バー経営が、趣味になる。会社員3人が新橋で見つけた”もう一つの顔” |【つながるBARインタビュー vol.2 東京新橋店】
リード
東京・新橋。サラリーマンの聖地と呼ばれるこの街の一角で、毎週水曜の夜に開くバーがある。「つながるBAR 新橋店」。だが、専業のバーテンダーはいない。カウンターに立つのは、飲料メーカーの営業、電機メーカーの人事、IT企業のデータ分析担当という、本業のまったく違う会社員3人だ。
つながるBARは、飲食店の定休日を間借りし、本業を持つ人が副業として週1回開くバーである。福岡・中洲、大阪・北新地、神戸・三宮と全国に広がり、掲げるのは「明日の仲間と、つながる場」という一言。愚痴や過去の話ではなく、明日につながる出会いを生む。その理念は共通でも、店の顔は立つ人ごとに大きく変わる。新橋店は、これまでのどの店とも違う成り立ちを持っていた。縁もツテもなく飛び込みで見つけた店を、3人で回している。この記事では、その3人の言葉から、新橋店という場をひもといていく。

つながるBARは、オンライン飲み会の物足りなさから生まれた
そもそも、つながるBARはなぜ生まれたのか。原点は、コロナ禍のオンライン飲み会にある。立ち上げメンバーの一人で、新橋店の古株でもある十文字さんは、当時をこう振り返る。
「2020年入社のコロナ禍世代で、社内に知り合いが一人もいなかったんです。そんなときに、飲食店を支える文脈のオンライン飲み会プロジェクトを知って入りました。ただ、当時のオンライン飲み会って、ふわっと始まってふわっと終わる。家で酒を飲んで少し話したかな、くらいの物足りなさがあった。それをどうにか面白くできないか、というのが入り口でした」
画面越しの飲み会をどう豊かにするか。その試行錯誤の先に、閉まっている飲食店を借りて店と店をモニターでつなぐという発想が生まれ、やがて自分たちで実店舗を持つという形にたどり着いた。2022年2月の東京・恵比寿を1号店に、つながるBARは店を増やしていく。新橋店は、その系譜の中では最も新しい。恵比寿の閉店後、関東で次の場所を探していた流れが、川崎の武蔵新城を経て、新橋にたどり着いた。
縁がなかったのは、新橋だけだった
つながるBARの店は、たいてい誰かの縁から生まれる。中洲は店長トヨさんの学生時代のバイト先、北新地は創業者である土屋さんの営業先だった。ところが新橋店だけは、縁もツテもないところから始まっている。ママを務める富安さんが、飛び込みで開拓したのだ。本業は、飲食店向けの営業である。
「条件は『水曜に借りられる、都内の店』だけでした。私は横浜に住んで都内に勤めていて、毎日新橋を通っていたんです。ここなら、いろんな人が集まりやすいんじゃないか。そう思って、Googleマップで水曜定休の店をひたすら探しました。良さそうな店を見つけたら、まず客として飲みに行って、様子を見てから切り出す。本業が営業なので、飛び込みは慣れています」
こうして2025年1月、新橋店は開いた。店のオーナーは、本業が別にある方だという。本業を持ったまま店を構えるという相性が、ここでもかみ合った。縁から始まるバーは、実は簡単ではない。土地勘だけを頼りに開拓し、半年続けている。この再現性の高さは、新橋店ならではの価値だった。
3人で回すから、「趣味」でいられる
新橋店のもう一つの特徴は、3人で運営していることだ。他店の多くが一人で毎週立つのに対し、新橋は富安さんを「ママ」に、電機メーカーで人事を務める熊谷さんと、古株の十文字さんがサポートに回る。役割はきっちり決まっているわけではない。熊谷さんは、こう説明する。
「富安さんが『富安ママ』で、私と十文字さんがサポートに回る感じです。今年からは3人の重心が少し分かれてきて、富安さんは自分の店を持ちたい、私は広報など全体の方へ、十文字さんは別の拠点を探している。それでも3人は3人で回しています」
ママを引き受けるとき、富安さんは迷ったという。本業の営業職と、毎週固定の夜。両立できるのか。その葛藤を乗り越えられたのは、3人という体制があったからだ。
「毎週水曜を固定でふさぐと会食が入れられない。本業がおろそかになるのは嫌だな、とすごく悩みました。でも、やってみたら水曜って週の真ん中で、意外と予定が入れやすい曜日なんですよ」
負荷を3人で分け合えることは、続ける上で決定的な意味を持つ。シフトを組めば、一人あたりは2、3週に一度立てばいい。誰か一人に無理が寄らないから、無理なく続く。そしてこの「無理なく続く」ことこそ、つながるBARが会社員にもたらす価値の核心にある。バーを持つことが、生活を圧迫する負担ではなく、毎週の楽しみになる。十文字さんは、それを迷いなく「趣味」と呼ぶ。
「社会人だからこそ、趣味的な立ち位置に置けている。毎週どこかしらに集まれる場所があるって、普通の会社員からするとなかなかないんですよ。辞めてもいいんだけど、辞めたときのデメリットの方が大きいなと思って続けている感じです」 
新橋では、仕事の話が人をつなぐ
店の色は、街が決める。新橋はサラリーマンの街だ。だからこそ、この店では仕事の話が人をつなぐ触媒になる。富安さんは、他のエリアとの違いをこう語る。
「夜の店って、仕事のことは詮索しないのが暗黙のルールという場所も多いじゃないですか。ここは逆で、『何の仕事ですか』までが会話のセットになる。パイロットとCAの集まりだったり、大手不動産グループの方だったり。仕事柄の話がフラットにできるお客さんが多いですね」
同じ「つながり」でも、店ごとに手ざわりは違う。神戸・三宮はアートを介して仕事を脇に置き、福岡・中洲は理屈抜きで盛り上がる。新橋は、仕事の話そのものが人をつなぐ。その背景には、社会人になってからの人間関係の作りにくさがある。十文字さんは、そこに新橋店の意義を見ている。
「社会人になってから、社外に知り合いを作るのは本当に難しい。特にIT業界はリモートワーク中心で、その難易度が上がっている。同じ人事が2人いても、会社が違えば動き方も全然違う。その違いに触れられるのが、新橋ならではの面白さです」
3人で回していることは、客層にも表れる。それぞれが別の知人を連れてくるため、店の中で毎週違う組み合わせが生まれる。熊谷さんは、その化学反応を面白がる。
「私の知り合いAさんと富安さんの知り合いBさんが、その日たまたま隣り合う。来週はまた別の組み合わせになる。立っている側から見ていて、これは3人で回しているからこその面白さだなと」

