危険運転致死傷罪の見直しを検討している法務省=6月5日、東京・霞が関
危険運転か過失運転かを振り分ける「数値基準」はうまく機能するのか。3月に法務省であった法制審議会刑事法部会の第1回会合では、慎重な見方を示す委員もいた。
議事録によると、数多くの刑事事件に携わってきた宮村啓太弁護士(47)=第二東京弁護士会=は「(適用範囲が)不相当に拡大されると、責任の大きさに見合わない刑罰を多くの人に科す恐れがある」と、くぎを刺した。
どのような交通違反なら危険運転に当てはまるのか、法改正で明確に示すことには反対していない。ただ、過失運転致死傷罪(拘禁刑7年以下)に比べ、最長で拘禁刑20年という重い罪に見合った「危険性」や「悪質性」は数値のみで判断できないとみる。
高速度の場合、道路の幅や形状、交通量が異なる市街地と郊外では「同じ速度でも危険性は異なる」という考え方だ。
スピードの出し過ぎは頻繁に起きる交通違反だ。
警察庁の全国統計によると、2024年に50キロ以上の速度超過(道交法違反)で摘発されたのは1万555件に上る。30~49キロ超過になると、11万7495件まで跳ね上がる。
法制審の第1回会合で、幹事の虫本良和弁護士(45)=千葉県弁護士会=は、来年に法定速度が時速60キロから30キロに変更される「生活道路」を取り上げた。
生活道路とは幅員5・5メートル未満でセンターラインがなく、通学や散歩などで歩行者の多い道とされる。
仮に数値基準を法定速度の「2倍」に定めれば、時速60キロ以上での死傷事故は、全て危険運転の罪に問われる。
虫本弁護士は「5・5メートル未満の道路の総延長は83万キロともいわれる。数値基準を設けることは市民への影響が大きい」と指摘した。
法整備の必要性について、法務省刑事局の玉本将之刑事法制管理官は「危険で悪質な死傷事故に適切に対処することができていないという指摘がある」と説明する。
全国の被害者遺族らでつくるネットワーク「高速暴走・危険運転被害者の会」は今年3月、数値基準の導入を書面で法相に要望した。
「罪が成立する条件が明確になれば、捜査や裁判もスムーズにいく。今後、遺族が苦しむことがないようにしてほしい」。大分市の時速194キロ死亡事故の遺族で、会の共同代表を務める長(おさ)文恵さん(59)は、誰にでも分かりやすい条文を望んでいる。
根拠のある基準を示し、司法への不信が渦巻く現状を変えることができるのか。法制審は今後、専門家へのヒアリングなどを通じて着地点を探る。