【カクナル号vol.1】「地方に仕事がないのではなく、知られていないだけ。」TURNS堀口正裕 × CAQNAL中島篤が語る、地域と人のリアル

地方創生には、移住などの「人を呼ぶ」施策だけで終わらず、人が地域に根付き、活躍できる場を作っていく、という課題があります。

地域の魅力を発信し続けてきた雑誌「TURNS」プロデューサーの堀口正裕(ホリグチマサヒロ)さんと、地方創生に携わるプロジェクトを多く担う組織人事コンサルティングの株式会社CAQNAL(カクナル)代表取締役の中島篤(ナカシマアツシ)が、「なぜ地域には人事というインフラが必要なのか?」をテーマに語り合いました。

前編では、二人の出会いと原点、そして地方に仕事がないのではなく、知られていないだけという地域のリアルに迫ります。


プロフィール

堀口 正裕(ホリグチ マサヒロ)

㈱第一プログレス代表取締役社長

TURNSプロデューサー

総務省地域力創造アドバイザー、国土交通省「地域づくり表彰」審査会委員を務める他、地域活性事例に関する講演、テレビ・ラジオ出演多数、全国各自治体の移住施策に関わる。

東日本大震災後、これからの地域との繋がりかたと、自分らしい生き方、働き方、暮らし方の選択肢を多くの若者に知って欲しいとの思いから、2012年6月「TURNS」を企画、創刊。「TURNS LOCAL COLLEGE」や「TURNSのがっこう」等、地域と都市をつなぐ各種企画を展開。地方の魅力は勿論、地方で働く、暮らす、関わり続ける為のヒントを発信している。

TOKYO FM『Skyrocket Company』 内「スカロケ移住推進部」ゲストコメンテーター


中島 篤(ナカシマ アツシ) 

株式会社CAQNAL(カクナル)代表取締役

iU情報経営イノベーション専門職大学 客員教授 / 地方創生アドバイザー

福島県いわき市生まれ。東北学院大学第二部経済学科卒。在学中は株式会社紀伊國屋書店で契約社員として勤務。卒業後、2001年にスターバックス コーヒー ジャパン株式会社に入社。その後、株式会社ユニクロをはじめ、複数の企業で人事部長およびコンサルタントとして従事。2011年、東日本大震災を機に働き方改革や地方創生に関心を持ち、フリーランスとして活動後、株式会社CAQNAL(カクナル)を創立。現在は宮城県仙台市と東京都の2拠点生活を実施中。

きっかけは、Xのひとつのメッセージだった

カクナル広報:

まずは、お二人の出会いのきっかけを教えてください。

中島:

もともと堀口さんの活動に共感し、いつもTURNSやSNSの投稿を楽しみにしておりました。実際やり取りが始まったのは、私からDMであるお願いをしたのがきっかけです。3年ほど前、某自治体さんから「近隣の地方創生についての事例を知りたいので、どこか紹介してもらえないか?」という相談を受けました。当時は「自治体同士なのだから、直接問い合わせればいいのに。」と当初は思ったのですが、実際には自治体同士は意外と接点がなく、参照モデルやケーススタディがない状態なのだと知りました。そこで、いきなり失礼ながらも、地方の具体的な取り組み事例を日々発信されていた堀口さんに「初めましてなのに、突然すみません...」とXからメッセージを送りました。すると、すぐにリアクションをいただけたのです。

堀口:

私のところには、営業を目的としたご連絡も多くいただくので、正直すべてにお応えできているわけではありません。でも中島さんの場合は、普段の発信から、ご自身のキャリアを地域貢献に活かしたいという想いがはっきり見えていました。それなら、私が知っている地域で、一緒に何かできる可能性があるところをご紹介しようと思いました。当然、自分がよく知っている地域しかご紹介しませんが、スピードが命なのですぐにお送りしました。

中島:

