「試合に出られない」その時間に、子どもは育つ
『スポーツが授ける 挑戦し続ける力』著者・下田悠介氏インタビュー
千葉を拠点にバスケットボールスクールとクラブチーム「アスリートフォース」を主宰する下田悠介氏。育成年代の現場に立ち続けてきた指導者が、約1年をかけて1冊の本を書き上げた。『スポーツが授ける 挑戦し続ける力』――タイトルに込められたのは、勝ち負けの向こう側にある、子どもが一生持ち歩ける力のことだ。
本書の主な読み手として想定されているのは、スポーツに打ち込む子どもを持つ親御さんである。なぜ指導者が、子どもではなく親に向けて書いたのか。刊行を前に、指導哲学と本書に込めた思いを聞いた。
聞き手は、本書を刊行した株式会社ブックダム代表・菊池奈起。

本をつくる過程で見えてきた、親と指導者の「ギャップ」
――キックオフから完成まで1年強。本づくりの過程を振り返って、見えてきたことはありますか。
「スポーツが授ける挑戦し続ける力」というテーマを考えていく中で、自分自身を振り返ることになりました。書き終えて思ったのは、もう少し伝えたいことがある、ということです。
自分が思っている「成長する力」と、保護者の方が思っている「成長してほしい像」に、やはりギャップがあります。誰でも自分の子どもは可愛いですし、試合に出てほしいと思うでしょう。決して安くない月謝を払って我が子が出られないとなれば、悶々とする気持ちもわかります。ただ、試合に出る・出ない以前に、「レベルが高いところで揉まれる経験」にも意味があるはずなんです。そのメリットの部分に、なかなか目が向きにくい方も多いのかな、というのが率直な感想です。「『試合に出られる』が正義」になってしまっている、と感じます。
もちろん、試合に出られたほうがいいに決まっています。ただ、出られないのであれば「なぜだろう」と噛み砕く作業が必要です。それがないまま「出られないならやめよう」となってしまう。実際、そういう子が伸びるかというと、伸びにくいように思います。
かつての自分に置き換えてみると、「この『出られない期間』に何をすれば次は出られるんだろう」「次のステージでやってやろう」――プロでも大学でも、そうやって考えてきました。今の時代は、映像も情報もこれだけあふれているのですから、自分が子どもの頃よりずっと正しい努力がしやすいはずなんです。それなのに努力はせず、「出られないからチームを変える」となってしまうのは、もったいないと思っています。チームあっての自分ではなく、自分あってのチームなんだよ、というのは、子どもたちを見ていて強く感じる部分です。
――5年前と今とで、子どもたちの変化は感じますか。
選択する自由が増えた分、ゆるさも生まれている気がします。昔は部活動でしかバスケットボールができませんでしたが、クラブチームができたことで、プレーする場を選ぶ自由度が高くなりました。だから「ここが合わなかったらやめよう」となってしまうのではないかと思います。学校はやめられないのに、クラブはやめられると思っているから、スポーツの現場では諦めることが気軽になっているのではないでしょうか。
続けていれば、時代が変わればニーズも変わるように、出番が回ってくるチャンスは必ずあるはずなんです。それを待たずしてやめてしまうのは残念です。最後まで諦めの悪いやつが勝つと思っているので、「コツコツが勝つコツ」だと、最近はよく言っています。
――「評価される」ということについても、お考えを伺いたいです。
今は、評価されないことに不満を覚える子が多いように思います。ただ、何十人もいる中で、指導者が君のことを見ているのは一瞬なんだよ、と。だからこそ、その一瞬を増やすために行動してほしいと思っています。「評価される」のではなく、「評価されに行く」。出られないということは、まだ自分に伸びしろがあるということなんです。チームに何が足りないかを考えて動けば、指導者は必ず見てくれています。努力を続けることの大切さは、この本で伝わると思います。

