大分合同新聞社とNHK大分放送局によるメディアミックスの年間企画。 漁業、海上交通、観光などさまざまな形で大分の暮らしを支えてきた「海」をテーマに地域の問題を探った。
※大分合同新聞 朝刊1面 2002年4月14日~2003年3月13日掲載
大分合同新聞社とNHK大分放送局は共同企画で、漁業、海上交通、観光などさまざまな形で大分の暮らしを支えてきた「海」をテーマに地域の問題を探る。昨年の「大分に生きる―あなたはどこで暮らしますか―」に続くもので、4部編成のシリーズ。第1部は農...
大神漁港の朝はにぎやかに始まる。日曜祝日を除くほぼ毎日、一般の人にも開放する市場が午前7時半から始まる。「タイじゃ、タイじゃ。千両(円)、千三百両…」。セリ人の威勢のいい掛け声とともに、仲買人が水揚げされたばかりの魚を競り落とす。車でやっ...
「透明度―14m」。県の漁業調査船「豊洋」の乗組員の声が響いた。4月2日、高崎山沖の別府湾だ。県海洋水産研究センターの坂本進主幹研究員が「別府湾の透明度は高くなっている」と話した。 同センターは1972年から30年間、別府湾の水温や透...
「一体、どれだけのごみが海底に沈んでいるのか」 別府湾のごみの多さに、県漁協日出支店運営委員長(旧日出町漁協組合長)の上野保二さん(71)は驚いた。底引き網漁船で引き揚げたごみがあまりにも多かったのだ。 県は2000年度から3カ年...
「この海の先に、沖ノ浜港があった」。大分市の大分港で、大分大学名誉教授の加藤知弘さんが別府湾を見詰めた。加藤さんは16世紀後半の大友宗麟時代に栄えた南蛮貿易を研究している。沖ノ浜は慶長の大地震(1596年)で沈み、「瓜生島伝説」として伝え...
「桟橋がね、出会いと別れの場所だったんですよ。お客さんを迎えて送って、5色のテープを握ってね。汽笛の音と共に船が出て行く。何とも言えない旅らしさがありましたね」 別府市北浜の関屋旅館の女将林房江さん(53)は温泉観光都市・別府の”昔”...
「きれい、という感覚が私たちとは違うんです、今の子供たちは…。コンクリートで固められた海岸の方がきれいだと感じている」。大分市に唯一残る大在干潟で、大分生物談話会の佐藤真一会長は困った、という表情を浮かべた。 大在干潟は、工場群が並ぶ...
遠くに、別府のきらびやかなネオンが見える。幻想的な風景だ。3月下旬、夜半から小雨が降ったりやんだりの天気が続いていた。午前4時半、私たち撮影スタッフは日出町深江の漁業上野源三郎さん(65)、タミエさん(60)夫婦の船に乗っていた。 別...
「海が遠くなった」 別府市の竹瓦温泉2階のフォーラムで、参加者が口をそろえた。竹瓦温泉は昭和初期に建てられたレトロな木造建築。旅館や料飲店が並ぶ周囲の街並みには、湯の町・別府の温泉情緒が漂う。 フォーラムは「現在を学び、未来の別府...
出てくる、出てくる…ヤサラやハマグリ、大きなアワビやサザエの貝殻。大分市の中世大友府内町遺跡では、約450年前の武士や町人らが食べたとみられる貝も出土している。現代人と同じように、別府湾の「海の幸」を堪能したのかと思うと、うれしくなる。 ...
「よーい」、満栄丸のへさきで竹内徳幸さん(43)が声を上げた。午前5時、蒲江町元猿の沖合1kmの海上だ。竹内さんが海中の定置網をのぞき込んだ。 「いいキビナゴが入っちょんぞー。ウルメイワシもゼンゴも入っとる」 満栄丸は定置網を引き...
ばあちゃんたちが集まった。午前7時すぎ、元猿漁港の荷揚げ場で「魚より」が始まった。定置網から戻ってきた船が魚を水揚げする。大きな台にキビナゴ、ウルメイワシを広げる。ばあちゃんたちが種類ごとに選別し、箱に詰める。荷揚げ場に声が響く。...
「カマポッポ」(元猿) 「サムライギッチョ」(西野浦) 「(カマ)ボッポン」(蒲江浦) 巻き貝の一種「マガキガイ」の呼び名が地域によって、こんなにも違う。元猿の飲食店経営浅井百合さん(26)が「蒲江には『浦』がいっぱいある。同...
「元猿は若えし(若者)が多いなあ。うちの地区は年寄りばかりや」。三原嘉信さん(71)が網縫いの手を止めてこう話した。「これができんと、一人前の漁師にはなれん」とされる大切な漁網の手入れ。三原さんは約15km離れた町内の丸市尾から元猿まで、...