本当にすぐお返事をくださいました。ビジネスの世界にいると、自らの利益を最優先する「テイカー」を多く目にしますが、堀口さんは、見返りを求めずに他者に価値を提供してくださる「ギバー」の中でもトップクラスの「スーパーギバー」でした(笑)。地方創生の最前線をずっと走ってこられた方が、面識のない私の相談に対して、真摯に、しかも最速で応えてくださったので、最初のやり取りだけで、「この方は信頼できる」と感じました。

原点は2011年。震災が変えた、それぞれの進路

カクナル広報:

そもそも中島さんが、大手企業をはじめ人事のキャリアを地方創生に結びつけたいと考えた背景には、2011年に発生した東日本大震災があったと伺っています。当時のことを教えてください。

中島:

東日本大震災がすべての起点です。それまでは私は東京で働いていて、リーマンショック以降は東北の実家を経済的に支えるために、とにかく稼がなければいけない状況でした。人事として、心のどこかで葛藤を抱えながら人員整理といった厳しい実務を担っていた時期もあります。そこで東日本震災が起きました。地元の宮城に一時的に戻って気づいたのは、「帰ってくるのは親としては嬉しい。でも、帰ってきて休職すれば、収入が途絶えてしまう。」という現実です。地元に戻りたくても、仕事がない。それなら、人事として地元に何か貢献できないかと考えたのが、始まりでした。組織に縛られないフリーランスという働き方を選び、「東北に雇用を。」というテーマを自分のプロフィールに掲げて活動を始めました。

カクナル広報:

同じく震災の翌年、堀口さんは「TURNS」を創刊されました。そこに込めた想いを教えていただけますか。

堀口:

もともと私は、中高年向けの移住メディアに携わっていました。リタイア後に地方で悠々自適に暮らす方々を応援する媒体です。それはそれで意味があったのですが、東日本大震災が起きたとき、若い人たちが、元気なうちから、自分の好きな地域やコミュニティで、自分の経験や生き様を活かせる時代が来たほうが絶対に楽しいはずだ、と猛烈に思いました。当時すでに、今でいう二拠点居住のような暮らし方を実践する若者はたくさんいました。そういう働き方、暮らし方、生き方を提案するメディアがあってもいいのではないか。移住はIターン・Uターン・Jターンと言いますが、「今度はあなたの番(turn)だよね」という意味を掛けて、「TURNS」と名付けました。

カクナル広報:

創刊当時の反響はいかがでしたか。

堀口:

国が地方創生と言い出したのは2014年ですから、その2年前です。当時は、若い世代に向けたメディアへの理解がまだ得られにくく、離れていくスポンサーがあったり、厳しいご意見をいただいたりもしました。それでも想いを貫いてよかったと思うのは、読者からの反応です。一次産業の特集号を隅から隅まで読み込んで、手作りのPOPと直筆の手紙を送ってくれた大学1年生の女の子がいました。「私もTURNSを宣伝したいです。」「TURNSのおかげで人生が変わりました。」と。一人ひとりが「ありたい自分」であるために、生き方のターンをしよう。創刊時に込めた想いに、時代がやっと追いついてきたのかなと感じています。


地域を守ってきたのは、根を張る事業者たち

カクナル広報:

堀口さんは以前から「地方には仕事がないのではなく、知られていないだけ」と語られています。長年の取材から見えてきた、地域のリアルとは何でしょうか。

堀口:

私たちは移住者を増やすことについては実績を自負していますが、30年近く地域の人を取材し続けて見えてきたのは、結局、地域を守っているのは「事業者」だということです。移住者のコミュニティだけでは長続きしません。地域の歴史や文化を守り、受け継いできたのは、その地に根を張ってきた事業者の連続体です。

