モビリティ産業のDXを支える―お客様の課題をひもとき、社内の力をつなぐ若手営業
「営業というと、どうしても物を売るイメージが先に来ると思います。でもわたしは、お客様と一緒に経営を考えられる営業でありたいんです」
そう語るのは、株式会社ブロードリーフで法人営業を担当する猪俣柚子香だ。
2023年に新卒で入社し、現在4年目。東京都と神奈川県西部を中心に、整備工場や鈑金工場、車販店、部品商など、モビリティ産業のお客様を担当している。
深刻な人手不足、電子化への対応要請の高まり、法制度の変更など、モビリティ産業のお客様が直面している経営課題は複雑さを増している。猪俣のもとには、システムの操作だけでなく、業務の進め方に関する相談も寄せられる。
同じ整備工場でも、事業規模や従業員数、業務の進め方、使用するシステムは異なる。お客様ごとに異なる課題に、営業はどのように向き合うのか。
猪俣の経験を通して、モビリティ産業のDXを支える営業のあり方を考える。

駐車場であふれた涙――「私、何もできないんです」
猪俣が入社した頃は、コロナ禍とモビリティ産業を取り巻く環境の変化が重なり、営業所全体が慌ただしく動いていた。先輩たちは多くの案件を抱え、目の前の仕事に追われていた。
一方、入社したばかりの猪俣には、モビリティ産業に関する知識も、システムを扱った経験もなかった。
「何かしたいけれど、何もできないという状態が、半年から1年弱くらい続きました。周りがすごく忙しいことも分かっていたので、その時期はしんどかったですね」
ある日、教育担当の先輩と一緒にいたとき、それまで張り詰めていたものが切れた。
大きな失敗をしたわけではない。駐車場で先輩の顔を見た瞬間、涙があふれた。
「私、何もできないんです」
先輩は「大丈夫、できているよ」と声をかけ続けてくれた。それでも当時の猪俣には、自分が周囲の役に立てているとは思えなかった。
だからこそ、自分で対応できることを一つずつ増やそうと決めた。
分からないことは先輩に聞き、システムの機能だけでなく、お客様の業務についても学んだ。ときには、お客様から仕事の進め方を教えていただき、まずは自分なりに考えて行動した。
その積み重ねで、自分で判断できる範囲が少しずつ広がった。
以前は厳しいご意見をいただくと、その背景にある困りごとやご要望を整理できず、一人では対応できないことも多かった。現在は、お客様が何に困り、何を求めているのかを整理し、必要な対応への道筋を落ち着いて考えられるようになった。
「知識も増えましたし、お客様のことも以前より深く知るようになりました。何か起きても、ある程度は自分で対応の道筋を考えられるようになったことが、一番成長したところだと思います」
お客様の言葉をそのまま受け取るのではなく、背景にある業務や経営上の課題まで考える。その姿勢を、猪俣は経験のなかで身に付けていった。
対話を重ね、課題をひもとく
猪俣の営業を支えたのは、一人ひとりの得意分野を生かし、難しいことは周囲に相談する営業所の風土だった。
「『失敗したときが一番の学びだから』と言ってもらえる環境は、本当にありがたいです。自由に挑戦させてもらっていると思います」
その環境のなかで、猪俣は、お客様との対話を軸に提案を組み立てるようになった。
整備工場や鈑金工場の業務は、外から見ただけでは分からないことも多い。
同じ作業でも、会社や担当者によって進め方は異なる。紙やFAXを中心に運用する業務もあれば、複数のシステムを使い分ける場合もある。長く続けてきた方法には、それぞれの理由がある。
猪俣は、答えを決めて持ち込むのではなく、まず、お客様の業務を教えていただく。
どのような手順で進めているのか。どこに時間や手間がかかるのか。なぜ現在の運用になっているのか。質問を重ねながら、課題の背景を確認する。
課題の認識をお客様とそろえてから、提案に進む。それが、猪俣の営業の出発点だ。
DXは、無理なく踏み出せる一歩から
入社4年目を迎え、猪俣は、お客様から寄せられる相談の内容が変わってきたと感じている。
以前は、「システムが動かない」「パソコンの調子が悪い」といった、日々の業務で生じた困りごとに関する相談が中心だった。
最近では、「業務をDXしたい」「これから業務をどのように変えていけばよいか」といった、経営や業務の進め方に関わる相談が増えている。
「いろいろな変化があるなかで、お客様も会社として変わらなければならないと感じています。そういうときに、『まずはブロードリーフに相談してみよう』と思っていただけることが、本当にうれしいです」
猪俣が接するお客様のなかには、DXという言葉から、大規模なシステム導入や、すべての業務を一度に変えることを想像し、不安を感じる方もいる。
そこで猪俣は、お客様が実行できる範囲から始めることを大切にしている。
FAXでやり取りしていた情報をメールに置き換える。紙で管理していた資料を電子データにする。同じ内容を複数回入力している作業があれば、その手順を見直す。
「一度に全部変えようとすると、負担も大きくなってしまいます。だから、お客様が無理なく進められるペースを一緒に考えながら、少しずつ前へ進めていくことを大切にしています」
猪俣が重視するのは、デジタル化そのものではなく、新しい運用が定着し、目的とする業務改善につながることだ。そのため、システムの機能を説明する前に、現在の業務と、お客様が目指す状態を確認する。
どの業務から見直すのか。導入後、どのような状態になれば目的を達成したといえるのか。
「わたしたちが考えているゴールと、お客様が考えているゴールが違うと、システムが稼働した後に困ってしまうことがあります。最終的にどこを目指すのか、同じイメージを持つことを一番大切にしています」
システムを導入することを目的にせず、何を実現するための導入なのかを共有する。
そこから、お客様が実行できる手順を一緒に組み立てていく。

