古里・大分で安心して子どもを産み、健やかに育てていくには何が必要なのか。出産、養育、保育、医療……。地域が子育てを支え、子どもたちと歩むことができる社会の在り方を考えた。NHK大分放送局とのメディアミックスによる年間企画。
※大分合同新聞 夕刊1面 2010(平成22)年4月20日~2011(平成23)年2月4日掲載
子どもを産み、育てる――。未来をつくる根幹がいま、大きく揺らいでいる。 激務をこなす産科・小児科の医師。世帯の核家族化に伴って地域の子育て力は低下し、家庭で孤立する母親も目立つ。多様化するニーズに疲弊する保育の現場。結婚・出産に踏み切...
◆切迫早産700g 口からは人工呼吸と、ミルクを胃に流し込む管が挿入され、両方の手足には点滴などに必要なチューブが数本。皮膚はあまりに薄く、皮下が透けて赤黒く見える。傍らのモニターは片時も休むことなく、心拍数や血圧値の波を刻んでいる。 ...
◆閉鎖・休診の余波 大分県立病院総合周産期母子医療センター・新生児集中治療室(NICU)の電話が鳴った。県内の1次施設で肛門(こうもん)が閉じたままの赤ちゃんが生まれ、NICUへの搬送を求めていた。 すぐさま新生児科の医師2人が新生...
◆全幅の信頼を置く 「ほら、ここがお口。ごにょごにょ何か言っているようだね」 大分市の堀永産婦人科が毎週金曜日の午後に開いている助産師外来。エコー(超音波)画面に胎児の横顔が映った。6月に3人目の男児を出産予定の牧育美さん(34)=...
宮崎県南西部の都城市にある藤元早鈴(はやすず)病院。新生児集中治療室(NICU)を3床持つ地域周産期母子医療センター(2次施設)として、宮崎県西部と鹿児島、熊本両県の一部にまたがる地域一帯から、24時間態勢で緊急搬送を受け付けている。 ...
子どもを安心して産み、健やかに育てていくには何が必要なのか――。夕刊で連載を始めた年間企画「未来をはぐくむ」。朝刊では各シリーズ終了後に、大分大学の関係者にインタビューし、この問題を考える。「第1部・出産最前線」は、医学部産婦人科の楢原久...
例年より早く桜が満開を迎えた3月下旬のある日。時刻は午後10時を回っていた。大分こども病院(大分市片島)の待合室では、子どもを抱えた多くの親が順番を待っていた。看護師が重症かどうかを見極め、診察の優先順位を決める。当直の医師は息つく暇もな...
核家族化が進み、地域のつながりが薄れつつある現代。身近に頼れる存在がいない親は少なくない。「わが子が体調を崩せば夜中でも医者に診てもらいたい」。多くの親はそう思う。ただ、受け入れる医療機関では時間外に受診する患者数が日に日に増している。過...
「お口をアーンして」。竹田市立こども診療所の高野智幸医師(42)が、高熱を出して市内から来診した渡辺聡太ちゃん(4)に優しく呼び掛ける。怖がる聡太ちゃんののどに薬を綿棒で塗ると、「よーし、終わった」とほほ笑みかけた。 ◆21医療機関...
◆「耐えられぬ」辞意 救急病院に小児科医がいなくなる――。地域医療の危機に立ち上がったのは、子育て中の母親たちだった。 2007年4月。「これ以上の負担には耐えられない」。辞意を伝えた兵庫県立柏原(かいばら)病院小児科の和久祥三医師...
◆「安心感違う」笑顔 「赤ちゃんが生まれる前に、お母さんにぜひ知ってほしいことをお話しします」。4月下旬の休日、石和こどもクリニック(大分市羽屋)の診察室。石和俊医師(55)が、出産を間近に控えた主婦清時(きよとき)美里さん(32)に語...
子どもを安心して産み、健やかに育てていくには何が必要なのか―をテーマとした年間企画「未来をはぐくむ」。「第2部・揺らぐ小児医療」では、小児科医を養成し、県内の医療機関に派遣している大分大学医学部小児科の泉達郎教授(62)に、これからの小児...
午後5時。時計の針が勤務時間の終わりを伝えていた。今日は仕事がスムーズに進んだ。「何とか間に合いそうだな」。宇佐市内の会社に勤める男性(43)は慌ただしい空気の残る職場をそっと抜け出した。 市中心部にある「くまのみどう小児科」に車を走...
日が暮れた園庭のすべり台を保育室の明かりが照らしていた。室内には、大好きなアンパンマンの塗り絵に熱中する雄ちゃん(4)=仮名=の姿があった。 12色の色鉛筆でアニメそっくりに仕上げていく。「ほんとに上手ね」。保育士からほめられて、雄ち...