だからこそ私たちは、地域に人をお連れするとき、必ず地元の経営者、つまり地域が心から好きで頑張っている人たちに会いに行きます。観光ができない真冬の豪雪地帯でも、人に会いに行く企画をやると、人は集まるんですよ。地域で人が動く一番大きな理由は、そこにいる人たちと触れることだと私は思っています。世界に誇れる事業をやっている会社は日本の地方にたくさんあります。でもそれ以上に、「この人と一緒に何かやりたい」「この人のもとで働きたい」と思わせる人こそが、日本の地域企業の魅力なんです。

中島:

最後の一歩は、結局そこですよね。制度や条件も大切ですが、最後は人と人との関係です。リアルな関係構築に勝るものはありません。さまざまな地域に行けば行くほど、それを感じます。

外部人材こそ、目利きしてほしい

カクナル広報:

外部の専門家として地域に入るとき、堀口さんが意識されていることはありますか。

堀口:

私も中島さんも、地域から見れば「外部専門家」という、警戒されやすい立場です。外から来た人間に対して、慎重に構えている方は少なくありません。だからこそ私は、綺麗ごとを言いません。むしろ「私たちのような外部の人間は、まず疑ってかかってください。」という前提から話を始めます。その上で、率直にお伝えします。人口が減り、行政だけでは立ち行かず、民間や外部の力を借りなければいけないことが山ほどあるからこそ、外部人材を見極める「目利き力」を持ってほしい、と。この人と組めばここが伸びると見抜ける人がいるかいないかで、地域は大きく変わります。

カクナル広報:

厳しい内容も、率直に伝えていらっしゃるのですね。

堀口:

真剣に考えているからこそ、伝えるべきことがあると思っています。それに、地方創生の世界は美辞麗句が並びがちです。「エコ」「スローライフ」「関係人口」などの言葉だけが先行して、実態が伴わないケースも見てきました。地域の方々には、そうした言葉は響きません。私自身もそうした伝え方は好みませんので、地に足のついた言葉で入ります。事例が多いのは、そうやって入っているからだと思います。

選ばれる地域になるために。最初の一歩は、地域側から

カクナル広報:

地域の企業や自治体が「選ばれる」ようになるために、向き合うべきこととは何でしょうか。

堀口:

印象的な地域があります。行政がほとんど手を出していないのに、起業家がどんどん増えている町です。地元の2代目・3代目の若い事業者たちが、遊休不動産を自分たちで借りたり買ったりして、面白い人がいれば「ここで何かやってみないか。」と巻き込んでいくのです。手持ちの資金がわずかな若者に「この畑で1日数時間作業してくれたら、この物件を使っていいよ。」という、いわばベーシックインフラの考え方まで生まれていました。リスクを取ることを楽しむ人たちが人を呼び、循環が生まれているんです。行政に聞いたら「私たちは特に支援していないんです。」と言われるくらい、自立自走している町の姿でした。

中島:

どのような組織でも、自分たちの集団に閉じこもらず、「巻き込む意識」のある人がいるかどうかで効果は大きく変わりますよね。私は会社としても個人としても地方自治体に関わるプロジェクトが増えてきましたが、「関係人口を増やしたい」「移住者を増やしたい」というご相談の次に多いのが、「他の地域の事例を教えてほしい」というご要望なんです。お気持ちは分かります。でも、待っているだけでは人は来ません。興味を持ってもらうために、まず自分たちから発信し、自分たちから動いてみる。最初の一歩は、地域側からも踏み出してほしいんです。耳の痛い話かもしれません。それでも、自ら動く若手がいるかどうかで、地域の中に、自ら動く人や若手を巻き込む人がいるかどうかで、施策が一過性で終わるのか、持続的な取り組みになるのかが決まります。能動的な自治体とは、長いお付き合いが続いています。

堀口:

外から来る人も、みんなが積極的に飛び込めるタイプではありません。緊張しながら地域に向かう人のほうが多いはずです。「歓迎されていない」と感じたら、別の地域に行ってしまいます。私たちが地域を変えるのではなく、地元の人が動くことに、私たちは伴走する。その順番を大切にしたいと思っています。





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