「あなたに合った指導者はいません」
――本書は、まず親御さんの意識をどう変えるかがテーマになっています。
お子さんは、親御さんの写し鏡のようなものだと思います。スポーツのことは、勉強のことほどには考えられていないのかな、と感じます。バスケットボールには指導が入る分、「指導者の言い方が嫌だ」となりやすい。本にも書きましたが、勉強には正解がある。スポーツには、あるようでない。そこの難しさはあるのかもしれません。
――本書を通読して強く伝わってきたのが、「信じて待つ」という姿勢でした。環境を変えたほうがいい局面もあると思いますが、その見極めはどこでするべきでしょうか。
僕は、カテゴリーが変わる時にチームも変わるので、それまでは変えるべきではないと思っています。
「あなたに合った指導者はいません」。これがたぶんすべてかなと思います。指導者は、あなたたちに合わせようとはしていないんです。誰かが旗を振って、みんなでその高い山を登りに行くのに、全員がやりたいことをやっていては、高い山には登れない。その旗を振る役目が、コーチだと思っています。
プロになれば、1年に1回、環境を変えるチャンスがあります。でも子どもは変えるべきではない。3年間、同じところでやりましょう、というのが僕の考えです。中学、高校、大学と上がるタイミングでチームは変わるのですから、カテゴリーが上がる時に変えればいいのではないかと。
調子がいい時は「続けたい」、悪い時は「やめたい」と考えがちですが、努力の道は平坦ではありません。劣勢の時に何ができるかで、本当のポテンシャルが出ると思うんです。困難を乗り越えるほど、人間は強くなる。だから僕は、小さいうちは困難が多いほうがいいのかなと思っています。そこで得た経験は、次のステージに上がった時に「他にはなかった経験」になっていくはずです。

「叱る」ことの必要性――子どもを「プロフェッショナル」にするために
――下田さんの指導は厳しいという声もあるかと思います。
指導には「怒る」と「叱る」があると思っています。「怒る」は感情の消化。「叱る」は、その子のためにするもの。僕は基本的に怒りません、叱ります。だから論理的なことを言って、関係のない話は一切しない。起こったことに対して、温度感を高くして叱る。それが子どもには大事だと思っています。
今まで必要なことを何も言われずにきた子が、高校に上がった途端に怒られてしまうことがあります。その厳しさに耐えられず、つまずいてほしくないからこそ、今のうちから厳しいことも言っています。耐えられるメンタリティの形成、というか。
実は、他の指導者と比べると、僕は全然怖くないらしいんです。ただ、論理的である分、子どもからすると逃げ場がない。そこが厳しく感じるのかもしれません。「ディフェンスがこうなっていたから、これをやりました」と言えれば、それはもう叱るではなく、アドバイスに変わります。
子どもたちに向けているのは、決して暴言ではありません。温度感を高めに、必要なことを言っているだけなんです。試合の中では、1秒1秒の判断のプレーを指導しなければいけないので、温度感を高くしないと伝わらない。叱ることの大切さも、この本で伝わってくれればと思います。子どもには、子どものプロフェッショナルがあると思うので。
――子どものプロフェッショナルとは。
15歳の世代でのプロフェッショナルとは何かと考えたら、大人のようにやれというよりは、その世代に沿った形でいいと思うんです。たとえば「決められたことを絶対に間違えない」「挨拶をちゃんとする」「練習でやったことは必ず試合で試す」といったことですね。決められたことを守るのは、子どもの苦手な部分です。それをいかにやり抜く力に変えていけるかが、この大事な成長期間の意味なのかなと思います。
「育成か、勝利主義か」――そんな言葉はありません
――勝ち負けについて、下田さんはどう定義されていますか。
スポーツは勝ってなんぼ、というのが基本です。そのうえで、みんなで勝ちを目指し、どこまでいけるか、どんな努力ができたか。それが育成だと思っています。
勝ちがみんなの目標にないと、「この練習は何のためのものか」となる。楽しさだけを目的にして、勝ちを目指している相手と試合をしたら、悲惨な結果になります。それは子どもにとっていいことなのか、と。
優勝できたら大きな充実感があるでしょうし、届かなかったら、もっと頑張らなければという気持ちのほうが大きくなる。自分は、劣等感が一番のガソリンだと思っているんです。負ければ負けた分だけ悔しい。それが次に自分を動かすエネルギーになります。
――保護者の方からは「育成なのか、完全勝利主義なのか」と聞かれることも多いそうですね。
よく聞かれます。指導者を始める前は、僕もこの二極だと思っていました。そして僕の答えは「育成」でした。でも、やっていく中で、勝ちを目指していないと育成なんてできない、と気づいたんです。だからそもそも、「育成か勝利主義か」という言葉はないんですよ。
本当は「試合にみんなを出しますか、出しませんか」という問いなのだと思います。僕の中で試合に出す基準はシンプルで、言われていることをちゃんとできる子は出します。クラブチームで15人ほどいる中で、6、7人くらい。それくらいしかいないんです、自分のやるべきことを徹底できる子は。
何も意識しないまま3年間試合に出るだけで、お子さんは本当に成長できるだろうか――そこは、僕自身なかなかイメージが持てません。ただ、うまい下手で出しているわけでも、出られない子にうまさを求めているわけでもないんです。ちゃんと見ているよ、というのは分かってほしいですね。

