ベッセルのドライバーを、電動に。シリーズ累計170万本「電ドラボール」、ヒットの先で進化し続ける理由


株式会社ベッセルは2026年、創業110周年を迎えました。110年の歴史の中で生まれてきた工具の中でも、近年のベッセルを象徴する製品のひとつが「電ドラボール」です。


2018年12月に初代「電ドラボール No.220USB」を発売。従来の手回しドライバーに近いコンパクトな形状と握り心地を保ちながら、電動アシスト機能を組み合わせた「電動×手動」の工具として支持を広げ、2026年にはシリーズ累計販売数170万本を突破しました。


ネジを電動で素早く回し、最後は手回しドライバーの感覚で締め付ける。その始まりは、ベッセルを象徴するボールグリップドライバーを、手回しの良さを残したまま電動で進化させるという発想でした。

今回は、新しい可能性を見つける田口副社長の発想が、開発部門会社である株式会社ベッセル工業でどのように製品へ変換され、ユーザーの声を受けながら次の世代へ受け継がれてきたのかをたどります。田口副社長と開発部の中島に、電ドラボール誕生の背景と、現在まで進化を続けるベッセルのものづくりを聞きました。

ベッセルとは

1916年、創業者・田口儀之助が大阪で田口鉄工所を創業し、日本で初めて※ドライバー1本に絞った専業量産体制を整えたことから、ベッセルのものづくりは始まりました。1948年には「日本捻廻株式会社」を設立し、1991年に開発部門は「株式会社ベッセル工業」へ社名変更。現在はベッセルグループの「つくる」を担う中核として、ドライバー、ソケット、作業工具、静電気対策品、電動ドライバーなどの開発・製造を行っています。


※「日本初」は、当社の創業記録および公式沿革に基づく表現です。当社公式沿革では「1916年に日本初のドライバー量産メーカーとして誕生」と記載しており、創業110周年記念サイトでは「日本で初めてドライバー1本に絞った専業量産体制を整えた」としています。

出典:株式会社ベッセル「沿革」「創業110周年記念サイト」



ベッセル工業3階ショールームには過去の工具などが年表とともに展示されている


長年培ってきた工具づくりの技術を土台に、独創的な発想を素早く形にし、品質を磨き込みながら現場へ届ける。その姿勢は、創業110周年を迎えた現在の製品開発にも受け継がれています。


<話を聞いたのはこの2人>

田口 二郎 / 株式会社ベッセル工業 代表取締役副社長 ※写真左

大阪府生まれ。商品企画・開発の方向性に関わり、日常や展示会で見つけた着想を新しい工具の可能性へつなげている。


中島 章裕/ 株式会社ベッセル工業 開発本部パワーツール部 課長 ※写真右

大阪府生まれ。新卒で入社して今年で15年目。ハンドツール・電動アシスト工具の設計開発を担当。試作、評価、品質改善を通じてアイデアを量産できる製品へ仕上げる。


すでに定番だったボールグリップドライバーを、電動で進化させる


ベッセルのボールグリップドライバー No.220シリーズ


ベッセルが長年つくり続けてきたボールグリップドライバー「No.220」。手に収まりやすい独特のボールグリップと、握って回す感覚は、長年にわたり受け継がれてきたベッセルを象徴する形のひとつです。


目指したのは、この定番ドライバーをまったく別の電動工具に置き換えることではありませんでした。


No.220が持つ握りやすさや、最後は自分の手で締め付けを確かめられるというドライバー本来の良さを残したまま、ネジを回す作業だけを電動でアシストできないか。

そこから、「ベッセルのドライバーを電動で進化させる」という構想が具体化していきました。


田口:「ただ電動で回る工具を作りたいわけではなくて、No.220のグリップ形状のまま、スイッチひとつで軸が回るものにしたかったんです。」

重要だったのは、電動工具の性能競争に加わることではなく、ドライバーとしての使いやすさを残したまま、作業を速くすることでした。


ネジを電動で素早く送り、最後の締め付けや固く締まったネジの緩め始めは、人の手で行う。

ここから、電ドラボールの基本思想である「電動はあくまでアシスト」「電動✕手動」という考え方が生まれていきます。


電ドラボールを手に、開発当時を振り返る中島と田口副社長

電動で送り、最後は手で締める「電動✕手動」の考え方

電ドラボールが提案したのは、電動工具と手回しドライバーを使い分けるのではなく、一つの工具の中で両方の長所を生かす作業方法でした。ネジを電動で素早く送り、最後の締め付けや緩め始めは手で行う。工具を持ち替えずに作業できることが、現場の効率化につながりました。


