採用人数を、事業成長の指標に変える。人事目線の「事業成長×採用」

~ 組織再考ラボ フェロー 曽和 利光 × 髙倉 千春 × 永島 寛之 ~



採用は、候補者だけでなく投資家からも見られる時代に入りました。いまや採用は「経営の通信簿」です。


しかし、採用の現場が長く力を注いできたのは「いい人をどう採るか」「何人採ったか」でした。経営会議で「今期は過去最多の採用数です」と報告したところ、「で、それは事業にどうつながるのか」と問い返され、言葉に詰まる──そんな場面も、いまは珍しくありません。採用のために積み上げてきたことを、経営や投資家に伝わる言葉で語れない。それが、多くの現場が抱える戸惑いです。


これからの人事に求められるのは、採用を結果の報告で終わらせず、事業戦略と結びつけて語ること。つまり、採用を経営のIR(投資家向け広報)として捉え直すことです。

では、採用を事業戦略と結びつけて語るには、どうすればいいのでしょうか。その道筋を、組織再考ラボ編集部が、フェロー3名への取材をもとにたどります。



●「何人採ったか」より「事業をどう伸ばすか」の視点を

経営会議で投げかけられる「それは事業にどうつながるのか」という問い。その源にあるのは、投資家の視線です。「株価の動向は、現在価値ではなく将来価値を反映します」と、複数の上場企業で社外取締役を務める髙倉千春氏は語ります。投資家の関心は、いま何人採用したかではなく、この会社がこれから継続的に伸びるかどうか。その一点に集約されます。これが、人的資本経営が動的人材マネジメント、つまり将来の事業ポートフォリオと人材ポートフォリオの連動を求めてきたポイントです。


この問いに、決算説明会や統合報告書で答えるのは経営層の役割ですが、その言葉に実体を与えているのは現場です。経営が「この事業を、こういう人材で伸ばす」と投資家に語っても、その人材を実際に見極め、採り、組織に組み込んでいくのは、採用の現場にほかなりません。経営の説明は、現場の採用が伴って初めて、絵空事ではなくなります。


高倉&Company合同会社 共同代表、Thinkings 組織再考ラボ フェロー 髙倉 千春氏



だからこそ、語るべきは「新卒を300人採用した」という結果の数字ではありません。その採用が事業の成長にどうつながるのかという道筋です。採用人数や採用人気ランキングは、その裏にある戦略を読み手が推し量る材料にはなっても、戦略そのものを語ってはいません。求められているのは、経営・事業戦略から逆算した人材戦略のストーリーです。


ニトリで新卒採用の責任者を務め、同社を就職人気ランキングの上位へと押し上げた永島寛之氏。いまは中央大学で、退職者の価値やアルムナイを研究している同氏は、これを「価値創造ストーリー」と呼びます。「5年後、10年後にどんな人材が必要で、いま何が足りないのか。それを育成で補うのか、採用で補うのか。その工夫まで語って初めて、投資家はこの会社は伸びると実感する」と強調します。


では、その価値創造ストーリーは、具体的に何を語ることなのでしょうか。



●「各部署が欲しい人数」を足しても、事業は語れない

各部署に「来期は何人ほしいか」を聞き、その数字を足し上げて採用目標を決める。多くの会社で、採用計画はこうしてできあがります。しかし、そうしてできた数字は現場の足元の需要を映したものであって、事業の成長から逆算したものではありません。これでは、価値創造ストーリー、事業の成長と結びついた人材戦略は語れないのです。


語れる採用計画をつくる出発点が、人材ポートフォリオです。


事業が必要とする人材の構成を、事業の成長から逆算して描く。現場からの積み上げではなく、事業からの逆算へ。順序を反転させるわけです。


そのプロセスは、大きく三つの段階に分けられます。


  • 事業が求める理想の人材構成と現状を、職種や年齢といった属性に加え、能力・性格・価値観まで含めた同じものさしで並べ、ギャップを把握する
  • そのギャップを埋める人材の流れ(採用・配置・育成・新陳代謝)を設計する
  • その計画が、採用や育成の打ち手まで落とし込んで本当に実現できるのかを検証する


2万人を超える面接経験を持ち、採用を勘と経験からデータに変える方法論を説く曽和利光氏は、各段階の勘所をこう説明します。


「まず、事業が求める理想の人材ポートフォリオと現状を、同じフレームで並べてギャップを見ます。このとき、職種別や年齢別といった属性だけでなく、能力・性格・価値観まで見ることが大事です。実際に人が働くときに効いてくるのはそこなのに、見えやすい属性ばかり追ってしまう。次に、そのギャップを埋める人材フロー戦略を描く。多く採って流動させるのか、厳選して育てきるのか、型は何でもいい。方針に一貫性があることが大事です。そして最後に、その計画が本当に実現できるかを検証する。『来年は倍採用する』『離職率を半分にする』と言うのは簡単ですが、それを支える採用・育成・評価・報酬・配置の方針までかみ合って、初めて機能します」


株式会社人材研究所 代表取締役社長、Thinkings 組織再考ラボ フェロー 曽和 利光氏



たとえば「採用数を倍にする」という計画なら、その人数を集められる母集団やチャネルがあるか、選考や受け入れにかけられる工数は足りるか、入社後の育成は回るか。そこまで具体的に詰めて、机上の数字が現実に動くかどうかを確かめるわけです。


そう考えると、追うべき指標も変わります。本物のIRに業績のKPIがあるように、採用にも事業に接続した指標を持つ。採用人数そのものではなく、人材ポートフォリオの充足率や、中核人材の定着率。こうした指標こそが、数字に意味を与えます。


