法制審議会刑事法部会第3回会合に臨む委員ら=10日、東京・霞が関
大分市の時速194キロ死亡事故で適用基準の不明確さが浮き彫りになった危険運転致死傷罪の見直しに向けて、法制審議会(法相の諮問機関)の刑事法部会は10日、車の性能に詳しい研究者にヒアリングをした。自動車工学に基づき、事故の回避が難しくなる「危険運転速度」が示された。28日の次回会合で、「法定速度の○倍以上」といった処罰基準に当てはめることができるか検討する。
東京・霞が関で第3回会合があり、刑法学者や被害者遺族ら委員10人が出席した。ヒアリングを受けたのは大手自動車メーカーで研究開発をしていた東京農工大の毛利宏名誉教授。
議事は非公開。法務省によると、毛利氏はブレーキやハンドル操作で事故を避けられないスピードを「危険運転速度」と定義。一定の条件を設定した計算式とともに説明した。委員からは「車種が変わっても同じか」といった質問が出たという。
法制審は、法令で定めた最高速度を大幅に超えた場合に危険運転罪を適用する「数値基準」の導入を検討している。最高速度の「2倍以上」「3倍以上」などが例に上がっているが、毛利氏から基準への言及はなかったという。
危険運転罪の最高刑は拘禁刑20年で、運転ミスを対象とした過失運転致死傷罪(拘禁刑7年以下)よりも格段に重い。委員の中には、交通量や道幅、事故の状況などを考慮せずに、一律に数値で線引きすることに慎重な意見もある。
現行の危険運転致死傷罪は「進行を制御することが困難な高速度」などと規定し、数値を定めていない。一般道を時速百数十キロで走行した事故でも適用されないケースが相次ぎ、「法が機能していない」と各地の遺族が批判している。
■物理学の知見、注目される議論への影響
<解説>法制審が自動車工学の専門家にヒアリングをしたのは、車が物理的に「制御困難」になる速度を把握するのが目的とみられる。
道路を走行していれば、対向車線から車が右折してきたり、横断する歩行者がいたりする。こうした流動的な状況にブレーキやハンドル操作で対処するのが運転の基本だが、一定の速度を超えれば極めて困難に陥る。物理学の知見が今後の議論にどう影響するか注目される。
高速度事故に数値基準を設けるのは簡単ではない。
同じように数値での線引きを検討中の飲酒運転では、酒を飲んでハンドルを握る故意が認められることに加え、一定以上の体内アルコール濃度で運転能力が低下する医学的知見が確立している。
速度超過は車を運転する連続性の中で起こる。道路によって制限速度は異なることなどから「飲酒運転よりも、多くのドライバーがうっかり違反する可能性をはらんでいる」と法制審委員の一人は指摘する。
一方で基準を高く設定しすぎれば、悪質な運転を捉えきれなくなる懸念もある。法制審は、法改正後に起こりうる事態も想定し議論を重ねる必要がある。