2024年度のルーキーセールス賞(新卒入社3年目までの社員を対象とした賞)を受賞。
2025年度も同賞にノミネートされた。(写真左:当社代表取締役社長 大山堅司)
社内の力を束ね、お客様へ届ける
猪俣の視野を広げたのは、それまでより規模の大きい企業のシステム切り替えで、中心的な役割を担った経験だった。
それまで担当してきた比較的小規模なお客様では、経営者やシステム担当者と直接話しながら、意思決定や導入準備を進められることも多かった。
一方、従業員数や拠点数が増えると、部署や立場によって業務の進め方や課題が異なる。
経営層が重視する業務効率と、システムを利用する方が求める使いやすさが、必ずしも一致するとは限らない。現在の業務をどこまで変更するのかについても、立場によって受け止め方が異なる。
既存の業務を整理し、新しいシステムと運用へどうつなぐのか。複数の関係者の意見を聞きながら、切り替えの手順を組み立てる必要があった。
「それまでとは勝手がまったく違っていて、別の会社に入ったのかと思うくらい、仕事の内容が変わりました」
一人で完結できる仕事ではなかった。
サポート部門や開発部門、コンタクトセンター、他の営業所のメンバーなど、多くの人と情報を共有し、それぞれの専門性を借りながら進めていった。
猪俣には、お客様の要望と、その背景にある業務上の課題を理解し、社内へ正確に伝えることが求められた。
自分で対応することと専門部門に依頼することを切り分け、システムで実現できる範囲を整理したうえで、社内の回答をお客様が判断できる形で伝える。
誰に何を確認し、どの情報をつなぐのかを判断することも、猪俣が担った役割だった。
「いろいろな部署の方とコミュニケーションを取りながら進めるのは本当に大変でした。でも、その分、一人ではできない仕事を、みんなで形にしていく面白さも知ることができました」
システム稼働後には、経営層とシステムを利用する方とで、新しい運用への受け止め方が異なる場面もあった。
猪俣は、それぞれの意見を整理して社内の関係部門と共有し、必要な対応を検討した。
この経験を通じて、猪俣は、お客様の課題を理解し、社内の知識や技術を組み合わせて提案を整えることも、営業の役割だと実感した。
入社当初は、一人でできることを増やしたいと考えていた。経験を重ねた今は、一人で抱え込まず、必要な相手に協力を求めることも大切だと考えている。
「以前は助けてもらうばかりでした。でも今は、別の場面でわたしが誰かの力になれることも増えています。前よりも、安心して周りにお願いできるようになりました」
猪俣は、一人で対応できる範囲を広げることと、必要なときに周囲の力を借りることの両方を大切にしている。
「猪俣さんに相談したい」と思ってもらうために
猪俣が営業として目指しているのは、お客様が経営や業務に関する困りごとに直面したとき、相談相手として思い浮かべてもらえる存在だ。
「システムのことに限らず、経営や業務について悩んだときに、『まずは猪俣さんに相談してみよう』と思っていただけたら、本当にうれしいです」
相談の入り口を、システムや商品に関する話だけに限定しない。
お客様が何に困り、どの業務に時間や手間がかかっているのか。これからどのような会社を目指すのか。話を聞きながら、必要な選択肢を一緒に考える。
「営業だから売らなきゃ、というよりも、お客様にとって何が一番よいのかを考えています。その結果として、『相談してよかった』と思っていただけることが一番うれしいです」
猪俣にとって、契約やシステムの導入は、お客様との関係の終わりではない。
新しい運用を続けられているかを確認し、別の困りごとが生じれば、改めて状況を聞く。法制度や経営環境が変われば、必要な仕組みも変わっていくからだ。
相談に継続して応えることで、「ブロードリーフに相談したい」に加え、「猪俣さんに相談したい」と思っていただける関係を築いていく。
お客様と社内をつなぎ、実行できる一歩を考える
これから先、どのような営業になりたいのか。そう問い掛けると、猪俣は少し考えてから答えた。
「お客様と一緒に経営を考えられる営業でありたいです」
この言葉は、猪俣が日々実践している営業の進め方を表している。
お客様の業務と目指す状態を理解し、必要に応じて社内の専門部門につなぎながら、その会社が実行できる一歩を考える。
入社当初、自分にできることがないともどかしさを感じていた猪俣は、知識と経験を重ね、今ではお客様と社内の力をつなぎ、その会社に合った一歩をともに考えている。
それが、猪俣がブロードリーフの法人営業として実践するDX支援だ。

当社代表取締役社長 大山堅司と猪俣。
(写真は2025年度 ブロードリーフグループ 経営方針発表会にて撮影)
編集後記
取材のなかで、猪俣さんは、経験したことや当時の状況を一つずつ整理し、言葉を選びながら質問に答えていた。
その話し方は、分からないことを曖昧にせず、お客様の業務や課題を丁寧に確認する営業の進め方とも重なる。
取材を通して見えたのは、猪俣さんが、相談内容を整理し、必要に応じて社内の専門部門と連携しながら、お客様が取り組める方法を考えることまでを、自身の役割として捉えていることだった。
取材・文:尾崎真弓(株式会社ブロードリーフ 広報)
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