伸びる子には、フォーマットがある
――長く指導される中で、印象に残っているお子さんはいますか。
昨年スクールを卒業した子ですね。もともと非常にうまくて、千葉県でも相当上の実力にいた子でした。その子がすごかったのは、うまいけれど傲慢にならない、ダラダラやらない。基礎的なドリルにも一生懸命に取り組んでくれる。これくらいの子が上に行くんだな、というのが、今の自分の中の基準になっています。
伸びるか伸びないかは、正直、姿勢を見れば分かります。伸びる子には取り組み方のフォーマットがあります。飽くなき向上心があって、一切の余計な感情がない。「ただ俺はうまくなるためにやる」という子は、やはり伸びます。
今の時代、いろいろな情報が入ってくるので、いろいろなことが気になってしまう。うまい子には、そうした雑念がないんです。言われたことを淡々と、素直にやる。
才能は「フィジカルギフテッド」ですから、伸ばそうとして伸ばせるものではないと思っています。だから、みんな「努力の一流」になってほしい。生まれ持った才能がないなら、それを理解したうえで取り組むことが大事かなと。そうした自分を見つめ直す視点は、保護者の方にもぜひ持っていただけたらと思います。「飽くなき探究心」という言葉が、自分は好きなんです。
自身が親になったことが、コーチとしての強みに
――下田さんご自身も、3人のお子さんを持つお父さんです。お子さんが生まれてから、スクールの現場などに影響はありましたか。
変化はありました。子どもがいると、保護者の気持ちがわかるんです。だからこそ、保護者の方のことが気になります。「大丈夫かな」「今、少し言い過ぎたかな」と。お客さんがいてこそのチームですし、保護者の方々もチームの一員だと思っています。
逆に、現場での経験は自分の家庭でも生きています。言うことを聞かない子どもにイライラをただぶつけるのではなく、「どうすれば伝わるだろうか」と試行錯誤するようにしています。最初は優しく言ってみて、それでも聞かなければ少し厳しく叱ってみる。一度で「はい」と聞く子もいれば、叱られて聞く子もいるし、叱られても聞かない子もいる。こうした経験は自分の子育てにも生きていますし、子どもがいて本当によかったと思う瞬間でもあります。
――保護者やお子さんへの寄り添い方は、重要なポイントですね。
そう思います。事業として運営している以上、保護者の方への対応や、子どもとのコミュニケーションの取り方も求められます。僕自身、バスケットボールの実力だけでなく、コーチとして「あの人はちゃんと対応してくれる」と思っていただけることにも自信があります。そこがアスリートフォースの強みでもあり、選んでいただける理由なのではないかと思っています。

