大分合同新聞社とNHK大分放送局によるメディアミックスの年間企画。農業、教育、福祉、祭りなど住民の生活を共同取材し、大分県の発展を支えてきた中山間地を中心に地域再生の手がかりを探った。
※大分合同新聞 朝刊1面 2001(平成13)年4月7日~12月17日付掲載
「賛成」28票、「反対」7票。 投票の結果に、父母たちは考え込んだ。 「学校をなくさないように、頑張ろうと約束したやねーか」 「ここまで、子どもの人数が減れば、仕方ねえ。私だって、できれば学校を残してえ」 3月10日夜、...
宮砥小の統廃合は「よりよい教育をめざし、複式学級を解消する。小学校11校を5校に、中学校4校を2校にする」と、竹田市教委が進めている学校再編の一環だ。1997(平成9)年に策定した統廃合方針によると、宮砥小は近くの入田、嫗岳(うばだけ)の...
3月下旬、竹田市宮砥地区の滝部集落で、葉タバコの植え付けが始まった。安達智徳さん(48)方では、妻の由美子さん(44)、父親の博文さん(68)、母親のミエ子さん(68)、それに長男の一徳\さん(19)ら家族8人が畑に出た。智徳さんが植え付...
「よっこらしょ」 佐藤タカ子さん(76)が立ち上がった。午後6時すぎ、宮史郎(元ぴんからトリオ)の演歌が聞こえる。移動販売車がやって来た。山あいの集落はもう薄暗い。 「演歌を鳴らして、車が来るんよ。これが頼りじゃけん」 佐藤さ...
ヨモギもち、おはぎ、巻きずし、フキノトウのてんぷら、シカ刺し、シシなべ……。3月20日午後、竹田市宮砥地区の滝部公民館で、「お接待」が始まった。テーブルの上は、地区民が持ち寄ったごちそうでいっぱいだ。料理の材料は地元で取れたものばかり。「...
「夢は捨てやせん。もう少したつと、県外で暮らしている”団塊の世代”が定年を迎える。そうすれば、何人かは宮砥に帰ってくる。都会の若い人も農業への関心を高めている。後は、ここの良さを多くの人たちに知ってもらう努力をするだけじゃ」 竹田市宮...
「過疎・高齢化に悩む農山村。未来が見えない」 そんなイメージを抱いて竹田市宮砥(みやど)地区を訪れた、とNHK大分放送局の豊田研吾ディレクター(28)は書き出した。大分合同新聞社の記者と宮砥地区を共同取材し、特集番組「大分に生きる」第...
「次ちゃんショーの始まり、始まり」。人形を抱えて踊り出す。駅員にふんした駅構内放送の語りは、SLが走っていた時代を思い起こさせる。派手な女装で登場することもある。「1人芝居」の次ちゃんは今日も笑いを振りまく。取材中の私たちも、思わず爆笑を...
「収入がなければ暮らしていけない。中山間地の農林業について、もっと真剣に考えなければならない」 大分合同新聞の読者、NHK大分放送局の視聴者から寄せられた意見と感想を集約すると、こんな形になる。大分県の面積の70%を占める中山間地。私...
「さあやってみるか」 河野晋さん(62)が妻キヌエさん(64)に声を掛けた。5月28日朝、田植え機がゆっくりと動き出した。今年も、田染荘(たしぶのしょう)で田植えが始まった。 さまざまな曲線を描き、ふぞろいな水田。だ円、くの字、台...
河野晋さんは高校を卒業後、小崎の実家に残った。3人兄弟の三男だったが、長男が亡くなり、二男は家を出て就職した。晋さんが米作りを始めた当時の耕作面積は水田50aほど。「米だけじゃ、食っていけん」と大分、別府市で型枠工事の仕事に従事した。以来...
5月15日午前7時、河野晋さん(62)、河野政士さん(67)ら5人が小崎川のほとりに集まった。大事な田植えの準備の一つ「イゼせき」だ。川のイゼ=井堰(いせき)をせき止めて、取水路の掃除をする。小崎では、稲作に欠かせない作業である。 「...
夕日観音に立った。標高150m、小崎を取り囲む峰の中腹にある。眼下に蛇行する小崎川、不ぞろいの水田、集落の背後に続く里山が見える。1,300年前から続く国東の荒行「峰入り」で、修行僧が巡る霊場の一つだ。 「ここの景観は、人間と自然との...
「20年くらい前までは、見事な棚田やったんで。刈り取った稲を掛け干しすると、田の段々が際立って、そりゃあ美しかった」 高々と雑草が茂る棚田を指さして、西善弘さん(77)は寂しげに言った。 観光バスが絶えない仏教史跡・真木大堂に近い...
