交通死亡事故を起こして4年が過ぎた。 「刑罰の重さは当事者になってから知った」。40代の男性受刑者は、取材のために用意された大分刑務所(大分市畑中)の一室で語り始めた。 懲役14年の刑を受けて服役している。社会に戻るのは50代半ばになる。 「それでも、人の命を取り戻すことはできない。償いは一生続く」と絞り出した。 2021年7月のある日。関西地方に住んでいた男性は夜通しで酒を飲んだ。ビール、テキーラ、焼酎…。キャバクラなど4軒を巡り、時刻は翌朝の午前9時になっていた。 酔って車を運転するのは「いつものこと」だった。コインパーキングに止めていたワゴン車に乗り、エンジンをかけた。道路に出て下り坂を進むと、前方に市道交差点の赤信号が見えた。「間もなく青に変わるだろう」。止まらずに通過しようと考えた。 実際は、信号待ちのミニバイクが停止線の位置にいた。男性は全く気付かず、時速20~30キロのスピードで後方から追突。そのまま右折した。バイクと50代の男性運転手は、ワゴン車と道路脇の建物に挟まれ、押しつぶされた。 「まずい」。男性は倒れた被害者を放置し、アクセルを踏み込んだ。飲酒運転だけではない。無免許だったことも頭をよぎった。 逃走した際、車のナンバーは多くの通行人に目撃されていた。数時間後、男性の携帯電話に電話がかかった。「事故を起こしただろう」。警察からだった。 逮捕され、取調官から被害者が全身の骨を折って出血性ショックで死亡したことを聞かされた。「やってしまった」と頭を抱えた。 逮捕容疑の一つは、自動車運転処罰法の「危険運転致死」だった。 聞いたことのない罪名―。弁護士が差し入れた法律の資料で重罪だと知った。法定刑は最長で懲役20年に及び、運転ミスが対象になる過失運転致死罪(懲役7年以下)との差は歴然としている。 容疑に含まれていたひき逃げや無免許の部分は弁解できないと思ったが、法律の資料を読み込むと「飲酒運転でも危険運転罪が適用されなかったケースがある」と気付いた。 裁判で重視されるのは、前後不覚の「酩酊(めいてい)」状態だったかどうか。酒に強い自分は、そこまで酔ってはいなかったはずだ。次第に、自分の事故は危険運転罪に当たらないのではないか―と思うようになった。 事故から8カ月後に迎えた一審裁判員裁判の初公判。男性側は「酒を飲んでいたが、正常に運転できていた」と述べ、危険運転罪の成立を真っ向から否定。「過失運転罪にとどまる」と主張した。 × × × 全国で毎年、3千人近くの人が交通事故で命を落としている。死亡事故を起こし、危険運転や過失運転の罪で服役している受刑者が大分合同新聞の取材に応じ、当時の行動への後悔を語った。
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