田口:「開発で最も大事なのはプライオリティ、つまり「何を諦めるか」を決めることです。何でもかんでも入れると、どっちつかずの面白くない製品になってしまう。」


当時、他社の充電式ドライバーやペン型ドライバーには電動時4〜5N・m程度のトルク(締め付けの強さ)を持つ製品もありました。一方、初代電ドラボールは電動トルクを2N・mに設定。パワー競争へ入るのではなく、最後は人が手でしめるので、電動トルクを抑えてでもNo.220らしいコンパクトさと握り心地を守る道を選びました。


「中島:強い電動工具にするより、ドライバーとして手になじむサイズにする。そのプライオリティが最初からはっきりしていました。」


結果として、電ドラボールは「電動工具を小さくしたもの」ではなく、「手回しドライバーに電動アシストを加えたもの」「最後は手で締める」という独自の立ち位置をつくりました。大手電動工具メーカーが強いトルクを競う市場とは別の場所に、自分たちの強みを生かせる新しいカテゴリーをつくったのです。

最後の手締めに欠かせない「ロックカム機構」

アイデアとして成立しても、毎日使われる工具として成立させるには、別の壁があります。開発では、当時導入されたばかりの3Dプリンターも使いながら、筐体の試作を何度も繰り返しました。


中でも難しかったのが、電動と手動を一つの軸で成立させる「ロックカム機構」です。

「ロックカム機構」は、電動で回している間はスムーズに軸が回転し、手で締めようとした瞬間には内部が確実にロックするしくみ。しかも、その機構をボールグリップの小さな内部に収めながら、手締めの大きなトルクに耐えさせなければなりません。



中島:「ロックカムやピンの径を100分の1ミリ単位で調整して、ガタつきと強度のバランスを詰めていきました。少し変えるだけで動きや耐久性が変わるので、試作と強度試験の繰り返しでした。」


「面白いアイデア」と「プロが現場で使い続けられる工具」の間には、大きな距離があります。その距離を埋めるのが、開発者の仕事でした。

ヒットの先で進化し続ける

電ドラボールの開発は、発売した時点で終わったわけではありませんでした。実際にプロの現場で使われ始めると、開発時の想定を超えるような負荷がかかるケースも見えてきました。


特に課題になったのが内部の遊星ギアです。初期モデルでは焼結金属製のギアを採用していましたが、過酷な使われ方の中で、特に負荷がかかる部分に破損が生じるケースがありました。そこで開発チームは、品質を最優先にして構造を見直します。


中島:「最初は焼結金属のギアを使っていたのですが、品質を優先して、途中から削り出しの「切削ギア」に変更しました。さらにギアの厚みを増したり、想定外の使われ方が分かってくると、改善しなければならないところも見えてきます。ギアだけではなく、ピンの径や各部の寸法も改めて見直し、ガタつきと強度のバランスをさらに詰めていきました。」


新しいカテゴリーを生み出すことと、その製品を長く安心して使える品質へ育てること。その両方がそろって初めて、工具は現場の定番になっていきます。


ギア改良前(左)と後(右)

ユーザーの声が、一つの製品をシリーズへ育てた

電ドラボールは、発売して完成したのではありません。使う人が増えるほど、次の要望も集まりました。


特に電気工事や配電盤の結線作業では、「大量のネジを締めるので、もっと速く回したい」「停止時の反動を小さくして、連続作業の負担を減らしたい」という声が寄せられました。そこで2020年に「電ドラボール ハイスピード」を開発。回転速度を大幅に高めながら、電動トルクを低く設定することで反動を抑え、連続作業に適したモデルへ仕上げました。


田口:「要望を要望をそのまま受けるのではなく、「現場の本当の困りごとは何か」を考えて横に広げていく。中島たちがすぐに対応して、バリエーションを作ってくれたのは大きかったですね。」


その後も、速度調整やスイッチ構造、落下防止への対応などを盛り込んだ「電ドラボール プラス」、そして2025年には電動トルクを3.0N・mへ高め、USB Type-Cに対応した「電ドラボールⅡ」へ進化。2026年には国内海外含め、シリーズ累計販売数170万本(2026年7月現在)を突破しました。


一つのヒット商品を守り続けるのではなく、使う人の声から新しい用途や課題を捉え、別の答えを用意する。その積み重ねによって、電ドラボールは単品の商品からシリーズへ成長していきました。

現在の3つの電ドラボール。違いは「性能の上下」ではなく、何を優先するか


シリーズへ成長した現在の電ドラボールには、それぞれ異なる特徴を持つモデルがあります。一見すると似ていますが、単純な新旧や性能の上下で分かれているわけではありません。


パワーを優先するのか。速さを優先するのか。作業に合わせた使い分けを優先するのか。それぞれの仕事で必要とされる性能に合わせて、役割を明確に分けています。


※製品仕様は2026年10月時点。


電ドラボールシリーズ紹介ページ

https://www.vessel.co.jp/sp/dendoraball/

電ドラボールⅡ|パワーと使いやすさのバランス

電ドラボールⅡは、無負荷回転数280回転/分、最大出力トルク(電動)3.0N・m。3機種の中で最も高い電動トルクを持ち、端子台の締め付け、木工の下穴あけ、ロングビットを使う作業など、幅広い用途で使いやすいモデルです。

