開発コミュニティに、なぜクラフトビールづくりが必要だったのか。佐渡で、初対面の私たちが「一人じゃない」チームになるまで
「次は、自分たちでビールをつくってみたい」
始まりは、何気ない一言です。
前年のスクラムフェス新潟では、参加者向けのノベルティとして、佐渡のクラフトビールを用意しました。
それが好評だったことから、「今年もビールを用意したい」という話になり、やがて誰かが口にしました。
「せっかくなら、自分たちでつくってみるのはどうだろう」
最初は、半分冗談のようなアイデアでした。
しかし、「やってみたい」「佐渡に行きたい」と次々に声が上がり、話は少しずつ現実になっていきました。
こうして私たちは、オリジナルのクラフトビールをつくるため、佐渡島へ向かうことになりました。
けれど、この旅で生まれたものは、ビールだけではありませんでした。
普段は異なる会社や職種で働き、中にはほぼ初対面だった人もいる実行委員たちが、佐渡で同じ時間を過ごしました。
つくり、食べ、飲み、語り合う中で、お互いの人柄を知り、遠慮なく意見を交わし、自然に助け合えるチームへと変わっていったのです。

私たちは、新潟でアジャイル開発やソフトウェア開発に関わる人たちが集まるコミュニティイベント「スクラムフェス新潟」の実行委員です。2026年5月8日、9日の2日間、新潟市の朱鷺メッセで「スクラムフェス新潟2026」を開催しました。プロポーザルと呼ばれる公募セッションには、過去最多となる77件の応募が集まりました。現地とオンラインを合わせた参加者は総勢241名、協賛スポンサーは23社。これまでで最も大きな規模での開催となりました。
全国から200名のエンジニアが朱鷺メッセに集結!新潟最大級のアジャイルコミュニティの祭典「スクラムフェス新潟2026」開催決定!
PR TIMES
×しかし、スクラムフェス新潟は、単なるIT技術の勉強会ではありません。
新潟というローカルの地で、一人ひとりが「自分たちのやりたいことを全力でやる」。その熱量が周囲へと広がり、参加者、登壇者、スポンサー、実行委員が一緒になってつくる「共創の場」です。
その姿を象徴する出来事の一つが、実行委員たちによる佐渡でのクラフトビールづくりでした。
佐渡でのビールづくりは、まさにその姿を象徴する出来事でした。
成功だけでなく、うまくいかなかったことも共有する
スクラムフェス新潟が大切にしているのは、成功した経験だけを共有することではありません。
現場では、思いどおりに進まないことや、予想していなかった問題も起こります。過去の開催でも、運営上の課題が生じたことがありました。
そのとき、私たちは問題を曖昧なまま終わらせるのではなく、何が起きたのかを話し合い、どのように対応したのかを外へ向けて公開しました。
失敗や課題を隠すのではなく、そこから何を学び、次にどう生かすのかを考える。
完璧だから信頼されるのではありません。問題が起きたときにきちんと向き合い、改善していく過程まで開いて共有する。
そうした姿勢があるからこそ、新しく加わった人も、失敗を必要以上に恐れず、自分の考えを話したり、新しいことに挑戦したりできます。
この文化は、佐渡でのビールづくりにもつながっていました。
「せっかくなら、自分たちでつくってみたい」
一人の何気ないアイデアを否定せず、まずは面白がってみる。やってみたい人が手を挙げ、分からないことは周囲に聞きながら、少しずつ形にしていく。
佐渡での合宿は、スクラムフェス新潟が大切にしてきた文化を、実行委員自身が体験する機会にもなりました。
ノベルティだったビールを、自分たちの手で
スクラムフェス新潟は、アジャイル開発やソフトウェア開発に関わる人たちが、立場や所属を越えて知識や経験を共有するコミュニティイベントです。
前年に用意した佐渡のクラフトビールには、スクラムをはじめ、ITや開発の現場で使われる言葉が名付けられていました。
クラフトビールとIT。
一見すると離れているように見える二つの文化が、そこでは自然につながっていました。
そのビールを、今度は自分たちの手でつくる。
醸造所を訪れ、実際の工程を体験し、自分たちが関わったビールをイベントで提供する。
アイデアが生まれたとき、メンバーの反応は早いものでした。
「みんなが行くなら、私も行きたい」
「みんなが行かなくても、私は行きたい」
参加者が次々に決まり、総勢8名、佐渡でのビールづくり合宿が動き始めました。
カンファレンスの運営は、決してきれいごとだけでは進みません。
仕事や家庭の予定を調整しながら準備を進め、さらに佐渡まで足を運んでビールを仕込む。
効率だけを考えれば、もっと簡単な方法もあったはずです。
