東日本大震災の発生から間もなく1年。震災を教訓として、年間企画で大分県内の防災の在り方を検証する。
※大分合同新聞 朝刊社会面 2012(平成24)年3月1日~2013(平成25)年2月19日掲載
全員が学校近くの高台に着いた。4分30秒。昨年秋の訓練より4秒遅れた。「次はもっと速くしたい」「でもみんな慌てずにできて良かった」。児童らは次々に感想を発表した。 佐伯市米水津の向陽小学校(47人)が14日に実施した避難訓練。地震と校...
「災害が起きたとき、一番多くの人が避難するのは学校でしょう」。日出町は昨年度、町内全ての8小中学校に防災倉庫を建て、毛布や簡易トイレ、ラジオ、発電機、救助用機材などをそろえた。町総務課主幹の藤本英示さん(51)は「学校は地域の防災拠点です...
「うちの地区は道が狭く、高齢者が多い」 「高台が遠くて高い建物もない。津波が心配だ」 「市街地なので避難のとき渋滞するかも」 「病院やコンビニが多いので災害の後は心強い」 防災の専門知識を身に付けるため、8月に中津市役所で...
救助用のジャッキやハンマー、リヤカー、医療用品――。地区の防災倉庫に資機材がそろっていた。 臼杵市佐志生の目明(めあき)区。60数戸の静かな集落では、住民でつくる防災会が盛んに活動。毎年、防災訓練をして意見を出し合い、資機材を充実させ...
佐伯市の中心部から番匠川を隔てた上堅田地区。8月、地区内にある10自治会の区長らが、津波避難路約30カ所の見回りを始めた。 「ここの高さは?」「21mですね」「手すりが付いたのがいいなあ。お年寄りが助かる」。昔の峠道や裏山にあるお宮の...
小さな集落ほどの住民が1つの建物で暮らすマンション。県の推計によると、県内では約650棟に約3万世帯が入居する。県民の約6%に当たる計算だ。 「鉄筋コンクリート造りなので防災面は大丈夫、と考えている人が多い」。県マンション管理士会長の...
日曜日の午後7時、住民約50人が公民館に集まった。大分市の小野鶴新町防災会が2日に開いた防災講話。メーンテーマは「家具の転倒防止」だ。 「食器棚の中は重い物を下に、軽い物を上に」「家具を金具で固定するなら、壁の裏側の桟(間柱)がある場...
死者・不明者254人。東日本大震災で、多くの消防団員が命を落とした。 < 半鐘を屯所の屋上で鳴らし続けていた >< 水門の閉鎖中 >< 住民を車に乗せ避難所まで往復していて >< 海岸付近の人に避難の呼び掛け ><...
一度に7,500人のけが人が発生する。大分市や別府市で最大震度7の直下型地震が起きた場合、大分県が考える被害想定だ。計算上は、県内で1年間に起きる交通事故の負傷者数に迫る。大規模災害で多数の傷病者の“命のとりで”となる医療機関の備えはどう...
万一の際、医薬品をどう届けるか――。さまざまな被災状況を想定して受注、入荷、配送の手続きを決めた事業継続計画(BCP)。九州を中心とした医薬品卸のアステム(大分市)は東日本大震災を教訓に、災害時の薬の供給態勢を大きく見直した。「想定できる...
災害時も継続して治療が受けられるか。難病患者など特別なケアが必要な人にはそれが“命綱”となる。 「病院機能が止まるのが一番怖い」。腎臓病を患い、人工透析を受けて14年になる豊後大野市千歳町の伊達伸久さん(71)は週3回の透析ができなく...
いざというとき、1人で避難などの対応が難しい高齢者や障害者。こうした「災害時要援護者」を掲載した台帳が県内の全市町村で作られている。 「台帳を基に(支援者らが)助けに来たり安否確認できるようにしておくの。登録しませんか」。日田市大鶴地...
「現実に、重度の人(要介護者)を運べるか、避難させることは可能か、ということですよね……」 目の前に海が広がる高齢者総合福祉施設「しおさい」(津久見市)。津波対策について、施設長の小野淳哉さん(54)は「正直、行き詰まっている」と打ち...
「ここの工場は津波は大丈夫ですか」。新規の取引先から、そんなことを尋ねられるようになった。 電子機器に欠かせない半導体を製造するデンケン杵築工場(杵築市)。取引上の危機管理のため、発注元の大手メーカーは災害対策を求めてくることが多くな...
江戸時代に起きた宝永地震(1707年)で10mを超える津波の記録が残る佐伯市米水津。米水津湾沿いに工場を構える水産加工業「やまろ渡辺」は今春、大災害から会社をどう守るかを想定した事業継続計画(BCP)を完成させた。 「自分たちの仕事を...
