台風10号による増水で壊れた農業用水路を見つめる長野武広さん。「コメ作りには、まだまだ水が必要な時期なのに」と嘆いた=3日、国東市安岐町朝来
大分県内を直撃した台風10号は農業にも爪痕を残した。大雨に見舞われた地域は、収穫が近づく田んぼやビニールハウスに土砂が流入するなど、作物やインフラの被害が相次いでいる。「心が折れそう」「復旧はいつになることか」。手塩にかけて育ててきた生産者からはため息が漏れる。県全体の状況はまだ分かっておらず、県が調査を急いでいる。
「まさかこんなことになるとは」。国東市安岐町朝来のコメ農家長野武広さん(63)は3日、大量の土や石に覆われた田んぼや水路を見つめ、肩を落とした。
非常に激しい雨が降った8月29日は、近くを流れる朝来野川が氾濫したという。地域の人たちから請け負う分を含め、コメを作付けしている田んぼ計6ヘクタールのうち1・5ヘクタールが冠水。他にも風や雨で多くの稲が倒れた。
イノシシよけの柵も流されてしまい、仲間とダメージの軽かった早期米の刈り取り作業に追われている。
昨年の猛暑の影響で全国的にコメの品薄が続いている。「今年は順調に育ち、高く買ってもらえると期待していたのに。まだ水が必要な時期に水路が壊れ、取れる量は半分になるかも」。悔しそうにつぶやいた。
安岐町大添にあるレタス、ホウレンソウなどの生産法人「ウーマンメイク」は、水耕ハウス(80アール)が膝の高さほどまで浸水した。平山亜美代表(35)は「一気に増えて怖かった」と振り返る。
水や肥料を24時間循環させるポンプが漏電で故障し、ほとんどが枯れてしまった。パック済みの商品や包装資材も泥をかぶり、一部しか出荷できなかった。被害額は約2500万円に上る見通しだ。
完全復旧には2カ月はかかるという。平山代表は「新鮮な野菜を届けられず残念。早く元の出荷体制に戻したい」と自分に言い聞かせるように言った。
災害発生時に農家に共済金を支払う県農業共済組合によると、由布、佐伯、豊後高田各市や玖珠、九重両町など県内全域で▽田んぼの冠水▽あぜの崩落▽ハウスの骨組みが折れ曲がる―といった被害が出ている。
県内の養鶏場では雨による停電で空調機能が停止し、ブロイラー約4万羽が犠牲になった。林業、水産業でも被害が出ているとみられる。
県農林水産企画課は「県内の全容把握を進めている。今後、生産者が少しでも早く復旧できるように対応する」と話している。