理想と現状のギャップを、人の流れで埋め、それが事業の成果につながるところまで描き切る。ここまでをひと続きで語れて初めて、人材ポートフォリオは価値創造ストーリーの背骨になります。



●「間を取り持つ人事」が、ボトルネックになる

経営の意向を現場にかみ砕いて伝え、現場の要望を吸い上げて経営に返す。その「調整役」を自分の仕事だと考えている人事は、少なくありません。これまでは、それで十分に価値がありました。


しかし、人材ポートフォリオを描いて事業の成長を語るとなると、話は変わります。間に立って取り次ぐだけの立場では、事業戦略の意図も、現場の実態も、自分の言葉で語れないからです。経営と現場はまっすぐつながりたいのに、間に立つ人事が、かえって流れを滞らせてしまう。永島氏は、これを「人事のボトルネック化」と呼びます。


トイトイ合同会社 代表、Thinkings 組織再考ラボ フェロー 永島 寛之氏



それは決して大げさな話ではありません。曽和氏は人材ポートフォリオの運用がうまくいかない会社の典型として、リストラを挙げます。明日の仕事に最適化した人材ばかりを採れば、数年後には合わなくなり、結局、人材の入れ替えに追われる。曽和氏は「リストラは、動的な人材ポートフォリオの運用に失敗した結果が、表に出てきたもの」だと指摘します。


米国のフィンテック企業Boltは、評価額が9割以上も下落するなか、人事部門を丸ごと廃止しました。CEOのライアン・ブレスロー氏は、人事が「存在しない問題を作り出していた」と語っています。人事が事業の成長に接続できていないと、最悪の場合、その機能自体が問われてしまうのです(参考:2026.5.19掲載『FORTUNE』の記事)。


だからこそ、人事に求められるのは経営と現場の間に立って取り次ぐ「潤滑油」ではなく、両方に踏み込む「当事者」になることです。事業戦略と現場の実態の両方を自分ごととして理解していなければ、前述した価値創造ストーリーは描けません。


間をつなぐだけの立場では、経営の意図も現場の事情も人事自身の言葉では語れない。「どちらか一方ではなく、経営と現場の両方に参画していくことが必要」と永島氏はいいます。現場から上がってくる必要人数を待つのではなく、事業計画が固まる前の段階から人材の観点で声を上げることが求められています。


こうした視点は、AIの時代にいっそう重要になります。定型的な仕事をAIが引き受けるほど、採用で問われるのは「新しい価値を生む人を迎えられるか」になるからです。

髙倉氏はこう言います。「これからは、会社が用意した枠に人をはめる採用ではありません。決められた仕事をこなす人ではなく、自分から『こういう役割をつくれば、こんな価値を出せます』と、新しい枠ごと持ち込んでくる人。そうした人を見極めて迎えられるかどうかが、これからの採用を分けると思います」。そして、その見極めをしっかりできる人事こそ、社内でもっとも頼りにされる存在となるでしょう。



●給与だけでなく、「成長・意味・つながり」も語る採用を

内定を出し、入社してもらえれば、採用担当の仕事はひとまず完了する。辞めた人は、もう関係のない人になる。多くの現場で、採用はそう区切られています。けれど、採用をIRの視点で捉え直すと、この線引きそのものが、大きな機会を逃しているように見えてきます。


永島氏は、HRという言葉の問い直しを挙げます。「HRはHuman Resources(人的資源)の略ですが、Human Relations(人間関係)と定義し直したい」。個人の自律が当たり前になったいま、企業と個人はフラットな関係であり、採用とは、その関係を築く最初のプロセスだからです。


人を「資源」ではなく「関係を結ぶ相手」として見る。そう捉えると、会社と人の関係は、候補者として出会う前から、入社後、そして退職した後まで続いていきます。その関係を支えているのは、給与や賞与だけではありません。


永島氏は、お金以外の報酬を三つ挙げます。成長できる環境という「成長の報酬」、仕事の意義という「意味の報酬」、そして人とのつながりという「関係の報酬」です。なかでも「関係の報酬」は、AIには渡せない人ならではの価値です。


こうした報酬で結ばれた関係は、退職を境に切れるものではありません。辞めた人たちは、社内でも、まったくの外部でもない「中間労働市場」──第三の人材プール──として、会社とつながり続けます。良い別れができていれば、退職者は業務委託や顧客紹介でかかわり、アルムナイ採用やリファラルの土台にもなります。


こうした人材戦略を、事業と結びつけて言葉にするのは人事の役割です。そしてその言葉は、二つの相手に届きます。


一つは、経営者を通じて投資家へ。「この会社は人を通じてどう成長していくのか」という、投資家が知りたい説明になります。もう一つは、候補者へ。「この会社で働くと何が得られるのか」という、入社を考える人に響くメッセージです。同じ言葉が、投資家にも候補者にも効く。


採用の成果を伝える言葉を、結果報告で終わらずに、事業の成長を語るものへと変えていく。


これは、投資家に向き合う経営者にとっても、採用を動かす人事にとっても、意識する価値のある転換です。そして、会社が人をどう生かし、どう伸ばそうとしているのかが語られることは、その会社を選ぶ候補者にとっても、よい知らせになります。採用をIRにすることは、巡り巡って、採用そのものを強くしていくと考えられるのではないでしょうか。


そのとき採用は、人事だけの仕事ではなくなり、会社の成長を牽引しはじめます。




「組織再考ラボ」とは 

「企業における組織づくりのあり方について再考し、経営層や人事部門の皆さまに対して有益な情報発信を行う」をミッションに掲げ活動しています。 



https://thinkings.co.jp/re-thinking-org_lab/ 





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