2025101日()

(2)選手が目標定め自信に

> 練習前に藤野和也監督と目標の確認をする大在中野球部員=2月22日午後、大分市の大在中学校
 ハピカム出演者の別府大短期大学部准教授、中山正剛さん(38)が掲げたミライ宣言は「AI(人工知能)に負けない人材育成」。地域の未来を担う若者や子どもたちの社会人基礎力を高める研究を続けている。研究対象の一つが生徒が主体的にチーム運営をする中学校の野球部だ。
 2月22日、雨。午後4時半、大分市の大在中学校で野球部員(33人)がグラウンドのバックネット裏に立てかけたホワイトボードを見ていた。ボードには、この日の目標と練習内容が書かれている。
 円陣を組んだ部員に同校教諭の藤野和也監督(46)が「今日の目標は何だっけ」と問い掛けた。「試合のイメージで、ぬれた状態を確認します」と全員で目標を確認し、バッテリー、守備、打撃の3部門に分かれて練習を始めた。守備や打撃は15分程度で交代する。投手の三上翔太さん(2年)は「1アウト1、2塁」をイメージし、50球を投げたという。目標や練習内容、効率を高める方法は全て部員の発案だ。
 藤野監督の指導方針は(1)監督は選手に提案する(2)選手を許す、信じる、待つ(3)選手が練習内容や目標を決める(4)試合後に達成点や課題を共有する―の四つ。「以前は押し付ける指導だった」と言う。「部員の実力はあるのに全く勝てなかった」。2017年9月、方針の転換を決意し、知人を介して知り合った中山さんらとチームを組んだ。「毎日、少しでも成果を実感してほしい。それが将来の自信につながるはずです」と静かに練習を見守った。
 午後5時半、1時間の練習が終わった。監督の「どうだった」との質問には「あまり滑りませんでした」「ボールの握りに問題があることが分かりました」と複数の部員が即答した。
 主将の石井寛大さん(同)は「昨年秋の市の新人大会ではベスト8に入るなど、勝てるようになりました。力が付いてきたと感じます」と胸を張る。「クラスの話し合いでも自分の意見を言えるようになった」と話す馬原琉生さん(同)の周りにいた部員たちは「人の意見も聞くようになりました」と声をそろえた。
 この日の練習を見学した中山さんは「本当に能動的で、自由に発言できる仕組みになっている。後は、彼らが社会に出たとき、大人がどう受け入れるかです」と、新たな問題を提起した。

 <メモ>
 社会人基礎力は2006年に経済産業省が提唱し、前に踏み出す力、考え抜く力、チームで働く力の三つの能力と主体性、課題発見力、発信力など12の要素からなる。大在中野球部の練習は、週2~3日を休みにしている。その間、技術・戦術の研究や自主練習に取り組む部員が増えたという。