6月上旬、国宝・富貴寺へと細長く延びる蕗(ふき・豊後高田市田染)の谷は、黄金色の麦秋を迎えた。1台約1,000万円の大型コンバインが軽快に走り、小麦を刈り取る。 「1年目より収量が伸びた。少しでも収益を上げて、配当を増やそうと力が入る...
小崎の谷にホラ貝が鳴り響いた。かすりの着物の早乙女、Tシャツの若者や家族があぜに並んだ。6月10日、小崎の水田で御田植祭(おたうえさい)が始まった。「700年前の景観が残る荘園の里で田植えをしませんか」。こんな呼び掛けで集まった都市住民は...
「ここに農道を入れると、向こうの田んぼにトラクターが楽に行ける」「湿田は農機が動かなくなるから、排水を良くしてほしい」 28日、「生きている中世のムラ」とされる田染荘(たしぶのしょう)で、「田園空間整備事業」の現地調査が始まった。小崎...
「日本の原風景というか。この景観を何とか後世に残していかないと」 6月10日、田染荘の小崎地区(豊後高田市田染)であった御田植祭。「生きている中世のムラ」といわれる田園風景を眺め、中津市の男性(60)はこう話した。 「騒音がない。...
6月28日、大分市の上野ケ丘中学校3年5組で、ユニークな社会科の授業があった。担任の野田秀一教諭(35)がNHK大分放送局制作の特集番組「大分に生きる」のビデオと、大分合同新聞に連載の記事を教材に取り上げた。「田染荘の暮らしと農業」をテー...
どうしてかな、と思う。 山がある。川が流れる。田んぼが広がる。どこにでもある農村風景だ。 「どこがいいって言うわけじゃない。何度も足を運んでしまうのは、どうしてだろう」 8月19日、貸し切りバスを降りたサラリーマンがそう話した...
小田地区には「万年山そば」がある。玖珠町内のイベントに屋台を出し、1日600食(30万円)を完売する。小田の名物だ。 ノウハウを仕込んだのは「万年山そばバスハイク」の仕掛け人、福岡市早良区でそば店「多め勢」を営む田口俊英さん(56)。...
「あのときはたまがった」。小田生き活(い)き健康村実行委員会のメンバーが振り返った。 ダイコン畑を指さし、「これはチャンスだ」と、福岡市の宮木初雄さん(50)=企画会社経営=が話したのだ。「ここでダイコン収穫祭をやろうよ。きっと楽しい...
「掛け干し」が玖珠町小田地区の棚田を彩った。穴井輝春さん(54 )、幸子さん(51)夫婦=泊里=は今年も、70代の両親とともに稲刈りに追われた。「代々、受け継がれてきた稲の掛け干し。手間はかかるが、おいしい米ができる」 穴井さん方は...
今夜も時計の針が重なった。コップ酒を手に都市との交流で話が弾んだ。気が付くと、もう午前1時だ。 「このままの形でいいんやろうか」 「無理をせず、生きがいとして楽しめればいい」 「今はボランティアの状態。このままじゃ、長続きはせ...
わずか30平方mの畑の草刈りも、森田利七さん(49)=福岡県太宰府市=にとっては新鮮な喜びがある。 9月初旬の日曜日も、朝早くから畑に出た。首に手ぬぐいをかけ、麦わら帽子に軍手、長靴で草刈り機を操る。顔中にあふれる汗が心地いい。 ...
「大分県玖珠町『原農園』より、取れたての有機野菜を直送します」 玖珠町小田地区の兼業農家、原みち子さん(52)=下引治=は今年1月、インターネットのオークションサイトに宣伝文を掲載した。 インターネットで、自家製野菜の販売だ。トマ...
「起立、礼、着席」 玖珠町の玖珠中学校図書室で、特別授業が始まった。先生はNHK大分放送局の大本秀一ディレクター(28)だ。特集番組「大分に生きる・第3回町との出会いで村が変わる」を制作。番組のビデオを教材に、子どもたちの感想を聞き、...
「好きなところ、嫌いなところを4つずつ書いてください」 玖珠中学校図書室で行われた特別授業。教壇に立ったNHK大分放送局・大本秀一ディレクターの呼び掛けで、2年3組の29人が自分たちの「地域」を見詰め直した。 日々の生活を通して感...
400字詰め原稿用紙に、農村への希望が広がった。特別授業の終了後、玖珠中学校2年3組の生徒29人がつづった感想文だ。「大分に生きる」をテーマに、 NHK大分放送局の特集番組が描いた農村、大分合同新聞の連載が伝えた住民の暮らし。都市との交流...
みこしが闇(やみ)に浮かんだ。たいまつが夜を照らした。「えいさ、えいさ」。ふんどし1本に、白足袋の男衆の掛け声が響いた。原尻の滝のごう音が後に続いた。 11月24日、緒方町で「川越し祭り」があった。1年に1度、緒方平野の西端、原尻の滝...
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