「どれを選べばいいか分からない」「幅広い作業で使いたい」という場合に選びやすい、パワーと使いやすさのバランスを重視したモデルです。


電ドラボール プラス|作業に合わせて3段階で調整

電ドラボール プラスは、用途に合わせて回転数と電動トルクを3段階で切り替えられるモデルです。低速280回転/分・1.2N・m、中速340回転/分・1.6N・m、高速400回転/分・2.0N・mから選択でき、作業内容に応じて使い分けることができます。

繊細に作業したい場面、もう少しスピードが欲しい場面など、一つの工具で状況に合わせて性能を変えたいユーザーに向いたモデルです。


電ドラボール ハイスピード|1200回転/分。「締める力」ではなく「回す速さ」

3機種の中で、最も性格がはっきりしているのが「電ドラボール ハイスピード」です。最大の特徴は、無負荷回転数1200回転/分という圧倒的な早回し。一方、最大出力トルク(電動)は0.4N・mに抑え、低反動を実現しています。

数字だけを比べると「トルクが低い=力が弱いモデル」に見えるかもしれません。しかし、0.4N・mは性能不足ではなく、早回しと着座時の低反動を優先するための意図的な設定です。

配電盤の組立や結線作業のように、一日に数多くのネジを繰り返し回す仕事では、一つひとつを電動で強く締め込むことよりも、ネジを短時間で着座位置まで送り、最後だけ手で締める方が効率的です。ハイスピードは、まさに「たくさんのネジを、何度も、速く回す」ための電ドラボール。パワーではなく、連続作業の速さと軽快さに特化したモデルです。


パワーの「Ⅱ」。スピードの「ハイスピード」。使い分けの「プラス」。すべての性能を一つに詰め込むのではなく、作業ごとに必要な性能を見極め、何を優先するかを決める。それは、初代電ドラボールの開発で田口副社長が語った「何を優先させるか=何を諦めるか」という考え方にも通じています。

「まず作る。すぐ試す」。次の世代へ受け継がれる開発のスピード

田口副社長がベッセルの開発で大切にしているのは、「独創性」と「スピード」です。誰かがすでに作ったものを追いかけるのではなく、まだ形になっていない可能性を見つけたら、まず動く。試作品を作り、ユーザー様に実際に使ってもらい、その反応を見ながら完成度を高めていく。中島も、その考え方を開発の現場で実践しています。


開発初期に3Dプリンターで製作されたモックアップ(試作品)


中島:「〈まずはやってみる〉というスピード感ですね。電ドラボールの開発時も、3Dプリンターで何パターンもモックアップを作って、実際にユーザーさんのところへアンケートやヒアリングに走り回りました。早く形にして、現場の反応を見ながら完成度を高めていくことを大切にしています。」


田口:「ベッセルのミッションは「独創的な商品とサービスで驚きと感動を届ける」です。他社の真似をするのではなく、お客様に「おっ」と言ってもらえるような、感動を与えるものづくりをする。中島たちの世代がその精神を引き継いで、失敗を恐れずチャレンジしてくれているのは頼もしいですね。」


田口副社長が新しい可能性を見つけ、それを中島たち開発者が技術で形にする。そして市場へ出た後は、ユーザーの声を受けながらさらに磨き込んでいく。

電ドラボールの開発を振り返ると、ベッセルで受け継がれているのは、完成した製品そのものだけではないことが分かります。


  • 誰もやっていないことを考える。
  • まず形にする。
  • 現場で確かめる。
  • そして、より良いものへ変え続ける。

そのものづくりの姿勢そのものが、世代を越えて受け継がれています。

10年後は、「世界中の職人の腰サックにベッセルを」

2018年に一つの製品として生まれた電ドラボールは、ユーザーの声を受けながらシリーズへ成長し、2026年には累計販売数170万本を突破しました。では、その先にどんな未来を描いているのでしょうか。


中島:「10年後には、日本だけではなく、世界中の電気工事士さんや職人さんの腰サックに、当たり前のように電ドラボールが入っている。そんな世界の定番工具にしていきたいです。海外展開のハードルもありますが、世界同時発売もできるような体制を目指していきたいですね。」


110年前、一本のドライバーから始まったベッセル。そのドライバーの使いやすさを残したまま、電動という新しい価値を加えた電ドラボールは、いま世界の定番工具を目指して、次の一歩を進めています。


電ドラボールシリーズ紹介ページ

https://www.vessel.co.jp/sp/dendoraball/




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