(2)第2回「人から始まるものづくり」

付加価値、物語性に魅力

 地域の「ものづくり」がにわかに脚光を浴びている。伝統工芸の継承、新たな分野への挑戦、地元の特性を生かした商品プロデュースなどさまざまな動きが出ている。トークセッションでは、セメントプロデュースデザイン(大阪市)の金谷勉さんが、全国で成功した事例や、技術や産業を持続させるために大切なことを説明した。県内の出演者は、職人としてのこだわりや、ものの売り方、異業種との連携の在り方を意見交換。大分のものづくりが地域の活性化につながるように議論を深めた。(井上有紀子、川野丈一)

商材は技術、意匠、販路が重要

【キーノートセッション】

出演者らの話に熱心に耳を傾ける一般参加者=2日午後、大分市金池南のコレジオ大分 
 キーノートセッションでは、アドバイザーの金谷勉さんと大分合同新聞社の佐々木稔編集局次長がものづくりの現状や中小企業と共に商品開発をした事例について意見を交わした。

 金谷さんはデザインなどを手掛ける会社を起業した18年前と現在のものづくりの変化を説明。「この間、形あるものはコンピューターでできるようになった。課題解決など形のないことを仕事にすることが増えてきた」と話した。

 自社の取り組みとしてユニクロとのコラボレーションTシャツのデザインや異業種間の交流会などを企画。「自社の技術以外と交わることで、技術の交配をさせていく」をテーマに他社と共に企画、商品開発した事例を紹介。

 福井県鯖江市のメガネの材料を仕入れる会社と▽現状の設備を使う▽生産しやすい形状▽使用素材が少ない―商品としてメガネのフレーム素材を活用した「耳かき」を開発したケースも紹介。3900円で年間千本を売ることを目標に展示会に出展したが、5千本の受注があり、デザインが経営に直接影響することを実感。鯖江市の会社は5年間で売り上げを12倍に伸ばしたという。

 最後に金谷さんは「商材は技術と意匠、販路の三つの軸で考えることが重要」と述べ、佐々木局次長が「ものづくりは企画から製造、販売までトータルで考えないといけないのですね」と締めくくった。

「選ばれるものを」意識共有 現代に合えば見る目変わる 切磋琢磨する職人とコラボ

【トークセッション】

第2部トークセッション。ものの作り手としての信念を書いた=2日午後、大分市金池南のコレジオ大分
 ものづくりに取り組む5人らによるトークセッションでは、作り手の姿勢や職人の横のつながりを話した。最初に「作り手として、これだけは誰にも負けないものは何か」と問い掛けがあった。「らしさ」と答えた日田杉グッズなどの商品開発をする仙崎雅彦さんは「売れ筋を追うのでなく、地域性や自分らしさを出す。価格競争に陥らずに済む」と付加価値や物語性を見いだしている。

 「2000年ごろにプロダクトブームはあったが、消えていった人も多い。持続させ、販売のノウハウが必要だ。作り手も製品を作って終わりではない」とアドバイザーの金谷勉さん。テントの縫製技術を生かしてバッグ製作をする佐藤晃央さんは、流行の生まれる東京から出発する戦略を展開した。大阪、東北、イタリア、香港を経て最後に大分で販売した。PR策では「職人がいなくなる中、職業を格好良く見せるようにしている。職人を表に」と、自社のフェイスブックなどを活用しているという。

 パッケージ製造会社副社長の小野尚子さんは、社員の意識改革を大事にした。「パッケージは脇役なので、選ばれるものを作るという共通認識を持つ必要がある。安い物を大量に作る時代にのみ込まれたくない。職人のプライドを損なわないよう、社内で目指すところの意識を共有している」

 竹のしなやかさを生かしたアクセサリーを作る竹細工職人の佐藤美樹子さんは「基本的な技術は昔から変わらない」と話す。ざるや籠のイメージが強いが、近年はアクセサリーやグッズも人気がある。「現代に合ったデザインを示すことで、受け手の見る目が変わった」と語る。

 異なるものづくりをしている職人同士で連携の動きも出てきた。竹細工と木工のコラボなど、試行錯誤を繰り返している。仙崎さんは「人間関係はいろいろあるが、切磋琢磨(せっさたくま)する職人と組んだときに最も良いものができる」。3Dプリンターなどを使い市民が自由にものづくりをできる工房を開く豊住大輔さんは「伝統の技を守ることと同時に、新しいものを受け入れることも大切」とこれからのものづくりの道筋を示した。

 最後にコーディネーター佐々木稔編集局次長が「皆さんの仕事には、すごい作り手がいるとか、あのかばんはすてきだとかという物語がある。若い人たちに大分のものづくりのすごさを示していきましょう」と締めた。

【参加者の声】

(話し合える場が大切)
 大分市、野ばらの会代表の野村純子さん(84) 購買者や製造者同士が関わる機会は非常に大事。今回のハピカムのように意見や取り組みをそれぞれが話し合える場が大切だし、多くの素晴らしいアイデアが生まれると思う。多様な人とつながり、チャレンジしてみないと良い商品ができるかどうかは分からない。異業種や分野間でコラボレーションして独自のものづくりをしていってほしい。


(連携深め協力関係に)
 大分市のデザイナー田中穣(みのる)さん(33) ものづくりをする人たちはつくることに一生懸命だけど、売り方まで意識が回らない人が多いと感じている。どの業種も横のつながりが意外と少なく、販路の開拓などで互いの経験を聞くことで新たなアイデアが生まれると良い。私はデザインの仕事をしており、ハピカムで出会った人たちと連携を深めてメリットになるような協力関係を生んでいきたい。


(とても刺激になった)
 津久見市の県立芸術文化短大1年、根之木琴里さん(18) ものづくりをしながら地域を盛り上げている人たちばかりだった。「その場所に行かないと買えないものを作る」という考え方が面白く、地方創生とデザインがつながっていると気付いた。大学でプロダクトデザインを学んでいて、将来はものづくりに関わる仕事をしたい。今日はとても刺激になった。

◆出演者プロフィル◆

佐藤晃央(さとう・てるお)さん(36)
 大分市出身。佐藤防水店4代目社長。学生時代はラグビーに打ち込んだ。大学卒業後はアパレルメーカーに就職。トキハ本店で接客を学び、家業を継いだ。

仙崎雅彦(せんざき・まさひこ)さん(41)
 北九州市出身。大学卒業後、日田市内の家具製造販売会社に入社。家庭用、業務用ソファの製造に携わる。2008年にショップ「エリアス」開店。

佐藤美樹子(さとう・みきこ)さん(38)
 別府市出身。高校卒業後、服飾関係の販売や飲食店で10年間働いた。竹細工を2年間学んだ後、今春コタケを開店。竹細工のワークショップも開いている。

小野尚子(おの・なおこ)さん(37)
 由布市挾間町出身。大学卒業後、民間企業などに勤務した。その後、九州大学大学院で福祉国家論などを研究。27歳で父が社長を務めるジェイ・パックに入社。

豊住大輔(とよずみ・だいすけ)さん(36)
 大分市出身。百貨店勤務を経て、ハイパーネットワーク社会研究所へ。県の委託で研究所が運営していたファブラボの機材を買い取り、昨年4月に開所。

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