読者へ――「あなたのこと、見ているよ」
――本を手に取った親御さんに、読後にどんなことを感じてほしいですか。
スポーツを頑張っている子どもに対して、もう少し興味を持ってもらいたい。それが1つです。
自分の親は、正直に言うと、あまりバスケットボールに興味がありませんでした。だからこそ、うまくなること以上に、頑張っている姿を応援してもらえている、「僕はこのままバスケットボールを頑張ってもいいんだ」と、家庭で思わせてほしいと思うんです。
「出られないから嫌だな、やめたいな」という時も、保護者の方と二人三脚でやってほしい。特別なことをするというよりは、棚卸しを一緒にしてほしいんです。「最近どうなの」という話から、「こういうのがうまくいかなくてさ」「じゃあコーチには何て言われてるの」と。それで子どもが気づかなかったことに気づく場合があります。すべてをやってあげるというよりは、「ちゃんとあなたのことを見ていますよ」と。それだけでも子どもは嬉しいと思うんです。
――コミュニケーションについて伺わせてください。
先日、半年ぶりくらいに訪れたクラブで、練習の後に子どもたちへ「あんまり来ないから、ジュース買ってあげるよ」と言ったんです。男の子は「一番高いの買っていいですか」なんて言ってくる。それもコミュニケーションです。でも女の子は、欲しいか欲しくないかも言えず、ずっと自販機の前に立っている。その間、一切コミュニケーションがない。「無理やりじゃないから、飲みたくなかったら買わなくていいよ」「でも暑くて疲れたでしょ、スポーツドリンクでも水でも何でもいいよ」と、ずっと一方通行で話しかけていました。
ジュースを買ってあげるという体験を、僕は大事にしています。バスケットボールの指導だけしていればコミュニケーションが成り立つかというと、それだけではない。「何が好きなの」とか、私生活のことにも少し興味を示す。君という人間に興味があるんだ、というのを、まず見せてあげる。
これは、バスケットボールでも同じことが起きます。だからスポーツは、やはりコミュニケーションなのだと思います。知らない人と話せる能力というよりは、自分の思ったことをちゃんと言えるようになってほしい。自分の思ったことを言う、聞かれたことにちゃんと答える。それは必ず行動にもつながります。
人と人とのコミュニケーションがすべてで、バスケットボールもコミュニケーションから始まると思っています。うまい人ほどコミュニケーションがうまい。営業がうまい人も、そうではないでしょうか。でも「うまいからできる、下手だからできない」で終わるのは嫌なんです。再現性があれば、下手な人でもできるようになる。再現性を持つことは、いろいろな人をうまくする可能性のある動きですから、大事にしています。
コミュニケーションが大事だと理解できれば、声を出すし、声をかける。再現性がないとダメだと分かれば、反復練習をする。それが理解できると、うまくなると思うんです。

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『スポーツが授ける 挑戦し続ける力』は、バスケットボールの本ではない。試合に出られない我が子にどんな言葉をかけるか、うまくいかない日にどんな食卓を囲むか――スポーツという場を借りて語られているのは、子どもが大人になっていく過程そのものだ。
「勝ちを目指していないと、育成なんてできない」
「困難を乗り越えるほど、人間は強くなる」
「ちゃんとあなたのことを見ていますよ、というだけで、子どもは嬉しい」
厳しさと温かさが同居する下田氏の言葉は、指導者へではなく、今この瞬間も子どもの背中を見つめている親御さんへ向けられている。
お子さんがスポーツに打ち込んでいるご家庭に、そして「どう関わればいいのか分からない」と立ち止まっているすべての親御さんに、本書を届けたい。

『スポーツが授ける 挑戦し続ける力』
著者:下田 悠介 / 出版社:ブックダム
定価:1,760円(税込)/ 発売日:2026年9月15日
単行本 / 四六判 / 200ページ
書籍の詳細情報:https://bookdam.co.jp/works/28/
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