時速194キロ事故の公判が開かれた大分地裁=12日、大分市荷揚町
大分市内で2021年2月に時速194キロで右折車に衝突し、死亡事故を起こしたとして自動車運転処罰法違反(危険運転致死)の罪に問われた被告の男(23)=同市=の裁判員裁判は12日、大分地裁(辛島靖崇裁判長)で第5回公判があった。被告人質問があり、男は「アクセルを踏み込んで加速する感覚にわくわくしていた」と猛スピードを出した動機を明かした。
男は20年3月に18歳で運転免許を取得し、同12月下旬、最高速度250キロの中古の外国製スポーツカーを約340万円で購入した。
加速する際のエンジンやマフラーの音が楽しかったと言い、「高速道路で時速200~210キロを3回ほど出したことがある。事故現場を含む一般道では170~180キロで5~10回くらい走った」と述べた。
事故は、友人グループと夕食を終え帰宅する途中だった。「前方に通行車両がいないので、150~170キロぐらい出そうと思ってアクセルを踏み込んだ」と語った。事故の衝撃で記憶が途絶え、194キロまで出したかは「覚えていない」と繰り返した。
検察側は、周囲の車の通行を妨害する認識があったかをただした。男は「自車が直進だと、右折して来ないと思った」と述べ、右折車側がブレーキを踏むと思い込んでいたと認めた。
弁護側は、車の性能や道路の状況などを質問した。男は「以前乗っていた国産車と比べて、速度が高くても普通に走っている感覚だった」「現場は道路幅が広く、信号機の数が少ない。高速度で走りやすかった」と述べた。
被害者や遺族に対しては「取り戻すことのできない大切な命を奪った。申し訳ない」と謝罪し、廷内の遺族を向いて頭を下げた。
公判の争点は、危険運転致死罪の対象となる▽進行を制御することが困難な高速度▽妨害目的の運転―の2類型に当たるかどうか。検察側はこの日、通常は法廷に立たない地検ナンバー2の次席検事が被告人質問をした。
次回は15日、検察側の論告求刑と弁護側の弁論で結審する予定。判決は28日。
■遺族「許す気持ちになれず」
「弟は家族にとって、いなくてはならない存在だった」。事故で弟を亡くした女性(58)=長崎県=は第5回公判で被害者参加制度を利用し、意見を述べた。
5歳年下の弟は大分市内の実家で、両親らと4人で暮らしていた。女性は「弟は40歳のとき、家族のために実家を建ててくれた。離れて暮らす私としては、高齢の両親の世話をお願いする存在だった」と語った。独身だったが、「親しい人がおり、亡くなった後、すごく泣いてくれた。弟には幸せな時間があった」。
女性は事故の数時間後、家族の電話で悲報を受けた。弟は事故の衝撃でシートベルトがちぎれ、車外に投げ出された。対面した遺体は「下半身が複雑骨折をし、火葬後は骨が粉々になっていた」と明かした。
被告の男から謝罪の手紙が届いているものの、「理解できない速度で命が奪われた。許す気持ちにはなれない」と語った。
<メモ>
事故は2021年2月9日午後11時過ぎ、大分市大在の県道(法定速度60キロ)で発生した。当時19歳だった被告の男は、乗用車を時速194キロで走らせ、交差点を右折してきた乗用車に激突。運転していた同市の男性会社員=当時(50)=を出血性ショックで死亡させた。