曾祖母から続く老舗の菓子店を受け継ぐ右から後藤万吉さん、やよいさん、天衣さん、手嶋千陽さん=別府市浜脇
【別府】4代続く老舗「杏樹~ゴトー饅頭(まんじゅう)店~」(別府市浜脇)の店頭には、ショートケーキなどの洋菓子と初代から受け継ぐ和菓子が並ぶ。近所の子どもや若者でにぎわう様子からは想像できないが、突然の代替わりや休業といった厳しい時期を乗り越えながら、「饅頭店」の名称を姉弟4人で守ってきた。現代の感覚を取り入れながら、家族で大事にした味にこだわり続けている。
「ゴトー饅頭店」は1910(明治43)年に4人の曽祖母が同市の永石通りに創業。祖父母、父へと受け継がれた。長男で末っ子の後藤万吉さん(31)が思い出すのはサツマイモのごろごろと入った石垣餅の味。学校が終わった後に手を伸ばすのが日課だった。毎日働きづめだった父は、参観日や運動会には白衣のまま来てくれた。姉弟みんな父の菓子が大好きだった。
そんな父が2008年に急死した。四女のやよいさん(36)は父と一緒に和菓子と洋菓子の店を開くことを目標に、京都でパティシエとして経験を積んでいた。20歳(当時)の若さで店を継ぐことを決意し、長女の手嶋千陽さん(43)も手伝った。洋菓子作りはいったん諦め、父が残したレシピを頼りに、祖母や先代からの職人にも和菓子の作り方を教わった。うまく作れるようになるまでに約3カ月かかった。しっかりと練ったあんこを引き継ぎ、健康志向の現代らしく甘さは控えめにした。
3年ほど続けたが、店舗の老朽化で店を閉めて休業に。高齢だった祖母も引退した。やよいさんは知り合いの店でさらに技術を学ぶなどして腕を磨き続け14年3月、現在の場所で店を再開した。
インスタグラムの影響でソフトクリームがはやりだした4年ほど前、コーヒー店で働いていた三女の天衣(あい)さん(39)が加わった。3年前には金融機関や飲食店での勤務で経験を積んだ万吉さんも加わり、会社にすることを決意。事業展開を視野に入れ、4人で守ることになった。
この再出発の節目に開発した「あんこチーズケーキ」。代々受け継ぐ自慢のあんことチーズケーキ、抹茶のクッキーが絶妙なバランスの一品で、5月の将棋名人戦で藤井聡太名人が注文したことでさらに注目を集めた。今も人気は落ちず、ネット販売も好調という。万吉さんは「ずっと大切にしてきたあんこの味を、全国に知ってもらえたことがうれしい」と喜ぶ。
12月中旬には以前の店舗があった永石通りに再移転する。やよいさんは「開店当初、味が変わったと常連客に言われたが、それは乗り越えられた。当時からの製法や素材にこだわり続けたい」と語る。父と描いた夢、家族の愛が詰まった味が思い出の地域でよみがえる。