デスクワークをする社員の後ろに大型の書類棚やロッカーが並ぶ。一見どこにでもある風景だが、地震対策が施されていた。国東市安岐町にある物流サービス業「テクノ」本社事務所。書類棚などの備品は転倒防止のため、粘着性のシートと金具で床に固定。思い切...
1日で最も買い物客が多い夕刻。トキハインダストリーアムス大在の店長、中村典生さん(59)の携帯電話に見慣れないメールが届いた。「大分市沿岸に避難勧告を出しました。速やかに高台へ……」 未曽有の大津波が東北地方を襲った2011年3月11...
津波が収まるまで、船舶を沖合に待機させる「沖出し」。東日本大震災で津波警報が出た時、佐伯湾の松浦漁港付近では「15隻ぐらいですかね。比較的大きな船が沖に出ていた」。県漁協鶴見支店長の山田正喜さん(51)はあの日を振り返る。湾外から岸に近い...
県中部を震源とする震度5弱の地震で、エチレンプラントの配管が破損――。 コンビナート火災を想定した今月2日の防災訓練。企業の自衛消防隊に加えて消防署や陸上自衛隊、DMAT(災害派遣医療チーム)も連携。消火活動や負傷者の救出、住民への周...
海水浴場の砂浜が延びる佐伯市蒲江の高山地区。蒲江翔南中学校が立つ入り江でおよそ半世紀前、原子力発電所の立地に適しているかを調べる地質調査が実施された。 原発の建設候補地を探していた通産省(現経済産業省)の委託で、大分県が1966年度に...
「日本の原発事故対策は世界に30年遅れている」 原子炉主任技術者の国家資格を持ち、伊方原発(愛媛県伊方町)での勤務経験もある元四国電力社員、松野元さん(68)=松山市=は痛言する。福島第1原発事故の4年前に著書「原子力防災」を執筆。「...
「伊方発電所異常時通報連絡記録票」――。大分県防災危機管理課にファクスが届いた。発信者は愛媛県。職員はすぐに上司に報告し、各市町村や関係機関に転送。手分けして正確に送信できたか電話で確認した。 大分市佐賀関の対岸に位置する伊方原発(愛...
メルトダウン(炉心溶融)によって大量の放射性物質が放出された2011年3月の東京電力福島第1原発事故。隣の栃木県へと続く幹線道路は、避難住民の車が長い列をつくった。 栃木県は5日後、県内2カ所の「道の駅」に避難者を受け入れる臨時窓口を...
放射性物質の検出を手掛ける県薬剤師会検査センター(大分市)。福島第1原発事故後の2011年7月に検出器を導入して以降、食品を中心に約3,600件を調べてきた。 「安全・安心を求める消費者の声を反映してか、検査依頼はあまり減らない」と検...
2013年度中の完成を目指し、建設工事が進む佐伯市役所の新庁舎。ヘルメットをかぶり、普段は目にすることのない地下に潜った。巨大なコンクリート製の柱を支えていたのは、円盤状のゴムと鉄板を重ねた分厚い「積層ゴム」。別の柱はレール状の装置の上に...
市庁舎のあちこちにひび割れが入り、ロッカーはことごとく倒れた。負傷者こそ出なかったが庁舎は全員退避となった。2011年3月11日、震度6弱の激しい揺れで茨城県水戸市役所は機能停止に陥った。 築40年近い庁舎は耐震性に不安があった。余震...
民家のない海岸側にも拡声器が向けられた。ケーブルテレビ(CATV)網を通して災害情報を伝える豊後高田市の屋外スピーカー。東日本大震災の後、市は沿岸部の10カ所に海方向の拡声器を増設した。 大震災発生の日は海岸に残ったままの人も多かった...
南海トラフ地震で最も津波の被害が懸念される県南地域で2012年11月、大規模な災害対応訓練があった。 「避難所」となった臼杵市の諏訪山体育館。避難所を運営する市職員や保健師、福祉施設職員ら50人は、300人近い避難者の対応に追われた。...
学校の空き教室に、毛布や食料品、間仕切り、簡易トイレ、投光器が入った段ボール箱が次々と運び込まれた。別府市は1月、物資を小中学校に分散して備蓄する取り組みを始めた。 「避難所になる場所にあらかじめ置いておけば素早く対応できる」と市危機...
東日本大震災で宮城県気仙沼市に派遣された陸上自衛隊別府駐屯地の第41普通科連隊。集結場所とされた総合体育館は「実際に行ってみると避難所になっていた」。活動拠点をどこに置いたらいいのか。市と調整した末、中学校の校庭にテントを張り、教室も一部...
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