それでも、「自分たちが面白いと思うことを、本気でやりたい」と考える仲間が集まりました。
この行動は、ある意味では「職人の意地」と呼べるものだったのかもしれません。

甘い香りから、少しずつビールになっていく
佐渡での醸造体験は、完成したビールしか知らなかったメンバーにとって、驚きの連続でした。
作業中に広がったのは、焼きたてのパンを思わせる香り。
途中の麦汁を口にすると、普段飲んでいるビールとは異なり、甘酒のような甘みがありました。
「ビールって、最初はこんなに甘いんだ」
思わず声が上がります。
その甘みが発酵によってアルコールへと変化し、少しずつ苦味を持つビールになっていく。
普段何気なく飲んでいる一杯が、どのような工程でつくられているのか。自分たちの手を動かしながら、その変化を体験しました。
大きな容器の中を混ぜ、材料を加え、交代しながら作業を進める。
その近くではバーベキューの準備も始まり、醸造所で購入したクラフトビールを片手に、皆で食事を楽しみました。
つくって、食べて、飲んで、笑う。醸造体験そのものはもちろん、その場で交わした何気ない会話が、メンバーの距離を少しずつ縮めていきました。
旅館で過ごした夜に、肩書の外側が見えた
メンバーの距離を縮めたのは、ビールづくりだけではありません。
宿泊したのは、それぞれが個室に戻るホテルではなく、皆で時間を共有できる旅館でした。
相部屋で過ごし、一緒に食事をし、風呂に入り、お酒を飲む。
廊下には、誰かが持ち込んだお酒が自然と置かれ、飲みたい人が自由に手に取っていました。
夜には、いつの間にか即席のLT大会も始まりました。
LTとは「Lightning Talk」の略で、短い時間で自分の知識や経験を共有する発表です。
仕事で得た学びや、それぞれが詳しい分野について話していくうちに、普段のオンラインミーティングや会議だけでは分からない一面が、次々と見えてきました。
旅程を細かく整え、全員を案内する人。
初対面の人にも自然に声をかける人。
場を盛り上げ続ける人。
静かに周囲を見ながら、必要なところに手を差し伸べる人。
専門知識を惜しみなく共有する人。
肩書や会社名ではなく、一人ひとりの人柄が見える時間でした。
佐渡の風景が、日常から離れる余白をつくった
佐渡での時間を特別なものにしたのは、参加したメンバーだけではありません。
船に乗って島へ渡るという行程そのものが、日常から気持ちを切り替えるきっかけになりました。
「少し海外へ行くような感覚だった」
そうふりかえるメンバーもいます。
雨が降っている方向と、晴れている方向を同時に見ることができる空。
窓の外に広がる海。
船が狭い場所で方向を変える様子を、皆で眺めた時間。
観光地を巡ったことだけではなく、佐渡で見た風景や、そこで交わした会話の一つひとつが、メンバーの記憶に残りました。
「一人じゃないな」と思えた
旅の後、あるメンバーが、当時の日報を見返しました。
そこには、宿の部屋から見えた海と空の美しさや、窓から長い間景色を眺めていたことが書かれていました。
さらに、「最後の走馬灯に出てくるかもしれない」と思うほど楽しかった、という言葉も残されていました。
合宿の何が、そこまで心に残ったのでしょうか。
あらためて尋ねると、本人はこう答えました。
「一人じゃないな、と思いました」
新しい環境の中で、自分がどのように動けばいいのかを考えていた。
まずは周囲の話を聞かなければならないと思っていた。
けれど、佐渡で同じ時間を過ごし、自分の話を受け止めてくれる人がいることに気づきました。
困ったときに助けてくれる人がいる。
自分もまた、誰かのために動くことができる。
その実感が、本人とコミュニティの間にあった、目に見えない壁を取り除いていきました。

佐渡から帰ると、自分の考えを話せるようになった
合宿後、そのメンバーの様子は、周囲から見ても変わりました。
以前よりも、自分の考えを相談という形で伝えるようになったのです。
「これをやってみたいのですが、どう思いますか」
一方的に意見を押し出すのではなく、相手の考えを聞きながら、一緒に進めていく姿勢を大切にしていました。
イベントで使うフォトプロップスをはじめ、スタッフTシャツ、ビールラベルのデザインやプロフィール帳など、さまざまなアイデアが次々と生まれました。
スクラムフェス新潟のふりかえりでも、次回に向けた改善案を伝えました。別のイベントでは、企画を次々と形にし、周囲が驚くほどの行動力を見せました。
その変化について、本人にとって「佐渡に行ったことが、自分の中では大きかった」と、こうした変化のきっかけになったのが、佐渡で過ごした時間でした。
