「スタッフを一人にしない。」仲間に寄り添うリーダーシップ――リーガプレイス肥後橋 総支配人 土田 純子

2025年に創業90周年を迎えたリーガロイヤルホテルズ。その歩みを支えてきたのは、受け継がれてきた「あたたかいおもてなし」の精神と、時代とともに変化するゲストの期待に応えるべく、新たな価値を生み出そうとする挑戦の積み重ねだ。

大阪・肥後橋に位置し、ビジネス・レジャーのニーズに応えてきた「リーガプレイス肥後橋」。2023年4月に総支配人に就任したのは、グループの旗艦ホテルである「リーガロイヤルホテル大阪」で宿泊業務を中心にキャリアを重ねた、土田 純子氏。組織運営の難しさに直面しながらも、スタッフとともに歩むホテルづくりに尽力した同氏の挑戦に着目し、個々の「挑む心」を支え、成長を後押しするリーガロイヤルホテルズの企業風土に迫る。


写真:リーガプレイス肥後橋 総支配人 土田 純子(つちだ じゅんこ)氏



総支配人として向き合った最初の大きな壁


──土田さんは、当時グループ最年少、さらに女性としては前例の少ない総支配人への就任でした。打診を受けたときの率直なお気持ちをお聞かせください。


最初は、純粋に驚きました。もちろんうれしい気持ちもありましたが、時間が経つにつれて「総支配人」という肩書きの重みや責任の大きさから不安も感じましたが、「会社は、自分でもまだ気づいていない可能性に期待してくれたのではないか」とプラスに捉えました。今の自分にできることを一つひとつ積み重ねながら、ホテルとともに自分自身も成長していけばいいのではないか、と。


きっと会社が求めていたのは、すでに完成された総支配人ではなく、「これから成長し、挑戦していける人材」だったのではないかと感じています。「グループ最年少」や「女性総支配人」という点は、特別に意識することはありませんでしたが、自分がここで結果を出すことで、後に続く人たちの希望や可能性につながれば──そんな思いは、ずっと根底にあったように思います。


──総支配人に就任されてから、直面された壁は何でしたか。


率直に明かすと、着任当初は「総支配人という立場になれば、スタッフは自然とついてきてくれるはずだ」という考えがどこかにありました。でも、現実はまったく違いました。自分が良かれと思って提案したものの、実は相手にとってはそうではなく、すれ違いが起きてしまう。そんな状況が1年ほど続いたのです。

「何が足りなかったのだろう」「自分は総支配人に向いているのだろうか」と、自問自答する毎日でした。


──その大きな壁を、どのように乗り越えられたのでしょう。


転機となったのは、半年間の外部研修でした。そこでは、同じようにホテルのマネジメントを担う方々と出会い、それぞれが抱える悩みや課題について意見を交わすことができました。新しく出会った方々の話を聞くなかで、悩んでいるのは自分だけではないと実感できたと同時に、自身のマネジメントについても見つめ直すことができました。


当時の私は、自分にも周りのスタッフにも完璧を求めすぎるあまり、一人ひとりの気持ちを置いてきぼりにしていたのではないかと気づいたのです。スタッフを変えようとするのではなく、まずは自分が変わらなければいけない。そう意識を転換できたことが、状況を好転させる大きなきっかけになりました。今でも、当時の研修資料や提出レポートを読み返すことがあります。迷ったときに立ち返る、自分にとっての原点として大切にしています。


──ご自身のアプローチを変えたことで、ホテルの雰囲気やスタッフとの関係性には、どのような変化が生まれましたか。


まず感じたのは、スタッフとの距離が少しずつ縮まっていったことです。それまでは、どうしても業務上の会話が中心で、上司である私に話しかける際には、スタッフにも少なからず緊張感があったのではないかと思います。そこで、自分から心を開き、日々の雑談を増やすなど、気軽に話しかけてもらえるよう意識しました。すると、少しずつ相談してもらえる機会が増え、スタッフ同士の雰囲気も変わっていったように思います。


特にうれしかったのは、同じグループのスタッフがホテルに来てくれたとき、「以前より明るくなったね」「雰囲気が変わったね」と声をかけてくれたことです。第三者の客観的な言葉によって、ホテル全体の空気が確実に変わり始めているのだと実感できました。



大切にしているのは「スタッフを一人にしないこと」


──社内のコミュニケーションにおいて、意識されていることはありますか。


ただ言葉を交わす回数を増やすのではなく、常にその先にある「目指すべき未来」をスタッフと共有することを意識しています。「なぜ今これをするのか」「この取り組みが将来どのようにつながっていくのか」という意図を具体的に伝え、スタッフ自身がその先をイメージできるような話し方を心がけています。


