実を知った男性のショックは大きかった。女性の葬儀で夫に会い、わびていた。「自分のせいでもう一人の命も奪ってしまった」と過ちを悔いた。 一方で、執行猶予の判決は意外だった。「死亡事故でも刑務所に入らなくていいのか」。社会に戻り、日常の生活を送るうちに事故の記憶は薄れていった。運転免許の取り消し処分も受けたが「不便だから」と無免許でハンドルを握り続けた。 裁判が終わってから9カ月後。九州での仕事の際に通りかかった大分市内で軽乗用車を運転中、スピード違反を取り締まっていたパトカーに呼び止められた。無免許運転が発覚し、道交法違反で逮捕された。 大分地裁で懲役9カ月の判決を受け、執行猶予は取り消された。元の罪と合わせて3年9カ月の刑期を科され、鹿児島刑務所(鹿児島県湧水町)に服役している。 6月、刑務所に母親から手紙が届いた。古里にいる父親が病気で倒れ、「危篤」だとつづられていた。男性はその日、一晩中泣いた。「何も親孝行できていないのに」 被害者の女性と、後を追った夫にも、かけがえのない人生があった。「2人の幸せな日々が続くはずだった。自分は車を運転する責任を知らないまま生きてきて、考えが甘かった」 「悪質な事故で人の命を奪っておきながら、なぜ罪に向き合えなかったのか。償いや反省の意味を、ちゃんと理解したい」。繰り返してしまった交通犯罪。男性は自問自答を続ける。
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