一度顔を合わせ、同じ時間を過ごしたことで相手との距離が縮まり、自分の考えを以前よりも伝えやすくなったのです。
「こうしたい」と伝えても、受け止めてもらえると思えた。
合宿は、単に親睦を深める場ではありませんでした。
その人がもともと持っていた力を、安心して発揮できるようになるきっかけになっていたのです。
合宿で生まれた関係性が、本番を支えた
佐渡合宿の後には、スクラムフェス新潟の本番が控えていました。
運営当日は、予定外の出来事も起こります。
限られた時間の中で判断し、自分の役割を越えて動かなければならない場面もあります。
そのとき、事前に一緒の時間を過ごしていたことが、大きな支えになりました。
分からないことがあれば、すぐに聞く。
困っている人がいれば、自然に声をかける。
誰かの指示を待つのではなく、自分ができることを考えて動く。
合宿前にはあったかもしれない遠慮が、本番ではほとんど感じられませんでした。
「当日が初対面だったら、インカムで話すことも難しかったかもしれない」
そんな言葉も出ました。
たとえ話すことに緊張していたとしても、相手の人柄を知っているだけで、声のかけやすさは変わります。
短い合宿で生まれた関係性が、イベント運営の現場を支えていました。
一体感がありながら、一人ひとりが自分で考える
スクラムフェス新潟の運営について、参加したメンバーの一人は、こう表現しました。
一体感がある。
しかし、全員が同じ動きをしているわけではない。
一人ひとりが自分の得意分野を生かし、その場で何が必要かを考え、最善だと思う行動を取っている。
誰か一人がすべてを指示するのではなく、それぞれが自律的に動きながら、全体として同じ方向を向いている。
初めてスタッフとして参加した人もいました。
初めて登壇した人もいました。
普段とは異なる役割を担った人もいました。
それでも、メンバーは自分にできることを考え、それぞれの場所で力を発揮しました。
その土台にあったのが、佐渡で一緒につくり、食べ、飲み、笑った時間でした。
「自分はこの場にどう貢献できるのか」を考える
実行委員の間に共通していたのは、「自分はこの場にどう貢献できるだろう」という意識でした。
ITエンジニア、品質保証、事業推進、コーポレート部門など、職種や専門性はさまざまです。
IT業界の専門用語に慣れていない状態で参加した人もいました。
それでも、全員が同じ職種である必要はありません。
- この場を楽しみたい。
- 何かを学び、持ち帰りたい。
- 自分が持っている知識を共有したい。
- イベントを少しでも良くしたい。
専門知識が同じだからつながるのではなく、学びや経験を共有しようとする姿勢によって、人がつながっていく。
佐渡での合宿は、その関係性を育てる時間になりました。
そして、そこで生まれた信頼が、一人ひとりの「やってみたい」を、実際の行動へと変えていきました。
「また来年」が楽しみになる
佐渡合宿をふりかえる会話の中では、何度も「また行きたい」という言葉が出ました。
次は米づくりができないだろうか。
稲刈りを体験してみたい。
日本酒づくりにも挑戦してみたい。
佐渡で小さなイベントを開催するのも面白いかもしれない。
話は次々に広がっていきます。
しかし、皆がもう一度味わいたいのは、特定の体験だけではないのかもしれません。
船に乗った瞬間から始まる非日常。
同じものをつくりながら交わす会話。
知らなかった仲間の一面を見つける時間。
自分もこのチームの一員なのだと感じられる瞬間。
参加者の一人は、こう話しました。
「大人になってから、こんなに来年が楽しみだと思えることは、あまりなかった気がします」
佐渡でつくったのは、一本のクラフトビールでした。
けれど、その過程で本当に醸成されたものは、メンバー同士の信頼と、一人ひとりが自分らしく挑戦できる関係だったのかもしれません。
一人ではできないことも、仲間がいれば挑戦できる。
自分のアイデアを話せば、受け止めてくれる人がいる。
「一人じゃない」
そう思えるチームがあるから、次の挑戦が楽しみになる。
佐渡で育まれた関係性は、スクラムフェス新潟2026の熱狂を支えました。
そして、そこで生まれた次の「やってみたい」が、また新しい物語を動かしていきます。
旅館 尖閣荘(せんかくそう)
https://senkakusou.com/
トキブルワリー
佐渡島にクラフトビール醸造所を設立
PR TIMES
×スクラムフェス新潟
https://www.scrumfestniigata.org/
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