また、できるかぎり同じ空間に身を置くということも大切にしています。スタッフと共に過ごす時間を増やすことで、スタッフ同士の会話や日々の様子が自然と見えるようになり、困っていることにもすぐ気づけるようになりました。何より、私も含め、組織としての一体感を感じてほしいと思っています。


──総支配人として求められるリーダーシップについて、土田さんのお考えを聞かせてください。


ホテルの規模やブランドによって理想の形は変わってくると思いますが、今私が目指しているのは、まず最前線でお客様と接しているスタッフの声に耳を傾けること。そして、ホテルが目指す方向性を明確に示すことです。


その上で、特に大切にしたいと考えているのが、「スタッフを一人にしない」ということです。何か困っていても自分から声を上げられないスタッフの変化に気づける環境をつくる。失敗したときにも、誰か一人の責任にするのではなく、そこから何を学び、チームとしてどう生かしていくかを考える。現場のスタッフを置き去りにせず、社員やアルバイトといった雇用形態にかかわらず、互いに支え合えるチームをつくることが、今の私が考える理想のリーダーシップです。




時代が変化しても変わらないあたたかいおもてなし


──ホテルのサービス面ではどのようなことを重視されていますか。


やはり、ロイヤルホテルが大切にしてきた「あたたかいおもてなしの心」は絶対に守っていかなければいけないと考えています。リーガプレイス肥後橋は宿泊特化型のビジネスホテルですが、お客様にロイヤルホテルらしいあたたかさを感じていただけるサービスを心がけています。


例えば、2026年2月から自動チェックイン機を導入しました。効率化や時代の変化に対応することは必要ですが、機械だけでお客様をお迎えするのではなく、必ずスタッフがお声がけし、必要に応じてお手伝いするようにしています。当初は、「機械化することでロイヤルホテルらしいあたたかみが薄れてしまうのではないか」というスタッフからの不安の声がありましたが、実際には、お客様からも受け入れていただくことができました。


どれだけサービスが機械化されても、最後にスタッフが一言声をかける、困っている方がいればさりげなく手を差し伸べる。そうした姿勢によって、ホテルの印象は大きく変わります。お客様は「ロイヤルホテル」のブランドに対する期待感を持ってご宿泊されますから、その期待を超えるホスピタリティを提供することが私たちの使命です。


──総支配人としてご自身が成長されるなかで、社内の方々から助けられたと感じる場面も多かったのではないでしょうか。


総支配人としての経験がない状態からのスタートでしたので、本当に多くの方々に支えられて、ここまで続けてこられたと思っています。最初は「すべて自分でやらなければ」と思い込んでいましたが、次第に、助けを求めてもいいのだと気づくようになりました。


特に心強かったのは、リーガロイヤルホテルズにはさまざまな分野のスペシャリストがいることでした。現場で経験を積んできた私は、どうしても現場目線で物事を考えがちでしたが、「経営の視点から見るとどうなのか」「他のホテルや部署からはどう見えるか」といった意見を率直に伝えてくれました。会社全体や利益まで見据えた判断ができるようになったのも、そうした多様な視点を教えてくださる環境があったおかげだと感謝しています。さまざまな人の力を借りながら、一緒にホテルをつくっていく。その素晴らしさを実感しているところです。


──今後のホテルパーソンとしての目標や、どのようなホテルを育てていきたいかをお聞かせください。


ホテルパーソンとしての私はまだまだ成長途中で、決して完璧ではありません。これからも学び続け、自分自身もホテルももっと成長させていきたいと思っています。そして、私自身が大きな挑戦の機会をいただいたことへの感謝を、今度は後輩たちへの「恩返し」としてつないでいきたいと考えています。


新しいことに挑戦するのは、容易なことではありません。決められたルーティンをこなす方が楽な場面もあるでしょう。でも、一歩踏み出して挑戦することで、その大変さ以上に、自分の成長や新しい発見につながることを、私自身が経験してきました。だからこそ、スタッフにもその挑戦の楽しさを実感してもらいたいのです。


そのために、若手スタッフに新しいプロジェクトを積極的に任せたり、誰かの挑戦をチーム全員で応援したり、その姿勢自体を認め合える風土を育んでいきたいと思っています。まずはリーガプレイス肥後橋を、「誰もが前向きに一歩を踏み出せるホテル」に育てていくことが、今の私の目標です。





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