画面の向こうで、同じ町の出身者に出会う
新橋店には、他店にない仕掛けがある。大阪・北新地とモニターでつなぐ中継だ。つながるBARにとって、この「つながり」そのものが差別化の資産になる。十文字さんが最も記憶に残る夜として挙げたのも、この中継から生まれた出会いだった。
「大阪の店とつないでいて、僕が呼んだ同期と、向こうのお客さんが出身地の話になったんです。聞いていくと、二人とも広島県の呉市出身だった。東京と大阪という、呉とはまったく関係ない場所で、しかもメジャーとは言えない町の出身者同士が、画面越しに出会う。普通の居酒屋なら、隣のテーブルの会話に割って入ることはまずない。それができるのは、つないでいるのが知り合い同士で、間に立つ人間がいるからなんです」
熊谷さんにも、似た経験がある。北新地とつないだ日に、大阪へ転勤した元同僚が偶然画面に映っていた。その人もまた、共通の知人でつながっていた。ただし中継は万能ではない。人数が多いと音も情報も混ざり、今は1対1が限界だという。それでも、この技術には大きな将来像が描かれている。現在は「今どの店に誰がいるか」を可視化するアプリの構想も進んでおり、いずれは全国の店を自在につなぐ形を目指している。十文字さんの見据える先は、店の枠を越える。
「リモートでつなぐことの価値を、もっと出したい。3店舗目ができてつないだら、必ず新しい課題が出る。それを解決して、店でしかできないリモート飲みの価値を最大化したいんです。会社員だからこそ集められる人もいる。営業の愚痴を言い合う会でも、資産形成の話でもいい。会社員である自分だから出せる価値を大事にしたい」

井戸端会議か、サードプレイスか
3人に、それぞれの言葉で「つながるBARとは何か」を語ってもらった。答えは三者三様だが、根は同じところにある。富安さんは、生活に近い言葉を選んだ。
「井戸端会議の延長だと思っています。自分の部屋で宅飲みをしているんだけど、知らない人もふらっと入ってこられる。だから、公園みたいなイメージかもしれない。『よかったら飲んでいきなよ』と言える場所です」
熊谷さんは、仕事でもプライベートでもない第三の居場所だと言う。「そこでこれまでにない出会いがたくさんできる。その出会いを見る側でもあり、自分が体験する側でもある。両方を持てるのが、他ではなかなかない」。十文字さんの言葉は、この店の技術的な特徴を映す。「リアルとリモート、両軸で人と知り合える場所ですね」。
これからのビジョンも、3人で少しずつ向きが違う。富安さんはママとして「東京の水曜日」に意味を持たせたいと語る。出張や旅行で東京に来た人が、水曜だからと立ち寄れる場所にしたい。熊谷さんは全体を見て、立地を活かした企業や大学とのコラボ拠点になれると考える。そして十文字さんは、リモートの価値の最大化を追い続ける。方向は違っても、3人が同じ店に立ち続ける理由は変わらない。
会社員のまま、もう一つの顔を持つ
最後に、この記事を読む人へ、と話を向けた。3人の答えはそろっていた。まず、気軽に来てほしい。そして、自分でも何かやってみてほしい、と。十文字さんは、バーという言葉の敷居をこう崩す。
「バーって、格式が高くて入りにくいイメージがあるじゃないですか。でもここは、話す話題は何でもいい。誰かとつながりたいなと思ったら来てほしい。しかも、その『誰か』が限定されないのがいい。新橋のサラリーマンと、とも、大阪のおじちゃんと、とも決まっていない。誰かとは必ずつながれる。それがこの店です」
熊谷さんは、立つ側に回ることの手軽さを伝える。「私は社会人3年目ですけど、ちょっとしたきっかけとご縁でここまで経験させてもらった。悩んだら、とりあえずやってみて、合わなければやめる。そのくらいのハードルでいいと思うんです」。バーを持つことは、かつては一部の人の夢だった。それが、本業を持ったまま、趣味として叶う時代になっている。会社員のまま、もう一つの顔を持つ。新橋店の3人は、その等身大の実例だった。
毎週水曜、新橋で待っています。富安さんは、そう言って笑った。

店舗概要
・店名: つながるBAR 新橋店
・営業: 毎週水曜19:00-23:00
・場所: 東京都港区新橋4-19-12 ルグラシエルBLDG50 3F BAR PIPOPIPO 新橋
・運営: つながるEAT株式会社
・問い合わせ先:Instagram(@tsunagarubar_shinbashi)
DMにてお気軽にご連絡ください。
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