時速194キロ死亡事故の判決が言い渡された大分地裁=28日
時速194キロの車が一般道で起こした死亡事故を、大分地裁は「進行を制御することが困難な高速度だった」と断じた。危険運転致死罪を認定したことは、従来の裁判例を超えた判断とも言える。
▽津市の時速146キロ死傷事故(2018年12月)▽福井市の時速105キロ死傷事故(20年11月)―では、いずれも「道路の状況」や「車の性能」を考慮し、加害車両が車線を逸脱せずに進んでいたことから、裁判所は「制御困難とは言えない」と結論付けた。
こうした前例を踏まえ、大分地検は、サーキット場や高速道路と比べて、現場の路面に「凹凸やわだちがあった」と細かく立証。さらに、夜間にドライバーの視野が狭まる「万人共通の生理的メカニズム」を考慮するべきだと強調した。
地裁は検察側の主張に沿って、このような状況下で猛スピードで走行すれば「わずかな運転操作ミスで進路を逸脱する実質的危険性があった」と判断。進路に沿って真っすぐ進んでいた被告の車を「進行が制御困難だった」と認定するに至った。
検察側は他に同罪の処罰対象である「妨害目的」の成立も求め、「相手の車に急な回避行動を取らせることを確実に認識していたのであれば認められる」と主張した。ただ、あおり運転などを想定した規定で直進車と右折車の事故で適用された前例はなく、地裁は、被告が危険を冒してまで妨害に及んだとは言えないとして退けた。
地裁の判決は、津市や福井市の事故を大きく上回る「常軌を逸した高速度」を前提としている。各地で相次ぐ高速度事故への処罰の在り方に、今後どう影響を与えるのか注目される。
元最高検検事で昭和大医学部の城(たち)祐一郎教授の話
大きな意義のある判決だ。従来の裁判例は、実際に進路を逸脱していなければ「進行を制御できていた」と考え、高速度であっても危険運転致死罪の成立を否定するケースが続いていた。大分地検はプロドライバーの走行実験などを通し、路面の状況を事細かに調べ、夜間の高速度が視野に及ぼす影響も示した。前例のない立証内容だったと言える。ただ、今回は時速194キロという特殊性がある。他の裁判にどこまで影響を与えるかは未知数だ。
■裁判員「常識的な判断ができるように意識」
閉廷後、裁判員を務めた男性2人が大分地裁で記者会見に応じた。危険運転致死罪と過失運転致死罪のどちらを適用するか判断を迫られた2人は「法律の解釈を考えるのは難しかったが、判決には納得している」と口をそろえた。
大分市内の40代男性会社員は「(現行法の)条文が曖昧だと思う部分はあった。裁判官から詳しい説明があり、適用基準については十分に理解できた」と振り返った。
危険運転致死傷罪を巡っては、適用要件を明確にするため法務省の有識者検討会が27日、条文の見直しを提言した。「法定速度の○倍以上」などとする数値基準を導入するよう報告書をまとめたばかりで、裁判は全国的にも注目を集めた。
男性は「検討会のことは頭にあったが、裁判員としてしっかり裁判に向き合い、自分の意見を言おうと臨んだ」と語った。
日田市内の50代男性会社員は「加害者側と被害者側の立場をそれぞれ考えると、判決を出すことにプレッシャーを感じた。皆さんの代表として、常識的な判断ができるように意識した」と述べた。