大分市大道町のしらかば保育園。午後10時までの夜間の延長保育で、親が夜遅くまで働かざるを得ない家庭の子育てを支えてきた。 延長保育、病児保育、休日保育……。認可、無認可を問わず、保育現場は多様化を続ける親のニーズを受け止めている。保育...
「お母さん、僕まだ帰らんよー」。園庭にある大きな砂山のてっぺんから、長男の佐中海斗君(4)が母親の一世さん(36)に呼び掛けた。お迎え時間の午後6時まで確かにあと30分はある。「今日も時間いっぱい、服が土だらけになるまで遊ばせてあげよう」...
保育制度の充実にかかわる行政課題は山積みだ。一方、保育士の目からは、現代の家庭が抱える育児の不安や悩みが垣間見える。 「おむつを卒業させたり、はしの持ち方を教えるといった“しつけ”を保育園に任せる親が増えてきた」。県中部の保育園で働く...
地域で安心して子を産み、育てるには何が必要か―をテーマにした年間企画「未来をはぐくむ」。「第3部・保育の現場から」では、大分大学教育福祉科学部の田中洋准教授(53)=幼児心理学=に、保育現場が抱える課題を聞いた。 ――大分県の保育...
「5分たちました。男性は次のテーブルへどうぞ」。進行役がマイクで“タイムアップ”を告げると、貸し切られた洋風レストランに一瞬、静けさが戻った。用意された18卓のそれぞれで、1対1に向かい合った男女が名残惜しそうに会釈を交わす。間もなくする...
「子どもは2人ほしいな」。付き合って1年半。同棲中の彼女(27)が、ふとつぶやいた。子育ての費用と自分の収入を頭の中ではかりに掛け、思わず口から出かかった言葉を飲み込んだ。「難しいかもな……」 大分市の会社員男性(26)は3年前から、...
結婚して、子どもを産む――。「女として、自分では当たり前のことだと思ってた」。この数年、不妊に悩んでいる県中部のある主婦は静かに胸の内を語った。 生理が少しでも遅れれば妊娠の期待に胸が躍り、生理が来るたびに「暗い穴に気持ちが落ちていっ...
「治療や排卵期にタイミングを合わせるストレスで、夫婦生活ができなくなった」「これ以上、治療で痛い思いはしたくない。本音は医師から夫に『もう無理だ』と言ってもらいたい」 大分大学付属病院(由布市)にある県不妊専門相談センター。相談者数は...
女性の生殖能力が低下し始めるのは何歳ぐらいからだと思いますか――。県が昨年度、成人女性を対象に行った「女性の健康に関するアンケート」(回答数479人)。不妊に対する関心、知識を問う設問の1つだ。 県健康対策課によると、妊娠のしやすさは...
年間企画「未来をはぐくむ」の第4部「晩婚化の周辺」では少子化問題の底流にある現代の結婚・出産事情を追った。初婚年齢、第1子出産年齢は上昇し、不妊患者も増えている。大分大学福祉科学研究センターの椋野美智子教授に晩婚化社会の「いま」を聞いた。...
ひざの上に、2歳の女の子がちょこんと座った。 「笑顔のかわいいお嬢さん。ご両親の愛情をいっぱい受けているんだね」。育児支援ボランティアの朝倉徳子さん(47)=保育士=が頭を優しくなでると、女の子はうれしそう。母親は横で照れ笑い。1回目...
「家で子どもと付きっきりの毎日。大人と話ができるだけでも気が紛れた」「育児の悩みが、自分の頭の中だけで膨らんでいくことが減った」―。 豊後大野市の子育て支援センター「やしの実ひろば」が取り組む家庭訪問型育児支援「ホームスタート」。支援...
子育ては必ずしも「楽しい」「かわいい」だけではない。親はみな、戸惑い、不安とストレスを抱える。誰も頼ることができず、子育てがつらいと苦しんでいる親もいる。 とりわけ、母親に子育ての負担が重くのし掛かる。葛藤(かっとう)、不満、寂しさ、...
豊後高田市の地域子育て支援拠点「つどいの広場・花っこルーム」。運営に当たるNPO法人「アンジュ・ママン」の子育て支援スタッフ、吉原女紀さん(36)が英語の絵本を取り出した。毎週木曜日の「英語であそぼ」の時間だ。 数組の親子が車座になっ...
「育児書に書いてあるより、ミルクを飲む量が少ない気がするんですが……」 子育て全般の相談に24時間体制で応じる、県こども・女性相談支援センターの「いつでも子育てほっとライン」。わが子の変化に戸惑い、不安を覚えた母親たちが次々に相談を寄...
年間企画「未来をはぐくむ」の第5部「母親に寄り添う」では、母親の孤立を防ぐ、子育て支援の現場を見つめた。現代における育児、子育て支援策の在り方などについて、大分大学の前田明理事(60)=発達社会心理学=に聞いた。 ――現代の育児の...
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