「子どもんころ、この辺の海はきれいやった。夕方になると、かあちゃんから『おかずを取ってこい』っち言われて、素潜りで魚を捕りよった」 元猿海岸で、定置網漁と民宿経営の河野吉広さん(53)は懐かしげに語る。蒲江町には高山、波当津など数少な...
猪串浦から船で5分の入り江に、宮脇真一さん(49)の養殖漁場がある。いかだの上には宮脇さんと妻の八重子さん(48)。毎日、海の上で共働きだ。 いかだから、海中に下ろした網にはヒオウギ貝がぎっしり。「出荷できる時が何よりもうれしい。子育...
「都会の人が魚を食べに、蒲江まで来てくれるんで。『リフレッシュできました』って、心から喜んでくれる。こんないいことはないわなあ」。西野浦の民宿で、経営者の橋本正恵さん(53)が話した。 橋本さんは蒲江町観光協会長。民宿では、本業の水産...
「こんにちは。きょうはよろしくな」 蒲江町の蒲江翔南中学校(中野祐三校長・303人)で、NHK大分放送局の豊田研吾ディレクター(29)が教壇に立った。豊田ディレクターは特集番組「大分の海・黒潮の恵みを引き継ぐ~蒲江町・上浦町~」の制作...
蒲江翔南中学校の特別授業は2時間に及んだ。NHK放送局の豊田研吾ディレクターと一緒に、蒲江町の海と暮らし、漁業の課題について話し合った15人の生徒たち。「10年後の蒲江とわたし」をテーマに、それぞれの思いを作文に書いた。生徒たちの表情は真...
「今、僕から彼らに伝えられることは何もないかもしれない」 NHK大分放送局の豊田研吾ディレクターはこう書き出した。蒲江翔南中学校での特別授業を終え、生徒の作文を読み終えた後だ。特集番組「大分の海」の制作中、蒲江町に滞在し、住民と語り、...
「みんなで協力せんと、祭りは成り立たん」 盆踊りのにぎわいが消えた9月初め、6区区長の中城金次郎さん(67)が区民に呼び掛けた。6区(金、稲積)はことし、100年の伝統を持つ「舟曳(ひ)き祭り」の当番。盆踊りが過去の先祖を供養するのに...
島の人口が2倍に膨れ上がった。「盆つぼ」に、海を渡ってきた観光客2600人がひしめく。 「オラサー、オラサー」。白く塗った顔に赤いひげ、カラフルな唐傘、リズミカルな踊り。元気な掛け声とともに、子ギツネたちが登場した。盆つぼが大きな拍手...
漁師は潮のリズムで動く。10月8日午後5時すぎ、満ち始めの潮を狙って、大海(だいかい)忠敏さん(55)、一臣さん(30)親子の「忠宝丸」が出港した。車エビの流し網漁だ。 国東半島に沈む夕日を背に、東へと舵(かじ)を切る。僚船は28隻。...
10月1日、姫島のサザエ潜水漁が解禁日を迎えた。漁船34四隻が沖合の漁場にひしめく。大海(おおみ)地区の大海(だいかい)藤雄さん(55)の藤吉丸(4t)から、長男英勝さん(26)、二男吉喜さん(24)が潜水器具を付けて海に飛び込んだ。父親...
「仕事があるので、助かります。給料は半分ですけどね」 主婦たちはちょっと複雑な胸の内をのぞかせた。 姫島村役場そばの村高齢者生活福祉センター・姫寿苑。村は今春、4人の主婦を介護職員(契約職員)に採用した。不足の定員は2人だったが、...
「『おい』と言えばすぐにできる。いちいち書類なんか回さんでもいい。この島では医療と福祉、保健がドッキングしている」 姫島でただ一つの医療機関、姫島村国保診療所。名誉所長、松本孝さん(75)はこう切り出した。 診療所の隣は村営の福祉...
「役場に勤めて30年。こんな難題は初めてだ」 木野村敏雄さん(52)は町村合併を考えるたびに、悩みが深くなる。姫島村の総務課長になって10年。「村民のために」と働いてきただけに、「地方(ぢかた・対岸)に島の事情が分かってもらえるのか」...
「昔は一日に2、30万円も捕れた。今は何万か、何千円分の水揚げしかない」「こんままでは、島の暮らしがずっていかんごとなる」 姫島村の若手漁師4人から、こんな危機感が伝わってきた。「島の漁業はどうなるか」と聞いたときのことだ。 1世...
「刺し身がプリプリで新鮮。足を運んだかいがありました」。大分市の会社員(49)と家族の満足した笑顔が印象に残る。 10月27日の「姫島お魚祭り」には、県内外から1300人が詰め掛けた。朝まで生きていた車エビとタイの刺し身、煮さざえ、キ...
姫島を初めて訪れたのは、まだ、梅雨が明けない6月下旬だった。生まれて初めて乗るフェリーで、私は島に降り立った。道行く人が気軽にあいさつの声を掛けてくる。私のような訪問者を快く受け入れてくれる懐の深い土地柄、というのが最初の印象だった。 ...
10日付の紙面はこちら